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Rhodes語らずして楽器は語れまい

私の店は「Honky Tonk Guitars」という店名なのだけれども、”Guitars”と謳いながら今日現在Rhodesを3台在庫している。あと1台、備品でRhodes Stage Mark 1もあるので、合計4台あることになる。

狭い店内なので、当然4台を展示することはできず、2台は展示できているのだが、残りの2台は店頭ではなく店の裏に置いてある。なんとか試弾はできるようにはしているのだが、誠に殺風景なところなので、写真に撮ってお見せすることができるような状態ではない。

なぜ、狭い店にもかかわらず、そんなに場所を取るRhodesばかり置いてあるかといえば、平たくいうと私がRhodesという楽器が好きだからである。Rhodesは今日のデジタルピアノやシンセサイザーのように色々な音色が出せるわけではなく、Rhodesの音しか出ない。(当たり前ではあるが)そういう不器用なところも含め、Rhodesの音色が好きなのである。

Rhodesは、短いタインを叩いて音を出しているので、いくら調律を頑張ってもインハーモニシティがズレるので独特の濁りがある音になる。その割には音の分離はあまり良いとはいえず、複雑な和音を鳴らした時には一音一音がはっきりと聞こえるような楽器ではない。聴音の課題なんかをRhodesでやられたら音大生は泣くだろうな。

ただ、そういうところも含め、この楽器にはこの楽器独特のサウンドがある。濁る和音の感覚や、タッチによって変化する音の感覚はRhodes独特のものである。今日のデジタルキーボードのRhodes音源はなかなか実物に迫るものがあるが、所詮はデジタルで再現したもの(物によってはサンプリングした音源)であるので、実物には敵わない。あの、シンプルなアクションで楽器を鳴らしている感覚はRhodes独特のものだし、Rhodesはセッティングによって色々と音色が変わるのでアコースティックピアノ同様あれにしか出せない音色がある。

今日は、Steve Kuhnの”Trance"というアルバムを聴いている。スティーブ・キューンは結構真面目なジャズピアニストなようで、エレピを積極的にひいたりするような人ではないらしい。アルバムはこれしか持っていないので、詳しいことはわからないけれど、アコースティック・ピアノの音の重なり合いこそ、この人のサウンドを印象付けているものであると感じた。

その彼が、Rhodesピアノを弾いているのがこのアルバムである。

さすが、Steve Kuhn。耳の感覚がすごいのだろう。エレピのボイシングがアコースティックピアノと全然違うのに、彼の音楽になっている。エレピはこう鳴らせ!と言っているような巧みさである。

彼は、テクニックも凄いのだけれど、独特の世界観・サウンドをもっている。私はECMのレコードを普段あまり聴かないし、あまり持っていないのだけれど、このアルバムは時々聴いている。彼の混沌としていながら整った音楽を聴いていると、少しだけ頭が冴えるような気がする。

このアルバムのその音楽作りにRhodesのサウンドは大きく寄与していると思う。

Rhodesといえば、最近はトランペッターのニコラス・ペイトンのアルバムで、ニコラス・ペイトン自身がローズピアノを弾いているのだけれど、これがまた良い。彼の弾くRhodesはどこか都会的で、スティーブ・キューンのRhodesのような空間作りというよりも、もっとエレピ的なカッコ良さ(オシャレさ?)があり、ヒップで渋い。ニコラス・ペイトンの弾くRhodesを聴いていると、音楽とは本来こういうかっこいいものだったのだと改めて感じさせられる。

そんなわけで、ギター屋を営んでいながらも、Rhodesをはじめとする鍵盤楽器の魅力を無視して音楽は語れないと信じている。ハモンドオルガン(Hammond B3!)も大好きなのだが、その話はまた今度。

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