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ロベール・カサドシュの派手すぎない録音が心地いい

ロベール・カサドシュの1964年のアムステルダム・コンセルトヘボウでのライブ盤を聴いているのだが、この人のピアノは彩の豊かさが魅力だと思う。

古典派(モーツァルト、ベートーヴェン)から後期ロマン派(ラヴェル)まで幅広い年代の曲を演奏しているのだが、どの曲も丁寧に上品に演奏されている。1960年のショパンとシューマンを演奏した、同じくコンセルトヘボウでのライブ盤と二枚組になっているのだけれど、1960年のショパンの演奏は、もっとダイナミックではあるがちょっと雑なところがある。

それに比べ、その4年後の演奏ではあるが、1964年の方のベートーヴェンはちょっと地味なところがあるぐらいに感じる。
カサドシュというピアニストについて、私は詳しいことは知らないのではあるが、何年か前にベートーヴェンの皇帝をコンセルトヘボウ・オーケストラと共演しているレコードは持っている。それも、ジャケットの写真がベヒシュタインのE型を弾いているからという理由だけで購入したレコードだった。

その皇帝も、ルービンシュタインの弾く皇帝ほどドッシリ、バリバリしていなくて、どちらかといえばさらりとした(皇帝をさらりと弾くことなんてできないだろうけれど)録音であった。

この1964年の録音のシューマン、私は特に好きである。シューマンというなんとなく陰影のある音楽を、しっとりと聴かせる。これはタッチのコントロールだけでなく、曲そのものをどのように聴かせるかをよく考えないとできない芸当であろう。

ただ、暗いという演奏は他にもある。それだけでは退屈になってしまう。
カサドシュの演奏は緻密とも少し違った(どちらかといえばちょっと雑に聞こえる箇所もある)繊細さで演奏される。

このピアノはおそらくスタインウェイであろうか。コンセルトヘボウにはピアノはなんでもあるだろうから、彼がどんなピアノを選んだのかはわからないけれど、低音がドッシリしていて、高音が力強い凜とした音であることからもおそらくスタインウェイなのではないだろうか。違っていたら教えてください。

ピアノの音がハキハキしているのもシューマンに合っている。スタインウェイはちょっと音が塊になりがちで、音が重なった時にそれぞれの音が聞き取りづらくなるという難点はあるものの、カサドシュのようにきめ細かい演奏をされると、そういうことはどうでもよく感じてしまう。

技術的には、現代の巨匠の方がもっと極めた演奏ができるのかもしれないけれど、カサドシュのレコードのようにちょっと不器用さ(技術はすごいのだがダイナミックさでは現代の録音の方が優れている)すら感じさせる録音は、聴いていて疲れない。

世の中にもう少し、こういうダイナミックすぎないレコード(CDも)がたくさんあればいいのに。

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