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フラット・マンドリンでJazzを。 Tiny Moore & Jethro Burns

今日は厳密にはカントリーミュージックではないかもしれないけれど、とても魅力的なアルバムがあるので、紹介したい。
エレクトリック・マンドリン奏者Tiny Mooreとフラット・マンドリン奏者Jethro Burnsの共演盤、"Back to Back"。

フラット・マンドリンをご存知だろうか。平たくいうと、平べったいマンドリンだ。(紛らわしい表現になってしまった)

マンドリンという楽器はイタリア発祥の楽器だそうなのだが、フラット・マンドリンはおそらくアメリカ発祥だろう。フラット・マンドリンはほぼブルーグラスにしか使われない楽器である。チューニングは普通のマンドリンやヴァイオリンと同じ。ソレラミ、である。

普通のマンドリンは、大学のマンドリンクラブやら、マンドリンオーケストラなんかで使われるので、日本でもたいそう流行った楽器だ。山野楽器銀座本店なんかでも盛んに売られている。そういう、品行方正な楽器なのだ。私の高校の後輩も学生時代にマンドリンをやっていたそうで、同窓会のときにマンドリンの話で盛り上がったのだが、どうも話が噛み合わないと思っていたら、彼は普通のマンドリン、私はフラット・マンドリンについて話していた。途中で薄々気づいていそうなものなのに、そこを突っ込んでこないで話を合わせてくれた彼をみて、マンドリンがいかに品行方正な楽器であるかがうかがい知れた。

対して、フラット・マンドリンは悲しい哉、山野楽器銀座本店では取り扱いがないだろう。(学生フォーク、ブルーグラスの聖地、カワセ楽器には売っているけれど)先ほども書いた通り、ほぼブルーグラスにしか(一部のカントリーミュージックと)使われない楽器なので、国内に競技人口が極端に少ない。こればっかりは仕方ないのかもしれないけれど、もっとフラット・マンドリンを盛んに使うユニットやらバンドなんかが出てきてもいいだろうに。

Jethro Burnsが弾いているのはフラット・マンドリン。それもマンドリンと言ったらGibson、のA-5というモデルだ。このA-5というモデル、高級モデル・レアモデルである。GibsonのマンドリンはA型(シンプルなボディーシェイプ)とF型(凝ったボディーシェイプ)に分かれていて、製造工程の手間から一般的にはF型の方が高級なのだが、彼が使っているA-5は、A型の中では最高級のモデルなのだ。F-5がロールスロイスだとしたら、A-5はレクサスの最高級モデルぐらいか、いやもうちょっと高級かもしれない。(相変わらずのわかりづらい例えですみません)

ギブソンはもともとthe Gibson Mandolin-Guitar Mfg. Co, Ltd.という商号で始めたぐらいだから、マンドリン、それもフラット・マンドリンがメインの会社だった。ギター”も”作っていた会社なのだ。今でもGibsonには凄腕のマンドリン職人が一人いて、F-5マンドリンは年間数本作られている。時々国内市場にも出回ることがある。Gibsonにはどうか、マンドリンを作り続けて欲しい。

対する、Tiny MooreはPaul Bigsbyが製作した、珍しい5弦エレクトリック・マンドリンを弾いている。マンドリンは本来8弦4コース(2本づつユニゾンで張られている)の楽器なのだが、彼の愛機は5弦である。
Tiny MooreはBob Wills & His Texas Playboysのメンバーで、その頃からこの5弦マンドリンを弾いているのだが、一体どういうチューニングになっているのか、全くわからない。

この録音を聴く限り、Tiny Mooreのエレクトリックマンドリンもれっきとしたマンドリンのサウンドがするので、エレクトリック・マンドリンと呼ぶことに文句はないのだが、5弦というのは、どうもこう、なんとなくマンドリンとは違う楽器のような気がする。

それらの、超個性的な楽器を愛用する二人が共演し、Jazzのスタンダードを奏でている。バックを堅めるメンバーがすごい、リズムギターに元Bob Wills & His Texas PlayboysのメンバーであったEldon Shamblin(Fender Stratocasterの最初期のエンドーサーでもある)。彼の愛機は1954年製のゴールドペイントのストラトキャスター、かつてクラプトンが彼に大金をだすから譲って欲しいと頼んだこともある一台である。
このアルバムのベーシストとドラマーがちょっと意外で、凄い。なんとRay BrownとShelly Manneなのだ。

Western Swingの大御所たちと、ジャズの大御所の共演である。そのスウィング感たるやもう。単なるお洒落なアルバムとしても楽しめるし、じっくり聴くとジャンゴとグラッペリのような息のあったデュエットが素晴らしい。
私は、普段フラット・マンドリンにはなんの興味もなかったのだが、このアルバムを聴いたときに、居ても立っても居られなくなって、フラットマンドリンを買いに走ったほどである。
そのぐらい、人をしてマンドリンの魅力に取り付かせる何かが、このアルバムにはある。

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