嘘のような嘘の話

八月。晴天。


クレヨンで描いたような雲とシャープペンシルでひっかいたような雲が空に並べられている。もうちょっと整頓すればもっと入るのに。


久々の晴れなので。少し長い距離を歩いてみましょうか。
雨の日に外を歩いて雨のこと好きになれなかったのですから晴れの日に外を歩いたら雨のこと好きになれるかもわからないじゃないですか。
私も人間ですし、あんまり生きること自体に奇を衒っている元気がありません。心が晴れた気になるから晴れが好き。奇を衒うこともちゃんと好き。


川を橋で乗り越えてひたすらに川沿いを歩く。まっすぐで人がいない。絶好。


この 人 は、誰。?


傘をさして歩いた。日傘。雨傘ですけど。日でも雨でもメープルシロップでもそれらから私を守ってくれる傘に敬意をこめてくるくる回して歩いて差し上げた。つまりは今日私に回された傘は日や雨やメープルシロップなんかから私を守ってくれた傘なのであって雨傘でも日傘でもない。そうして先日そこそこの雨粒をもろに受けた大きな骨の多い傘を差し、風にあおらせ、特有の持ち手の「J」部分に両手首をひっかけて歩いていた。重ねれば引っかかるんです。引っかけるんです。


橋を渡って。


右側の歩道を渡りますね。風は右から左に。真下にある川は左から右側へと流れています。風と川のすれ違いの狭間にいる私。真ん中。「そんなわけがないでしょう」と思いました。3秒だけ、静かにしゃがみ、立ち上がる。そうして、眩む。クラム。立ち眩みですね。
左側の歩道にふと目をやると、黒い服を着た小柄な人の影が入り込んできました。


川を 覗き込んでいる 両の腕を橋の手すりにあげて 両の足のつま先を柵にかけて 体を乗り出して 【これから静止するかもしれない】 動いて見えていた 見えていたなんて言って。本当は危なげもなく止まっていたなんてこと、あなたは一体いつどこの時点地点で認識してしまったの わからないのに。


やめた。


傘の柄に視線を戻し、おかえり。見切り発車。ありました。右腕の隣 手すりの上には実とお分かれしたとうもろこしが一本。芯。いってきます。ようやく追いついた。


追いつかれてしまったので、ので。
数度身体を右へ向けました。ゆるりと。 きれいな芯で。元来この芯こそがとうもろこしであるみたいで。

 芯 の 芯 は 心 で あ る べ き か


右手の人差し指が、それを押しました。いってらっしゃい 視線は下りてはいきませんか。
傘を持ち直しまた少し風をあおります。視界には橋と空、貫く川。真ん中。そんなわけがないでしょうか 落としてしまったからでしょうか 押して差し上げたからでしょうか 押して差し下げたのでしょうか 昇華



きゅ。昇ってきました。昇ってきたみたいです。目の前にはとうもろこし。おかえり。おかえってません、ずっといました。わたしはここにいるよ。わたしはここにいたよ。
2年 国語   くらいの仕上がりに。仕納めに。急ハンドルですか。
さて。これのどこが日記なのかしら。かき氷の氷部分全部作り話じゃないですか。じゃあ残りって何。練乳っている?居る?ですよ。そりゃ要るでしょうよ要りますよねすみませんでしたゆるしていただいて。どなた?             かき氷全部くらい作り話。そういう感じで。何か、なにか、なんか、
ストローのスプーンくらいは、くらいは。らい。 失敬
失敬 って はらう感じしませんか? 詳しく聞かせてとか言わないでいただきたいです
あなたは言うのに。そうですよね だからですか。兼ね。かねがね。

カバンの金具に傘をひっかける。傘の骨が頭に落ちてきて。痛いんですよ。ちゃんと。髪の毛が絡まる。痛いんですよ。さっきの。 痛いんですよ はこっちの先取りです。

傘を上げた。目線も上げた。嘘。右目を左に、左目を右に、向けて広げた。

想像して。今私の両目にはそれぞれ一つずつ扇子が。もうわかりますね。わからなければそれで結構。地面に平行にその扇子、開きますね。ますね、もうやめますね。
目の前。開けた目の前。

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