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アルバイト面接 A子の場合

 これは知り合いのTさんがとある倉庫関係のお仕事をしていたときのお話です。

 あるとき職場でアルバイトを募集することになり、Tさんが採用担当になったそうです。
 その日も一人の20代前半の女性と面接の予定でした。その女性、仮にA子さんとしておきます。
 履歴書を見ながら志望理由や希望日数を尋ねるという至ってどこにでもあるような面接内容。TさんはもちろんA子さんにも失礼のないよう普段通りの質問を行うつもりでした。
 しかし、いざA子さんを目の前にしたとき、Tさんに異変が起きました。

「彼氏はいらっしゃるんですか?」
「その彼とは同棲しているんですか?」
「失礼ですが現在妊娠してらっしゃいますか?」

 仕事の面談を行うどころか仕事に関係のないプライベートな質問がTさんの意識とは関係なくどんどんどんどん口から出てくるのです。

(なんで俺はこんな質問してるんだ?)

 Tさんはそう思い話を仕事内容に戻そうとするのですが、どうしても口から出るのはA子さんへのプライベートに関する質問ばかり。
 しかし意外にもA子さんは嫌な顔を見せず、真面目に答えてくれたのだそうです。

「彼氏はいらっしゃるんですか?」

はい

「その彼とは同棲しているんですか?」

同棲はしてますが、最近は倦怠期です

「失礼ですが現在妊娠してらっしゃいますか?」

していません

 A子さんから妊娠はしていないと聞いたTさん。そこからさらに不可解なことは続きます。

 A子さんは妊娠してないと言っているにも関わらず、中絶した場合の母体へのリスクや精神的な影響など、また思ってもいないのに言葉が次から次へとTさんの口から懇々と溢れていくのです。

(だからなんでこんなこと言ってるんだろう!)

 しかしまたしても失礼極まりないTさんの話をA子さん真面目に聞いていたのだそうです。

 幾度となく脱線しつつもなんとか面接を終えたTさん。
 このあともA子さんの身に何かあっては…という心配を何故か抑えることが出来ず、なんと自宅まで送っていったのだそうです。
 Tさん曰く、話すことも送ることも自分の意思とは関係なく、まるで体に別の何かが宿ったかのように勝手に動いて止められなかったのだとか。そして興味がないと思いながらも

(知っておかないと、説明しないと、守らないと)

という気持ちも混在していたそうです。




 後日、A子さんは採用となりTさんは彼女に電話を掛けました。

「面接の結果、採用となりましたが……働けそうですか?」

実は面接のあとTさんの言っていたことが気になって検査をしたら妊娠していました。そして彼と話し合って結婚することになったので、申し訳ありませんが辞退します。
ありがとうございました。

 あれだけ不躾な面接をしてしまったのですから、嘘も方便かもしれません。
 しかし、Tさんの意思とは関係なく発せられた言葉や行動を考えると、あのとき既にA子さんのお腹の中に宿っていた新しい命が彼の体を借りてお母さんに「生きたい」と伝えたかったのかもしれません。

「あのあとA子さんや赤ちゃんがどうなったのか、幸せになったのか不幸になったのかは分からないけど、とりあえずお腹の子の意思はあのとき伝わったみたいだよ。本当に稀に自分の意思とは関係なく俺、ペラペラ口から言葉が出ちゃうことあるんだよね。そして不思議と当たるのよ」

 Tさんは笑っていました。
 彼曰く親密度は関係なく、タイミングと相性なんだそうです。

ー了ー

※本作品は実話を元にして構成されています。
 本作品に登場する人物・地域等は一部フェイクを入れていますが詮索するような質問は受け応え出来ません。

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