見出し画像

便利になった?? 色留袖

そのキモノがナニモノか、私は常に知りたいと思う。
正体がわかっていれば自信を持って着られるからだ。
着崩すにしろ、わかってやってるのと知らないままやってるのは全く違う。

————————
10年ほど前。骨董市でキモノ売りをしていた。
友人が、習い事のお師匠をなさっていたお母様の、だから山ほどあるおキモノを一部整理することになり、共通の友人である古道具屋が引き受けた。豪勢なおキモノがそれはもうたくさんたくさん。まさに眼福。
その中に、その青い友禅はあった。

抑えた色合いで、でも華やかで優しげなそれは素敵な更紗柄で、なんども着たようなこなれ感があり、伊達襟付き、ひとつ紋。ああ訪問着だなと思った。季節感もなくて便利そうだ。常連の若い女の子がそれを気に入って、早速試着…
…あれ? 上半身に柄がないよ??

「これ、もしかして留袖…?? ひとつ紋なんだけど」
「え、色留だったら三つ紋つくんじゃない?」と店長。
「…ですよねええ。でもなあ」

今、検索すると「色留の訪問着仕立て」はたくさん出てくるが、その頃が多分はしりだったんだと思う。ネットにほとんど情報がなかった。私も店長もそんなものがあるとは知らなくて、なんだこりゃ?と。
家に帰ってから山ほど検索をかけて「色留の訪問着仕立て」を紹介してる呉服屋のサイトを見つけ、やっと確信が持てた。色留袖だ。だけど比翼仕立てじゃない。格は訪問着。

菊金7のコピー

★訪問着仕立ての色留袖の主な特徴
 比翼がない
 ひとつ紋
 共八掛(じゃないのもある)
 上半身に柄がない(これが見た目で一番わかりやすい訪問着との違い)

訪問着扱いで着られるものだとわかったので、お客さんにその説明をした。
使いでのある一生ものだ。しかし知らない人にわからないまま売らなくて、本当に良かった…!
知らないものはまだたっくさんあるので日々勉強。

鶏帯うしろ

画像はアンティークの色留袖を、コスプレ客の多いパーティに着ていったもの。掟破りの染め帯に柄足袋。行き帰りは羽織を着た。

—————————
誰が仕掛けたのか、今、色留袖が礼装として売れているらしい。
色留なんて、黒留より縁がないと思っていたのに、こっちは私もいくらでも着られるらしいのだ。結婚式は訪問着でいいんじゃあなかったの?

黒留袖はなぜ使えないキモノになってしまったかhttps://note.com/coton815/n/n13b40a8b9470
で、黒留袖の衰退について書いたが、黒留駆逐しておいて、色留はお友達の結婚式に着ていいんだと。五つ紋でも三つ紋でもひとつ紋訪問着仕立てでもいいんだと。さらにひとつ紋の訪問着と付け下げが同席できるのだ。格の違うものを「どれでもいい」なんて、本当はすごく矛盾してる。決まり事よりも訪問着の利便性の方が重要とみなされたグダグダの結果だ。みんな決まりごとと聞くと怯えるのに、運用する側はあんがいご都合主義。それを知った上で、どれを着ようか選ぶなら、誰にも文句は言わせないよね。

古典のコピー

色留袖は、五つ紋つけて黒留と同格。三つ紋までは比翼仕立て、ひとつ紋は比翼をつけない訪問着仕立て。さらに紋もつけないで洒落着にもすると。式服なのに無理やりカジュアルに下ろすなんてなんだか乱暴な話、誰がそんなことするんだろ、と思っていたら数年後、別の友人のお母様の無紋色留をいただくことになって苦笑い。とても美しいキモノだが、どう着たらいいのかわからず身内に引き取り手がなかったらしい。お母様にどうしてこれを作ったのか、どこに着て行かれたのか伺いたかったなあ。

月兎耳庵

サポートいただければ嬉しいです!勉強やイベント出展資金にさせていただきます。キモノ沼をもっと深く広く!