コトバでスケッチ5 「大人 大変」
※一枚絵のイラストスケッチ的な感じで、小説のワンシーン風の文章を書く描画力のトレーニングです。
物語の構想があるわけではないですが、いずれ今後の作品に組み込むかもしれません。
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食堂の引き戸はカララと抵抗なく開いた。
時間はおやつ時で、暖簾も外にかかっていたのに店内は電気が消えている。窓から差し込む陽の光が、窓枠やらテーブルやらに遮られ床に不気味な陰影を作っている。
ばあちゃんの家で過ごす夏休み。小さな島の小さな家にはテレビゲームも漫画もなかった。
でもその時、大好きだった釣りをして過ごせるので僕は夏休みの全てをこの小さな島に捧げても大変満足だった。
この食堂には釣りの帰りに必ず寄る。お小遣いをもらった時は自分で何か食べる。でも大抵の場合は、海釣りの塩水でベタベタになった手を洗わせてもらうために寄るのだ。
その日もいつも通り、奥の水道で手を洗ってサッパリした手で帰る。そう、いつも通りがあると思っていた。
でも、その日の食堂はなんだか暗かった。
誰かいないのかな、勝手に水道使っちゃダメだよね、でも誰もいないならそれでもいいかな。
「どうしたの?」
僕の思考は、奥のテーブルに座っていたお店のおばちゃんに声をかけられて中断させられた。
全然気づかなかった。……この人、いつものおばちゃんなの?
おばちゃんは、いつもすごく明るく声をかけてくれる人だった。その日はなんだか、すごくくたびれた感じだった。
「何か食べる?」
答えない僕におばちゃんは言葉を続ける。
「うぅん、手洗わせてほしくて」
「……そう。どうぞ」
何かあったのかな? なんて思いやるゆとりもなく、僕はただ怖かった。
いつも明るいおばちゃんなのになぁ。ただただ手前勝手なことだけを考えながら水道を借り、そそくさと店を後にした。
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