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次の世代を応援するための法人COTEN CREW | 田中 宏和 × 深井 龍之介・楊 睿之(ヤンヤン) 

法人COTEN CREWになってくださった企業の方々へのインタビュー、今回は株式会社クリーチャーズです。お相手は、日本を代表するゲーム音楽クリエイター・田中宏和さん。テレビゲーム世代で、大学時代は音楽サークルにも入っていた深井との音楽談義は、やがて「世代」というテーマに向かいます。

田中宏和(たなか・ひろかず)さんプロフィール:
株式会社クリーチャーズ代表取締役社長。ゲーム音楽クリエイター。1980年に任天堂に入社以降、『スーパーマリオランド』、『MOTHER』・『MOTHER2 ギーグの逆襲』(鈴木慶一さんとの共作)、テレビアニメ『ポケットモンスター』の主題歌など、数々の楽曲を手掛ける。

深井の人生は二度揺さぶられた

深井 龍之介(以下、深井):ゲーム音楽の世界では知らない人がいない田中さんもCOTEN RADIOを聞いてくださっていることを知り、非常に嬉しかったのですが、どういったきっかけで聞き始めてくださったのですか?

田中 宏和さん(以下、田中):石原さん(※株式会社ポケモン代表取締役社長)に薦められました。僕は特に歴史好きというわけではないんですが、若いころに、西洋史学者の阿部謹也さん(1935年~2006年)の本をよく読んでいた時期があり、そのころを思い出しながら聞いています。あと、聴覚型のメディアというのも良いですね。

深井:聴覚型メディア…ラジオということですか?

田中:そうです。目で見なければいけないYouTubeと違って作業しながら聞くことができ、一本一本の長さもちょうどいい。あと、「COTEN RADIO」という名前がいいなぁ、と。「コテン」って言葉は切れも、響きもいい。歴史がテーマなのにカジュアルな感じがありますし…。

深井:おおー、さすが音楽の人というか…。

田中:そういえば深井さんは、マリリン・マンソンがお好きだとおっしゃっていましたね。

深井:僕、人生で心の底から衝撃を受けたことが二度あるんです。二回目が歴史というか社会科学との出会いで、それは今の僕に直接繋がっています。では一回目に衝撃を受けたのはいつかというと、高校一年生でマリリン・マンソンを聞いた瞬間なんです。今でも覚えていますけど、熱に浮かされたように1日8時間、マリリン・マンソンを聞き続けていましたね。

田中:今もベースギターを弾かれているのはその影響ですか?

深井:はい。でも、プレイヤーとしては何もできなかったですね。恥ずかしながら大学時代は音楽サークルに入っていたんですが、今思うと理想が高すぎたんですよね。理想にまったく届かないので止めてしまいました。最近、また趣味で弾き始めていますけれど。

田中:(メタルバンドの)コーンの話もされていたような…。僕は基本レゲエが好きですが、音楽性の全く違うコーンのようなバンドも好きなんですよ。

深井:コーンがお好きなんですか! 嬉しいな。僕はティーンエイジャーの時にコーンが流行っていた世代で、ドンピシャなんですよ! コーンって…(以下、音楽談義が続く)。

文化は「子ザル」の遊び(興味)からはじまる

深井:ええと、話を戻しますね(笑)。田中さんが、法人COTEN CREWになってくださった理由はなんだったのでしょうか?

田中:次の世代への応援…ですかね。

深井:次の世代?

田中:ちょっと話は逸れるんですが、宮崎県の幸島という場所のサルには、イモを海水で洗って塩味をつけて食べる文化があるそうなんです。イモ洗いみたいな新しい文化は子ザルから始まって、徐々に群れ全体に伝わっていくらしいんですね。そこが面白いと思いました。新しいことをやるのは子ザルなんですよ。大人のボス猿は一番最後。

深井:なるほど、子ザルが最初に新しいことを試すんですね。

田中:そうなんですよ。で、実は人間の文化も同じだと僕は思うんですね。前の石原さんとの対談で、石原さんが「投資にリターンを求めない」とおっしゃっていた話があったじゃないですか。子ザルや人間の若者の行動も似ていて、予想しやすいリターンを求めない点に特徴がある気がするんです。

深井:なるほど、とりあえずやってみる、という感じですか。

田中:そうです。子ザルは単なる遊びでイモを洗い始めたわけで、リターンは求めていなかったはずなんです。それが群れ全体に伝わって重要な文化になった。人間の文化もそうやってはじまるんじゃないかな?

深井:なるほど、たしかに。

田中:今の深井さんやCOTENは、未来は簡単に予測できないけれど、まさに、そういうスタート段階の重要な時期におられるのでは?と思うんですね。新しい世代の若い人たちが、こんな事をやってみたい、という強い衝動があって、損得勘定なく、リターンを求めることなく、新しいことにチャレンジする。僕は法人COTEN CREWになることで、今まさに新しいことに挑んでいる深井さんたちを応援したいんですよ。

深井:ありがとうございます。

ゲーム界の黎明期

田中:かつての僕たちも、「テレビゲーム」という新しい文化にチャレンジする「子ザル」たちでした。僕が1980年に任天堂に就職したときには、作曲家ではなく音のエンジニアとして入ったんですね。それで、会社に入ってからコンピュータの本を読んで、ゲームサウンドの基板を作るようになったんです。最初は本当に「ピー」とか「プー」とか鳴らしている感じでしたが、ファミコンが出てからは曲も作るようになりました。

深井:へえー、僕が生まれたころの話かな。ゲーム音楽の黎明期ですね。

田中:そのうちゲーム音楽の表現の幅も広がっていきましたけれど、初期は「音楽」という意識はあまりなかったですね。あくまで会社の商品で、遊園地のメリーゴーラウンドで鳴っている音楽みたいなイメージです。なので、当時、ゲーム音楽という言葉はありませんでしたが、あまり重要な仕事とも思わず気楽に考えていました(笑)。

深井:それが今の僕らの世代にとっては、「ゲーム音楽」がもうひとつのジャンルになっていますよね。しかも世界的に。

田中:そうです。世代を経ることで、文化になったんですね。

深井:ちなみに、一番印象に残っているタイトルはなんですか?

田中:うーん、なんだろう…。

対談を見ていた石原恒和さん:メトロイドはどう?

田中:ああ、メトロイド!今もなお、ファンの方達から、特に海外からの反応がたくさんあり、驚いています。

深井:ゲーム音楽に興味がある人なら、世界中の誰もが知ってるタイトルですよね。あと『スーパーマリオランド』に『MOTHER』に、ポケモンのアニメの音楽に…。歴史的なお仕事を手掛けられてきたんですね。

田中:『MOTHER』は鈴木慶一さんとの共作ですね。

石原恒和さん:グラフィックは私です(笑)

田中:あ、そうでしたね(笑)、当時石原さんが作られた戦闘シーンのエフェクトをビデオに録っていただき効果音を制作した事を覚えています。で、そういえば、はじめて石原さんと会ったのもここ(六本木)でしたね。ゲームのイベントで故・すぎやまこういちさんと対談したんですが、そこにたまたま石原さんが来られていて、イベント後に石原さんが当時通っておられた水泳教室のプールサイドでニンニクの丸焼きをつまみにビールを飲んだ記憶があります(笑)

深井:とても鮮明な記憶ですね…。いつのお話ですか?

成熟によって弱くなることもある

田中:30年くらい前かな。石原さんがポケモンを作る前も自分が東京に来るたびにお会いしており、三宿のバーでポケモンカードゲームの構想を聞いたことを覚えています。『Mother』の後だから、93年くらいかな?あの頃のゲーム作りは、今と比べると本当に小規模でしたね。

深井:黎明期から世界的コンテンツに育て上げるまでを見届けるのは、本当にすごいですね。なかなかできない経験です。

田中:ゲーム業界も変わりました。今はものすごい人数で、データに基づいて組織的に作るようになっていますよね。ゲームの作り方もガラッと変わりましたよ。それは決して悪いことではなくて、つまり、文化として成熟したということです。一つの世代が終わったといってもいいのかな。

深井:巨大産業になっていますからね…。

田中:ただ、成熟することがなんでもプラスかというと、違うと思うんです。経験は持ち手を縛って、弱くすることもあるからです。

深井:というと?

田中:たとえば僕は、キーボードで作曲するときに、使える指を制限することがあるんですね。人差し指と薬指は使わない、とか(笑)。すると、その制限によって、自分の経験というか縛りから自由になることができる。

深井:へえー!そんなことをされてるんですか。

田中:逆に、若い人は経験から自由な分、新しいことを前に進める力がありますよね。今のCOTEN RADIOは新雪を踏み進むような、そんな段階なのでは?と感じています。だから僕は、成熟したゲーム産業とは別の世界で新しいことをやろうとしている深井さんたちに魅力を感じて、法人COTEN CREWとして応援させてもらってるんですね。

深井:ありがとうございます。しかし、COTEN RADIOがテレビゲームみたいに数十年も続くかなあ…。

楊睿之(ヤンヤン):30年後には忘れられて、歴史になっていますよ!

田中:それはどうでしょう(笑)。ゲーム音楽だって、僕が深井さんくらいの年齢のころには「ピコピコ」なんて言われていたのに、今や世界中の人を感動させるコンテンツになっている。不思議な気がしますけれど、歴史ってそういうものかもしれませんよ。


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