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なぜビジネスパーソンに人文知が必要なのか?

コテンの深井です。
今回も友人のけんすうさんに、口頭記述して貰い記事を書きました。
読みやすく書いて貰ってるので是非最後まで読んでね。
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僕はよく「ビジネスパーソンに人文知が絶対に必要だ」という話をしているのですが、なかなか言いたいことを伝えるのに苦労をしておりまして・・・。

ここで改めて記事として

  • そもそも人文知とは何か?

  • なぜ人文知が重要なのか?

  • なぜ人文知がビジネスパーソンに必要なのか?

などを書いてみたいなと思います。

人文知とは何か?なぜ必要なの?

人文知とは何か?

人文知とは何か?というのは実は難しい話です。人によって定義が違ったり、言っていることが異なっている場合もあります。

例えば、「歴史や宗教などから、どう生きるべきかなどを知るための教養」、という説明をされることもありますし、「世界がどういうものかを読み解き、自らの認識を再構築する知のことだ」という説明がされることもあります。

個人的には、人文知とは、「人間とは何か?」ということを、そもそも論で考えることに必要な知恵や知識のこと、だと考えています。宗教や歴史、哲学、社会、文化などが人文知の要素として語られることが多いのは、それらの学問は人間とは何か?を考えるのに、もっとも役に立つ分野だからです。

人間とは何か?を考えると、この社会は何か?どう成り立っているのか?などもわかってきます。

僕が砕けた説明をする時には、「世界を認識する時のフレームワーク」とか「世界を認識するときの思考のOS」と言ったりします。要は、何かを見たときに、それぞれの個人が完全に自由にゼロベースで解釈しているわけではなくて、多くの前提のもとに解釈している、と言うことですね。

日本に住んでいれば、公共の場で誰かが誰かを殴っているのを見たら「なんて悪い人なんだ」と思う人が多いと思うんですが、別の時代の別の国に行ったら「自分の尊厳を守るためには暴力を使うことも必要だ」と思うかもしれません。このような違いがあるのは、世界を認識するときの前提の見方が違っているからなのです。

これは「世界観」と言う言葉でも表現できると思いますが、世界観の話は、後ほど説明します。

では、「人間とは何か?をそもそも論で考える」と何が得られるのでしょうか?正直、「そんなことを、そもそも論で考えるよりも、もっと役にたつスキルとか、専門知識を手に入れた方がいいのでは」と思った方も多いのではないかと思います。

特にビジネスパーソンの方からしてみると「そんなところまで戻って考えるよりも、今すぐに仕事に使える知識が欲しい!教養が大事なのはわかるけど、日々の仕事が忙しくて、とてもじゃないけど、そんなのを学んでいる暇ないよ」というのが本音でしょう。

この気持ちはとてもわかります。しかし、忙しいビジネスパーソンでも、優先的に学ぶ価値がとても高いのが人文知だと思っています。

以下で、簡単に説明しますね。

人文知を学ぶと何が得られるのか?

人文知を学ぶと何が得られるのか?を一言で言うと、「私たちが、社会や自分をどのように捉えているのか?」をメタ認知することができるということです。

※メタ認知とは、「自分の認知活動を客観的に捉える」くらいの意味です。

例えば「自分自身のことをどう捉えているか?」、「社会をどう考えているか?」「自分と他者をどういうものだと認識しているか?」などですね。

言い換えると、「今の自分たちの世界観を司っているもの」が人文知とも言えます。少し難しい言い方になりましたが、要は、今の自分たちが、どのように世界を見ているのか?というのが「世界観」です。

この世界観を、人文知を学ぶことで、理解することができるわけですね。

「いやいや、自分たちがどう世界をとらえているかなんて、当然知っているよ」と思うかもしれませんが、意外とそうでもないんです。

私たちは、今ある世界観を「人間に本来備わっている、当たり前の常識」と捉えてしまうのですが、そんなことはありません。例えば、人権という概念もたかだか数百年前のフランス革命の時からですし、民主主義も歴史の浅い考え方です。そもそも民主主義ではない国の方が世界には多いわけです。

例えば私たちは「命は大事だ」、と言う概念を持っていると思いますが、これも一つの世界観にすぎません。命が大事でない時代もたくさんあります。

他にも、同性愛が当たり前の時代もあれば、忌避される時代もあるし、親が子供を無条件で愛する、というわけではないシーンも歴史を見ていると良くあります。(そもそも、子供という概念自体、比較的最近までなかったという言説さえあります)。

このように今、自分たちが「どのように世界を見ているのか」というのを自覚するためには、歴史や哲学を学ぶのが一番早いです。つまりは、人文知が必要になるわけです。逆にいうと、人文知がなければ、自分が持っている世界観を理解することができません。

なぜ必要なの?

ここまで読んで、「今、自分が世界をどう捉えているのか?を知るために人文知が有効だと言うことはわかった。でもそれって今すぐに必要なの?」と思う方も多いでしょう。

それよりも、今、目の前にある「AIについて学ぶ」などの方がよほど有意義ではないか、と言う気持ちはとてもわかります。

しかし、個人的には「今の時代は、人文知の重要性がとても高まっているとき」と思っています。

それはなぜかと言うと・・・。人文知が最も必要とされる時は、世界観が新しく生まれるときだからです。

世界観が新しく生まれ、そして今ある世界観から切り替わるときには、人文知が重要になります。なぜなら、そういう瞬間には、

  • 今までの世界観の見方を知っている必要がある

  • その上で、完全に新しい「世界の見方」が必要となる

からです。

今までの世界観を知らなかったら、新しい世界観の見方は「常識はずれの変なこと」にしか聞こえませんし、もしかしたら「単なる危険思想」に見えてしまうかもしれません。

例えば、「AI政治家が出てきて、国家運営はすべて、個人の利益を優先しないロボットがやるようになる」みたいなことが起こると、「昔は人間が政治をやってたんだって」「え、やばくない?だって、人間だったら絶対自分の感情とか、自分の利益のために動くじゃん。そんな政治うまくいくわけないよね笑」みたいになるかもしれません。

今の私たちからみると「AIが政治をやる」と言うのは世界観に入っていないので、なんとなく違和感を感じたり、よくないと思うかもしれませんが、これを、単なる感情の反射で判断するのではなくて、人文知を学んだ上で、今の世界観を把握し、その上であたらしい世界の見方をすることで、より精度高く判断ができるようになるわけです。

ビジネスパーソンにも人文知が必要なの?

ここまでで、人文知が何か、そしてなぜ重要なのか、と言うことはなんとなくわかってもらえたと思います。

しかし「でも・・・そんなのは学者や政治家、経営者が考えることで、一人のビジネスパーソンにとって必要なの?」と言う気持ちは残っているのではないでしょうか。

そこで、以下から「ビジネスパーソンこそ、人文知を学んだ方がいい」と言う理由を説明します。

現代はどんな時代か?

「人文知は重要だ」と言いつつ、僕は「常に人文知が必要だ」とは思っていません。どちらかというと、今がどんな時代か?と言うのと密接に関わっていると思っています。

上記で書いたように、「世界観が新しく生まれ、そして今ある世界観から切り替わるとき」こそが人文知が重要になる時です。

じゃあ、今の時代はどうなのか?というと、一言で言うと「歴史上、もっともスピードが早く変化している激動の時代」と言えるでしょう。

「激動の時代」そのものは、いつもあります。いつだって激動の時代と言っても良いでしょう。しかし、今のこのスピードほど早く変化している時代はないのです。

古代だと、世界が変わるのに300年かかってたのが、中世だと150年単位、とかだったのが、今では20-30年くらいで常識が書き変わったりしています。個人的には、これにはコミュニケーション技術の発展と密接な関係があると思っています。例えば、中世では、一つの事件の伝達に3ヶ月とかかかっていたのですが、今ではほぼリアルタイムに共有されます。伝達スピードが桁外れになっているわけですね。

変化のボトルネックは認知

このように「情報の伝達スピードが桁外れに早くなっている」という状態では、ボトルネックは完全に「人間の認知」になっています。

中世だったら、海外から日本へ情報伝達などは数ヶ月から数年単位かかってたのが、今ではブラジルの情報が1秒で届いたりするわけです。そうすると、情報の伝達スピードよりも、情報を知ってそれをどう処理するのか、何を考えるか、バイアスをかけずにどう認知するのか?など、情報を受け取る側の人間の問題の方が大きくなるわけです。

その時に、人文知を知らないでいると、そもそも自分がどう認知しているかどうかもわからないですし、新しい見方をしようと思ってもできません。例えば、「ロシアがなぜウクライナに攻めているのか」ということも「ロシアが悪い奴らだから」とだけ判断するのか、それとも歴史的経緯と、地政学的な知識と、プーチン大統領が持っている世界観を理解した上で判断するのかでは、雲泥の差があります。

政治だけではなくて経済も同様ですし、経済でも世界全体の経済と、読者の方の業界の話の両方で必要になります。情報が伝わってくる速度が早く、世界の変化のスピードが凄まじい今、「情報をなるべく早く取得する」と言うことにはあまり価値がありません。むしろ「情報を受け取った時の、自分の認知の精度を上げる」ことの方が大事なんです。

ビジネスのOSだけでは社会を変えられない

僕が観測する限り、ビジネスパーソンで多くやりがちなのが「すべてのことを、ビジネスのOSを使って理解・解決しようとする」と言うことです。

有名なビジネスパーソンが政治の世界に足を踏み入れたりすることがありますが、「仕事での考え方ややり方を導入すれば効率的になる」という考え方で入ると、うまくいかなかったりします。ビジネスのOSと政治のOSはおそらく全く違うので、世界観が違いすぎて軋轢を産んでしまってたりするのかもしれません。

おそらく、現代社会において、最も力を持っているのはビジネスパーソンだと思っています。そのビジネスパーソンが、ビジネスのOSしか持っておらず、その世界観を当たり前の常識だと思ってしまっているより、人文知を学ぶことで、自分の世界観をメタ認知し、幅広い世界観の見方を持つことで、経済活動だけではなく、政治や社会に対しての、さまざまな活動の水準を引き上げることができ、結果的に社会にとって、良いインパクトがあるのではないか?と思っています。

我々には主権があるので人文知が必要

現代日本においては、民主主義がベースになっています。民主主義についてはコテンラジオで解説しておりますので、ぜひご覧ください。

https://www.youtube.com/playlist?list=PLIjh6KwR4APlPdGDu2938hHmsXF5UoMkJ

民主主義においては、主権は国民にあります。封建制社会では、「生まれによって、自分の将来が完全に決まっている」と言うことはよくありましたが、今の日本では、自分の人生は自分で決める必要があります。

「自分の好きなこと、やりたいことを自分で見つけて決めよう」とか「得意なことにフォーカスしよう」などですね。これは教育でも、メディアでも繰り返し言われていますが、これはかなり大変なことです。

フランスの哲学者である、ジャン=ポール・サルトルは「自由の刑に処せられている」と言う表現を使いました。あまりに自由すぎると決めるのが大変すぎるというのはもはや説明しなくても皆さんお気づきだと思います。

逆に言うと、他人や環境が自分の人生を決められるのであれば、人文知は必要ありません。封建主義での身分で決められるなどもそうですし、民主主義下でも「良い大学に入って、大企業に入るのがいいよね」と言うのが正解とされているのであれば、自分で決めなくてもよかったりします。

でも今はそうではない。だから悩む人が多くいるわけです。

答えを求めようと本屋にいくと、たくさんの「答えが書いてありそうな本」がおいてありますが、基本的には答えが外部にあることはありません。前述の通り、激動の時代であり時代のスピードが早すぎるというのもありますし、未来を予測するのは不可能に近いからです。

なので、僕の意見としては、人文知を学ぶのが一番マシでは?という感覚ですね。それも、「あなたの人生の問題は人文知を学ぶことで解決しますよ!辛いことから解放されます!」といったような、自己啓発的なポジティブなものではなく、現代社会における必修科目に近いような感覚です。

今までの歴史を見ても、人文知が求められる人なんて、ごくごく僅かな人たちだけでした。自分で何かを決定するシーンなど、そこまで多くなかったからです。しかし、現代では、あまりに自分で決めないといけないので、多くの人が人文知を必要としているという感覚があります。

繰り返しになりますが、自分の人生を自分で決めないといけないのであれば、人文知を学び、自分がどのように世界を見ているのかを知らないといけないからですね。自分の持っている世界観をメタ認知しないと、見える世界が狭すぎるからです。

まとめ:ビジネスパーソンに必要な理由

ここまでの「ビジネスパーソンに人文知が必要な理由」をものすごく雑にまとめますと、

  • 激動な上に変化スピードが早い現代で、人生のゲームルールがコロコロ変わる中、自らの判断を手助けするコンパスのような役割を、人文知が果たす

  • 社会情勢が頻繁に変わる中、先人たちが考え尽くした思想や、過去の人類が起こした過ちを理解した状態で判断が出来るのは、理解せずに判断するよりずいぶんと良い結果をもたらす

  • 同じく、ビジネスのゲームルールも驚くほど変わっていく中、自分と社会に対する理解と解像度を上げたり、複数の視点で見つめることが出来るようになることで、長い時間軸で見ても価値があるようなビジネスが出来る可能性が高まる

  • 現代人は自由の刑に処せられているので、人文知が得意だろうが苦手だろうが、ある程度の計算が出来ないと困ると同じように、一定勉強するしかない(必修科目)

あたりになります。

現代社会でもっとも重要度が高い層であるビジネスパーソンが変わることこそが、もっともスピード早く世界を良くすることにつながると思っています。

何から学ぶべき?

ここまでで、だいたいビジネスパーソンにこそ人文知を学んだ方がいい理由を書きましたが、そうすると「じゃあどこから学んだらいいんだろうか」と不安になる方もいると思いますので、簡単に僕の提案を書いておきます。詳しくはまた後日、記事にするかもしれません。

個人的に、一番入りやすいのは、やはり歴史だと思います。哲学や心理学などもありますが、歴史が一番、学習の敷居が低いと思います。

歴史だと、まずストーリー的に理解ができるというのがあります。哲学書などを読むのは辛くても、歴史だと流れがありますし、個人にフォーカスをすることで感情移入しやすいというのもあります。

ただし、注意としては「ストーリーを楽しくさせるためのエンタメ作品」だけを学んでもあまり意味がないということです。歴史物のエンタメは、あくまでエンタメなので、構造的な理解を削ぎ落としてたりすることが多いからです。

昔の話を描いているのに、やたらと現代的な人権概念を持っていたり、自由の概念を持っていたりということもあります。それだとあまり意味がないんですね。我々が持つ世界観や、どういうふうに人や社会を見ているのか?というのに気づけなくなります。

人文知から学べる大きなものの一つとして、複数の視点を持つことというのがありますが、それが得られる歴史の情報から入るといいんじゃないかと思っています。

僕らがやっている「コテンラジオ」は、まさに人文知として、歴史を学べるようにしつつ、なるべく初心者でも敷居を感じないようにやっているものなので、興味ある方は是非とも聞いてみてください。

おわりに

というわけで、ビジネスパーソンこそ人文知を学んだ方がいい理由を書きました。

ビジネス知識はあるけど、人文知についてあまり知らない、と言う人ほど「民主主義の問題はここだ」とか「人生はこうだ」と言う、自分なりの理論を発言したりしてしまいがちですが、この辺りの話は、ほとんどが過去の天才たちが散々考えて議論していたものに遠く及ばないケースが多くあります。

今言われている民主主義の問題なんて、ダレイオス一世がすでに述べているようなことだったりします。ダレイオス一世は紀元前500年とかの人なので、同じような議論をするより、過去の天才たちによる思考を学んだ上で議論した方が良いですよね。

歴史の最先端にいる私たちは、それらを学ぶことで、天才たちの思考の上で議論をすることができるわけです。

「仕事に関係ないから」で人文知を学んでこなかった方は、是非とも学んで見ることで、新しい視点を手に入れ、メタ認知できるようにして欲しいなと思っています。