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自慢の弟は一番最後 25話


オリックスに逆転で勝った日の夜...



○○:ふぅ...


ホテルに戻り、ベランダから深夜の大阪の風景に想いを更ける



頭に出てくるのは...
自分が打った2本のホームラン

ではなく...


5回裏の守備のエラー



ボールのファンブル

回転から予測はできた...
ただ、そこへの反応が遅れた


あのコンマ何秒ってスピードで自分の行動を決断しないといけない

実際に、イレギュラーな回転であることはなんとなく感じていた
ただ、そこに迷いがあったんだと...
試合が終わった今、自分を振り返るとそう思う


そして...



今日の試合で一番悔やむのは…
あのミスの後の1塁への送球ミス


これは完全にメンタルの問題

最初のミスに動揺してしまった
完全な準備不足




はぁ...情けない




プロ野球選手であるんだから、自信を持ってプレーすることが、もう前提条件

わかってる....わかってるって



でも...
自分が嫌になるんだ

あんな低調なパフォーマンスを続けてると....
もうここには居れなくなるって



そう思えば思うほど、嫌になってくる



だから、2流であると...
まだ自分は"プロとアマの間"であると、

そう思ってしまう


元々そんなにポジティブな性格ではないからさ…
プロ向きなメンタルではないのかもしれない

でもそれが自分だから
この性格をいかに上手く使いながら、この世界で生き残っていくか

もがきながら探っていかなきゃね…
今はそれで苦しくなっても…



そんな一人反省会を脳内で開いていると…


ピコン


○○:...ん?



あやめL:○○、おつかれ



あやめか...


○○L:おう、ありがと


ピコン


あいつ、返信早いな...笑



あやめL:電話、してもいい?

○○L:いいけど....



どうしたんだろう....




ピリリリリ



○○:もしもし

あやめ:....

○○:あれ?あやめさ~ん?

あやめ:グスッ



あれ?もしかして、あやめ泣いてる?



○○:どうした?あやめ

あやめ:...ごめん

○○:あやめが謝るようなことあったっけ?笑

あやめ:...

○○:どうしたのよ
あやめが泣くなんて珍しいじゃん

あやめ:...思ったより元気そうだね

○○:...まぁね

あやめ:今日、見てたよ

○○:....そっか

あやめ:....強く、なったね

○○:...ううん、俺は弱いまま

あやめ:そんな人が、ホームラン2本も打つ?

○○:あれは....


言葉に詰まる
あれはただ開き直っただけだから…

自分が強くなったわけじゃないから…



あやめ:....和は?なんか言ってた?


○○:ううん、まだ何も連絡ない

あやめ:そっか....
今日ね、さくちゃんと一緒に見てたんだ

○○:マジで?

あやめ:うん

○○:そっか...

あやめ:さくちゃん、感動して泣いてたよ?
(ほんとは自分だけど...笑)

○○:そっか...
それは嬉しいような、恥ずかしいような....




あやめ:...あのね、○○

○○:ん?

あやめ:私...○○がミス連発したの初めて見たの

○○:...

あやめ:その時に考えちゃったんだ...
もし私だったら耐えられないなって

○○:...

あやめ:ライブで致命的なミスしたら...
もう....私、その日ライブできないかもって

○○:あやめ....

あやめ:だから...○○はすごいよ

○○:....俺は、すごくないよ

あやめ:いや....だから...

○○:ううん、ほんとにすごくない
俺はただ開き直っただけ

あやめ:開き直る?

○○:うん

あやめ:あまりそんな風に見えなかったけど...

○○:野球っていうかスポーツってさ....
1人1人がちゃんと仕事すれば、基本点を取られないのね

あやめ:うん...

○○:でも、その日の....
目のコンディションだったり
会場の照明の見え方だったり
応援団からの圧や支援だったり
身体のキレだったり....

今日という日は今日しかなくて
この1試合って言うのは2度と繰り返しが効かない

あやめ:...

○○:だから....あのミスを連発した時
なんで....なんて思いこんじゃった
自分に向けられた言葉も...言われて当然なことしたし...

あやめ:…そんなこと....

○○:でもロッカーで先輩に言われたんだ
"お前のことをほんとに応援してる人は、マイナスなことを言わないんだよ"
って

あやめ:...うん

○○:その時に思ったんだ
和、あやめ、さくらさん、敦、両親....

自分のタオルを持ってくれているファンの人たち
ユニフォームを買ってくれた人たち

俺を応援してくれている人たち全員が、笑っていてほしいから
なら、俺がここで下向いているだけじゃ意味ないって

あやめ:....グスッ

○○:あぁ...ごめんごめん笑
また泣かせちゃったね


それから"音"が聞こえてこない

いや、正確には"声"が聞こえず、あやめがすすり泣く音だけがスピーカーから聞こえてくる


1分...
電話だと長すぎる沈黙の時間

ただ、その沈黙を破るように、もう一つ
別の"声"がスピーカーから聞こえてくる


さくら:○○くん、ずるいよ...グスッ

○○:えっ!?さくらさんもいたの?

さくら:うん....グスッ
ずっと見てたし、聞いてた!
ほんとにかっこよかったよ!

○○:あ、ありがとうございます///


さくらさんに褒められるのは、なんか嬉しい

和と2人きりで生活するようになってから、しっかり乃木坂の活動を見るようになった
それで知ったよ、さくらさんのすごさ




さくら:すごいなぁ....

○○:いやいや....
さくらさんの方がすごいじゃないですか!

さくら:私なんか全然だよぉ....


あやめ:...2人で謙遜しすぎ....


○○:おっ、復活した笑

あやめ:もう....
さくちゃん、明日も早いからもう寝るよ!

さくら:えっ...あっ...うん...

あやめ:じゃあね!○○!
明日も頑張って!



ピロン

○○:....もう切れてるし...
なんだあいつ笑



そういって、通話終了と書かれたあやめとのトーク画面が映る


それから一つスマホの画面を戻す...
"もう一人"連絡が来そうなやつがいるはずなんだけど...



通知はあやめ以外来ておらず、トーク欄の一番上は先ほどのあやめとの電話
トークが来ていることを示す赤い数字はそれ以外に無く...


○○:...今日はもう寝ちゃったかな


そう思ってスマホの画面を閉じる





ただ...

次の日も、その次の日も....
見に来ているはずなのに、連絡がこない

チームとしては2試合連続で逆転負け
守備の不安からか、セカンドには髙田さんが入るようになり…
俺は、どちらともベンチスタートだったが、代走、代打で出場

まぁ...結果はあまりよくなかったけどね...



そして月曜日

月曜日は基本的に移動日となる

大阪から福岡へ戻り、本拠地で荷物を整理し次の試合への準備をし帰宅


久しぶりの自分の家
ただ少しだけ緊張感がある

なにせこの3日間、和からの連絡はなく
心配になって「どうした?」と送ったがそれにも既読すらつかない



ガチャ

鍵はちゃんとかかっていた


○○:ただいま~
和~、いる?


そう呼びかけても、返事は返ってこない

それからリビング、洗面所と探し回っていると...


生活している痕跡は少しだけ残っているのに...
姿が見当たらない...



○○:あとは、寝室....


ガチャ



和:...あっ



○○:ここにいたのか...


寝室にいた和
少しだけ安心する

ただ....


なんかやつれていて…
すごく痩せた気もする



○○:和....

和:...○○...

○○:...ただいま

和:おかえり


そういって少しだけ笑う


○○:どうしたの?
具合悪い?

しばらく会わなかった2人
その間に体調を崩したんだと思った


和:うん…

○○:そっか….
何か食べれそう?



和:...ごめん、ご飯食べても....
すぐに戻しちゃって...


その憶測は合ってはいた


が…その原因が...



○○:病院は?行った?

和:...ううん

○○:じゃあこの後...



和:...○○

○○:ん?



和:私....



"野球が....嫌いになっちゃった...かも..."










To Be continued...

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