自慢の弟は一番最後 26話
和:私....
"野球が....嫌いになっちゃった...かも..."
○○:えっ...
衝撃だった...
あれだけいっしょにやってきて...
マネージャーとしても支えてくれていた和の口から...
野球を、嫌いになったかも...
なんて言葉が出てくるなんて思ってもなかった...
だが、和がここまでになるには何かあったはずだ
○○:...どうして?
和:....なんか...わかんない...けど...
○○:へっ?
和:...もちろん○○の事は好きだし、応援もしてる
だけど...
だけど...グスッ
言葉の暴力には耐えられないよ...グスッ
泣きながら話してくる和
もちろんなんのことを示しているかなんて想像はできる
実は、あの○○のグランドスラムで勝ち越せた初戦の帰り
和:はぁ...良かった
勝てた...
ヒーローインタビューに○○が選ばれるかなぁ~って思って残っていた
その待っている時間も...
SNSに載っている○○のホームランのハイライト
もう何回も何回も繰り返し流す
和:はぁ...
ほんとよく打ったよ...○○
そして、○○へ「おめでとう」という言葉を送ろうとしたとき...
和:...っ!?
SNSに偶然流れてきた、○○が満塁ホームランを打つ前のものと思われる書き込みが...
それはそれは...
同じ人間が書いたとは思えないほど、辛辣で鋭くて...
心を殺しに行くような言葉が流れてくる
和:...
この言葉を見た時...
自分の目に映るすべての物が、怖くなった
正直、現地でヤジとして言葉を発している人には...
正直やめてとも思ったが、それでもホームランを打ったら拍手してくれて喜んでくれた
ここの手のひら返しは嬉しかった
それだけ期待されているんだと思えたから
ただ...
SNSは違った
確かにその人も○○のホームランを祝ってくれているのかもしれない
けど、その人のプロフィールまで見に行かないとそれ以上はわからない
"書き込みは残るから"
その一場面の事だけを言っているのかもしれないその言葉
でも、その言葉は....投稿は...
受け手が、いろんなものを加味して受け取らないといけない
投稿時間...
前後に投稿されている内容...等々ね
そんな、消化に時間がかかる言葉が何個も何個も並んでいるのを見て...
和:はぁはぁ...うぇ...
お昼に食べたカレーが、食道を逆流してきているのが分かるほど...
自分がマイナスの言葉に引っ張られているのを感じる
野球をやっているのは○○だよ、確かにね
だから○○に向けられている言葉だっていうのもわかってる
でも...
感じちゃうんだ
○○に向けられた言葉でも...
私に向けられた言葉のように感じる
家族だから...ずっと一緒に過ごしてきたから...
感情が入りすぎちゃうっていう、自分のこの性格が嫌になる
~~~~~~~
和:そこから...食欲湧かなくて...
食べても戻しちゃって...
○○:マジか....
でも...和が気にすることないのに...
和:ごめん...
○○:あぁ...ごめん
対応間違えた...
和:...だって...
○○:和は優しいんだね
和:...グスッ
○○:ほら、おいで
ギュ
それから和はこれでもかというぐらい泣いた
弱く細くなった体を抱きしめる
○○:スマホにも連絡したんだけど...
和:...怖くなっちゃって、あれから触ってないんだ
○○:そっか...
俺が見てもいい?
和:コクッ
そういってスマホを見ると...
自分の連絡をはじめ、あやめ、美空ちゃん、咲月ちゃん...
みんな自分のホームランのお祝いメッセージと...
返信が返ってこないことへの心配の連絡が大量に来ていた
それで実感する
和も愛されているんだなぁと
○○:和、いっぱい連絡来てたよ
和:...○○が返しておいて?
○○:わかったよ...
携帯すら見たくないという...
重症だな、これは...
改めて実感する
プロ野球ってどれほど、人の感情を揺り動かすものなのか
それはプラスの意味だけでなく、マイナスな意味でも
普通に生きていれば口にしないような言葉...
というより、口にしてはいけない言葉
それでも感情が高まると出てしまう
日本におけるプロ野球の面白さでもあると同時に、
ファンであれば何を言ってもいいという、
ある種ネガティブな面も含んでいる、と思う
もちろん選手が頑張らないといけないことは重々承知している
勝つことがチームの意義だし...
サッカーのようにリーグからの降格がないとは言え、
下位に落ち着くようじゃファンは離れていってしまう
そんなのは当たり前だ
万年弱いチームなんて応援しようなんて思わないでしょ?
だから選手が頑張らないといけない
でも選手が頑張るのは、チームが勝つためにプレイすること
弁明でもなく、謝罪でもなく、涙を流すだけで終わることでもなく...
ただただ、勝つためにプレイすること
それを後押ししてあげるのが、ファンのみんななんじゃないのと思う
ファン同士での言い争い、罵りあい...
選手には関係ないと思ってる?
まぁ関係ないと思ってる選手もいるかもだけど
俺は気にするからね
それもすべて含めて、"チームだと思うから"
ただこうなってしまった和のメンタル
立て直すには時間がかかるぞ....
親に見てもらうか....
咲月ちゃんにきてもらうか...
でもなぁ...
秋口のド平日
休んでまで見てくれと頼むにも...
ピンポーン
○○:...和なんか頼んだ?
和:...いや、なにも
ピンポーン
○○:...じゃあ宗教勧誘?
和:...でも、オートロック通って来てるよね?
○○:確かに...
和と住んでいるアパートはオートロック式だから...
来訪者がいた時は開錠しないと中に入ってこれない
でもそれを突破しているってことは...
○○:...和、ちょっとここで待ってられる?
和:えっ?
○○:ちょっと見てくるから
和:...無茶しないでよ
ドンドンドンドン
??:光希、はよあけて~や~!
ん?光希?
誰?
ガチャ
??:ちょっと!どんだけ...えっ?
○○:….ええっ!?
??:...どなた様ですか?
○○:...マジかぁ....
和:○ま....えっ?
「「ええぇぇぇぇっ!!」」
玄関先のカオス
○○の悲鳴が聞こえたから見に行くとそこにいたのは....
和:な、なんで"与田ちゃん"がここに!!?
祐希:この子、かわいい...
ガチャ
光希:ちょっとうるさ....
ってやっぱり姉ちゃんか
祐希:えっ...あっ....
光希:ん?....
姉ちゃん、もしかして...
祐希:ごめんなさい!!
小っちゃい小っちゃいってTVでいじられている姿を見てきたけど....
ほんとに与田ちゃんって顔も身長も小っちゃい
(あるところは大きいけど...)
そんな小さな体を90度にペコッって折り曲げての誠心誠意での謝罪
○○:えっ...あっ....
あ、頭上げてください...
和:そ、そうですよ!
私たちは全く気にしてないので!
祐希:ほんとにごめんなさい....
光希:だからさ、来るときは毎回部屋番号確認してって言ってるよね?
祐希:ごめん...
光希:もう....
えぇっと....い、井上さんのか、彼氏さん?
和:////
○○:え、えぇっと...
和の双子の弟です...
光希:えっ!?そうなんですか!?
よかったボソッ
○○:すみません...なかなかご挨拶に行けてなくて....
井上○○と言います
祐希:えっ!?井上○○って言った!?
○○:えっ....あっ...はい
祐希:あやめんやさくちゃんが見てる、ホークスの選手!?
○○:....まぁ、あやめは幼馴染で、ホークスの選手ではありますが....
祐希:ほんとっ!?
○○:は、はい...
祐希:ちょっと!!光希、あんたすごい人と隣になってるじゃん!
自分の知らぬ所で、有名人になってるみたい...
しかも天下の乃木坂46の中で...
光希:そう...みたい....
祐希:って会ったことなかったんだ
光希:う、うん....
祐希:あっ!そうだ!
今日光希の誕生日だから、2人も一緒にどう?
起きている現実の処理に頭が追いついていないけど...
住んでいる家のお隣さんが、乃木坂46の与田祐希さんの弟さんで....
で、今日はその弟さんの誕生日で....
お祝いに来た与田さんが、間違えてうちのピンポンを鳴らし、そこからパーティーにお呼ばれ...
こんなん、パンクするって…
和はずっと右往左往してるし...
ん?待てよ....
これ、うまく行けば、和のメンタルを立ちなおせるチャンスじゃ....
和:○○、どうするボソッ
○○:えぇっと...お言葉に甘えても参加させてもらっていいですか?
お隣さんとは仲良くなりたくて...
和:○○!?
祐希:よしっ!パーティーは人数が多ければ多いほどいいし!
ありがと!じゃあ中入って入って!
光希:家主、俺なんだけど...
To Be continued...