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風の記憶、時の雫

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note をはじめてみようと思う。 秋晴れの空を眺めていたら、風がやってきて、 そのときにふと思ったわけです。
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2017年11月の記事一覧

ある朝

いつも思っていた 目覚めは慈しみの太陽が昇り 気づきは気ままな風が頬をなで 草花が呼吸するように 寝息が息吹に変わる 日は大地の隅々まで届き 注ぐ光は刺すほどではなく 包み込むようにまるく 光の粒が弾けるようにやさしい 空は蒼く澄み 雲は羽ぼうきで軽く掃け 旋回したと思ったら 野鳥はときおり滑走する いつも願っていた 弾けた光の粒が丸い輪を作り からだの周りでなじんでいく そのままゆっくりと皮膚を通り 体の芯まで沁み込み 傷を修復する もやでいっぱいだった心の中も

野花

野に咲く花よ 私に名をおしえてはくれまいか 青い花びらよ 笑みばかりうかべないで 何か話をしてはくれまいか 私はこうしてここにいる 雨が降れば 帰らねばならない 言葉なき会話ができるのなら それもよいが 私にはできない 野に咲く花よ 私に名をおしえてはくれまいか 何か話をしてはくれまいか 空がこんなに重くなり もう青い光ではささえられなくなって いまにも雫がおりてきそう 私はただこうして君を見つめ 返事を待つことしかできない 野に咲く花よ 君と私の間には まだ一言

今日の空が好き

冴えた空がすき 迷いを掃いた空がすき 白い雲が漂う空が好き 蒼いひかりに充ちた空が好き どこまで行っても境目のない空が好き 太平洋を越える空が好き 未踏の大陸にまたがる空が好き 宇宙ステーションの軌道がある空が好き 時間を忘れるような空が好き ほどよい湿り気のある空が好き おだやかな日和の空が好き 雨あがりに虹を描く空が好き 夕暮にとばりを下ろす空が好き 星がたくさん瞬く空が好き 月を隠すいたずら好きの空がすき 目覚めて行く朝の空が好き この空は君の町にも届いてる 同じ空を見

余情

誰にも捥いでもらえない柿が まるい日差しの中で熟れている 誰にも捥いでもらえない柿を からすが何羽もやってきては啄む 誰にも捥いでもらえなかった柿は 無惨にも喰い散らかり落ちていく 誰にも捥いでもらえなかった柿の わずかに残った果肉が日に照らされる 秋はここまで忍び込んで後始末する 柿の葉も色づき落ちて根元に盛り上がり やおら風を受けてかさかさと 舞い上がっては散らばっていく やがて朽ちて土に還るまで 秋の名残りをじっと抱え込んでいる オレンジ色の日差しの中に