エリクソン催眠の心理臨床的利用法とマーケティング的利用法

現在、催眠療法士のトレーナー養成コースの最終課題、プレゼンテーションの構想になかなか悩んでいる。

いや、別にそんなことを記事としたいわけではないのだが、実はそんな中で、ふと気付いたことがある。
厳密に言えば、気付いてはいたし、寧ろそれがために私は今まで生きてきた中で苦労していたのだが、言語化してはっきりと浮かんできた気付きがあった。

それが、エリクソン催眠の心理臨床的利用法とマーケティング的な利用法が全く異なるものであるということ…というより、エリクソン催眠自体がそもそも体系化できるものではないので、あまりに多岐に亘った様々な手法がある、大まかに分けても非常にたくさんの種類がある、ということ。

今回、最終課題の中の大枠の構成要素として、(エリクソン催眠で言えば)多重装填メタファーという技法を使うことを指定されている。

この技法、はっきりと体系化され言語として今回初めて授業として習ったが、わざわざ言語化して体系化してこの技法パターンを説明すれば、これは非常に作為的なものを感じる複雑な技法である。
そして、気付いてみれば、現代社会あらゆるところのマーケティング手法として、非常に良く利用されていることにも気付く。
こういうことを言ってもなんだが、私の師の受講生集めの手法も(そもそも私は内容的に喉から手が出るほど欲していたものであったから、いずれにせよ惹き込まれてはいたのだが)、まあ非常に巧みかつ強力な多重装填メタファーとイエスセット(恐らく他のものも)の複合手法である。

ただ、ここで、少なくとも私が私自身の体験からはっきりと気付いたことは、この技法のマーケティング的な使い方と、心理臨床法的な使い方は、根本的に異なるということだ。

私はもちろん、これをマーケティングの方面から習ったことはないので、マーケティングの世界の人たちがどのような形でこれを習得するのかは知らない。
が、少なくともひとつここにも例があり、私の元の師も、今のトレーナー養成の師も、ご自身のWebsiteやらにこんなものを張り巡らせておられるのだろうと推察はするが、私が見ている限り(まだ分析にかかるほどまではしていない)、このお二方のものにも何か決定的根本的な違いがある。
そして、私は、私の元の師のやり方は、ふと気付いてみれば、記憶をたぐってみれば、少し眺めてみると、面白いほどに張り巡らされていることを感じるのだ。
これは、恐らく私の師があからさまにわかりやすいやり方をしているというわけでは決してなく、私の師は、恐らく私と似た系統で、元々かなり本能的な部分で、しかも心理臨床的にエリクソン催眠を、しかも師の場合はそれを理論とも徹底的に組み合わせておられるために無敵の効率・狡猾さで使いこなしておられる方である。
他方、今の私のトレーナー養成における師は、マーケティングなどもかなり勉強をされたと言っておられた。つまり、この師は、受講生募集などのWebsiteにおいては、どちらかと言えばマーケティング的利用法として身につけてこられた方向性で張り巡らせて使っておられることだろう。
更に言えば、今の師は、基本的にご自身のセッション(ベーススタンスとして)ではエリクソン催眠手法はあまり取り入れておられないとのこと。私の以前の師は、例えカウンセリングひとつであろうがどんな心理療法をしようが、そこかしこにエリクソン催眠が全体的にこれでもかと絡みついたセッションをされる。

今の師のやり方については、私にはぱっと見ではまだ良くわからない。今後、分析の必要性がありそうだ。


ただ、当然ながらこれだけでは、本当に根本的な違いがあるのかということは疑問だ。

しかし、本当に氷山の一角の中の一角なのだが、私が現在、気付き、言語化でき始めているものがある。

私は、実は催眠というものを知ってから、どうやら私はそんな技法を全く知らない、寧ろ学生や子供の頃から、通常の感覚で本能的に暗示療法や退行催眠などの技法を使ってきてしまっていたのだ、ということに気付いていった(しかも、これらの技法の原理原則的には、後年顕在意識で学んだものと驚くほど、マニュアルをなぞっていたに近いほど同じであった)。
また、ここではあまり文字数をとりたくないので短くするが、特に通常の会話の中で催眠を組み込んでしまう、エリクソン催眠と良く似たようなことをしていたのだ、寧ろそれを本能的に使ってしまっていて制御できず困っていたのだということを知っていった(この辺りに関しては過去の記事、今後の記事へ)。
そして今回、本当に満を持して、やっとのことで、エリクソン催眠そのものを授業形式で学ぶことができた。何せ、エリクソン催眠というもの、そもそも体系化不可能なものを無理やり言語化し、それを更に日本の書籍では翻訳しているものだから、独りで研究しようにも顕在意識の方向から行くとまるで暗号の羅列で、意味が分からない。
今回、授業形式で学ばせて頂き、進めていくにつれ、全く笑ってみるしかないほどに「ああ、これセッションでしょっちゅうやっている」「ああ…子供の頃こういうパターンで相手の潜在意識を相手に会話していたから、相手の顕在意識と潜在意識があっという間にひっくり返ってしまっていたのか」などということが次々と出てきた。ちなみに、これを意図的に使おうとすると難しい(一旦自然に出てくるもの全てに歯止めをかけ、真逆の方向からやらねばならないから)。しかし同時に、原理原則は、講師が教えて下さる言葉の限りよりもどんどん勝手に掘り下がってするすると入ってくる。

そして、極めつけに驚いたことは、講師がこれこそエリクソン催眠の真骨頂だと、しかも日本の催眠療法セッションでは通常は使われないだろうと言われた、多重装填メタファー。
実は私はこれを説明されてもしばらく意味がわからなかったが、原理原則とパターンを理解した途端、私自身、実はこれすらも、非常に近いことを今まで何も考えずにやってしまっていたということだった(ただし、原理的には私のやっていたパターンは詰めが甘かったことと、実質違う技法をいくつか複合させているパターンだったが)。
しかし、エリクソン本人も(エリクソン本人、エリクソン催眠を体系化しなかった上、弟子に言語パターンを分析されて「ああ、そういえばそうだね」というような態度であったというのだから)恐らくこれらを意図的にはあまり考えず、自然にやったら本能的にこうなっていた、のではないだろうか…。


しかし今回、では意図的にもある程度はやりやすくなったのでは、自然に出てくるものをまずは事前シミュレーションのように出してみて、それを録音したり書き出して「体系化された枠」に嵌めて成型加工すれば良いのだから。
…と、思ったのだが、非常に困っている。

私は、普段(結果的に)多重装填を使う時、クライアントさんに対して、基本的に潜在意識への暗示が極力入りやすいように、クライアントさんの顕在意識ですらもある意味案外、セッションが終わった後「あれ、何を話していたんだっけ?あれは結局どういう話だったんだ?」と思わせるようなセッションとすることが良くある。
顕在意識であまりに「ああ、そういうことだったのか!」と強くはっきり納得できてしまうように構成すると、特に問題解決への抵抗の強いクライアントさんやそもそも意志薄弱気味で他人の意見を自分に貼り付けて流されてしまいやすいクライアントさんの場合、(自分自身の)顕在意識での表面的な「ああ、そういうことだったのか!」に衝撃を受けしがみつきすぎて、折角それらの中で潜在意識にもたくさんいれた暗示を狭めてしまったり、奥に定着する前に顕在意識での自己分析(もどき)によって別の暗示として入れてしまったり掘り出してしまったりすることがあるからだ。
混乱法というほどではないが、顕在意識でも後から結局何だったんだっけ?というくらいにしておく方が、潜在意識に奥深く強く根付く(セラピスト側ももちろん、その入り方の手応えをゆっくりと感じながら進める)。といっても、上述したように、これはクライアントさんにもよるのだが。
あまり精神病理などが顕著ではなく、基本的に自分軸の割合がしっかりとあり、顕在意識がはっきりしっかりとしている人は、その顕在意識のベースにももちろん合わせて顕在意識にもしっかりはっきり受け取れるような話をした方が、その分潜在意識にもしっかりと入って根付いていくこともある。これはクライアントさんによるが、いずれにせよ、「顕在意識のベース(状態)にも合わせている、相手の潜在・顕在意識双方の状態を見極めた上で相手の状態に一緒に乗り、ある意味相手の”世界”の中で一連を行う」ということなのであろうと思う(今書きながら気付いた)。

ただ、私は、私自身がそもそも昔から相手の潜在意識からの言葉の方がダイレクトに受け取っており(顕在意識の言葉を受け取るのに翻訳をかけているかのようなディレイのある時すら多い)、相手の潜在意識にフォーカスが行きやすいこともあり、更には私の元にいらっしゃるクライアントさんには今のところ、どちらかというと精神病理傾向のある方や意志薄弱傾向のある方が多いため、結果的に私は顕在意識はある程度はぐらかしながらあまり興奮させずに(もちろん顕在意識にしっかりと憶えておいてもらう必要のある時もあるから、そういう時は好奇心や気付き発見納得を起こさせることも多いのだが)、あとで「あれ?このセッション結局何を話していたんだっけ?」となる構成としてしまうことが結局多いのだ。

そして、一定割合で言い淀んだり曖昧な言い回しパターンをとる、という癖が、大分ついてしまっている。
私はこうして記事のように文字に書き表す場合は真逆で、極力物事をはっきりさせ語弊のないようにする傾向が非常に高いが、口で喋っている会話の場合は、どうせどうやっても多大な語弊は生ずる。そのため、寧ろどうとっても良いような言い回しにして相手からの反応次第にしてこちらのスタンスを流動させてみたり、相手のその段階段階の解釈パターンを見極め(というより潜在意識が教えてくれるので)それに合わせてじわじわと話してみたり、ということが多い。

更にある意味始末に負えないのは、結果的に多重装填を使っているとき、私はいくつかの題材の結末(オチ)を敢えてわざと話さずに別の話題へ飛んだりするわけではなく、非常に自然に本能的に話を一旦すり替えたり移り変わらせたり、いくつか話をしてそれを全部繋げたり、というようなことをしていたのである。
記事でこう書くと話がぽんぽん飛ぶADHD傾向だとともすれば思われるかもわからないが、私(達)は他にはADHD傾向はほとんどない(少なくとも社会人となってからは)。その上、話をすり替えたりしても、これ自体は実は計画的で後ほど繋げる為であったりクライアントの奥底に入れるため潜在意識の指示に従っていたり、そして後でクライアントさんの方でどんなにそれに乗って話を更に更にと吹っ飛ばされても必ず元に戻す。そういう意味では、どうやら私のものも、(潜在的に)計画的なのだ。


しかし、プレゼンテーションでこれらをやってしまってはまずい。
プレゼンテーションやマーケティングの場合は、組み込み暗示をいくら入れようが、あくまで「顕在意識を対象に」するセッションである。
そして、複数名(違うタイプの顕在意識複数名と、違うタイプの潜在意識複数名、要するにそこにいる人数×2)のバラバラのタイプを対象にする。
そして、(顕在意識の)計画的に、話題のオチを寸止めして出し惜しみするという、これに何やら抵抗があることにも気付いてきた。顕在意識同士の会話では、とにかく結論を先に出すよう迫られてきたからだろうか。それとも顕在意識に直にボールを投げることに抵抗があるのだろうか。

ちなみに、私(少なくともこの器)は、小学校時代・中学校時代…考えてみれば大学においても、調べ物の発表やらは、不得意ではなかったはずだ(寧ろ少なくとも周りの子より率先性があった)。
ただ、そうやって意図的に行うものは、完全に顕在意識から顕在意識へと伝える、仕込まれたやり方であった。
この両方向からのものを、うまく繋げれば、きっと自由に使いこなしたり制御することもできるようになるのだろう。


時間が経てばもう少しうまく詳細に言語化できるようになるかもしれないが、何とも、ここがマンツーマンの心理療法的手法とマーケティング手法の一番大きな違いかもしれない、と感じたわけだった。
また、同時に、様々なクライアントさんを顧みても、実は全く違う手法をとっていたなと(まあ、だからこそ自分の手法があまりにオーダーメイド過ぎることを感じていてセラピストとして迷いが生じていた部分もあったわけなのだが)、今までよりも少し体系化されて気付いたのだった。


追記:
ちなみに、私のクライアントさんは顕在意識による「おお、そうだったのか!」が強烈な衝撃となって潜在意識へ別に入れた暗示が定着する(スポンジが水を吸い込み切るようなイメージ)前にこれが起こってしまうと暗示定着の効率が薄れたり暗示を違う形に成形し直して入れてしまうようなことが起こり得ると書いたが、確かに顕在意識が他人軸がほとんどの割合で薄弱なまま生きてきていたり、顕在意識の認知の歪みがあまりに根本的に大きかったりすると本人のその「気付き」はあまりに大きな衝撃のように作用する場合もある。が、催眠療法士としては、実はまさにこういうもの(驚き・衝撃)の方が利用しやすい、という面もあり、これが出た時に本当に潜在意識に暗示を組み込んでいったりもするし、その顕在意識の気付きによって本人が知らず知らずに自分自身に組み込んで行く日常的な暗示に素晴らしい変化が起こって行くので、決して顕在意識の大きな反応を危険と見做しているわけではなく、あくまで今回は、多重装填メタファーを組み込む場合、そして臨床的利用とマーケティング利用の違い、という方向性から記事にした。

ちなみに、精神病理傾向や顕在意識がそもそも意志薄弱傾向がある(集中力がない)クライアントには催眠療法が(日本では)推奨されない理由は、こういうところにもあるのではないかと考える。
(そもそも、彼らは誘導ひとつすら一切マニュアル通りには行かないため、そもそも催眠療法スクールを出ただけでは危険ということも第一にあるだろうが。)
この辺りはかなりシビアに扱っていかねば(特にクライアントさんの人生脚本プログラム)、セラピストとしては肯定的暗示を入れたつもりがクライアント自身、真逆を入れてしまったり、そのセッションの瞬間は良くなったように感じてもそれを利用して後年どんどん人生脚本のプログラム通りに坂道を転がり落してゆくという材料にもなりかねない。

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