つらつら

気付けば9月下旬。夏は終わったようで終わっていない。校門の前にはまだひまわりが咲いている。夏の余韻。

8月下旬。大阪に行った。いつも配信で見ている「conchichi」をこの目で見たい。いつも関東では遅れて放送されている「ワチャラチャ忍忍」の収録に行ってみたい。自分のカメラで好きな忍者たちの写真を撮ってみたい。いつもラジオで浜田さんが足を運び情報を小出しにしているのを楽しみに聞いているアトリウムに行ってみたい。よく見聞きしている街を散歩したい。そんないろいろなわくわくを抱えた2泊3日。

大阪を訪れたのは7年ぶりだった。仕事に追われ、病気もして、環境も変わって、東京を離れられない夏を7回も過ごしてしまった。当時0歳の子どもはすでに小学校に入学しているというのに、何事もなかったふりをしてまた大阪にやってきてしまった。これでいいのか人生。

暮しと家具の街だったのか

見覚えのある新大阪駅。なんばの地下街やNGK・漫才劇場の周辺。答えあわせのように脳内でパズルのピースが埋まっていく。なんばなんなんから最短ルートで迷わず劇場にたどり着ける方向感覚は衰えていなかった。

7年ぶりの漫才劇場。目に映るものすべてが新鮮に思える感覚と、かつてアキナ牛シュタインの公演やバツウケの収録を見に通っていたときの光景が蘇ってタイムリープしてきたような感覚が同時に押し寄せてきた。

5階ロビー。サイン、ポスター、メンバーの夏の思い出写真、ガチャガチャ、夏フェスのフラッグ。目に焼き付けるように見て、可能なものは写真に収めた。目の前にはタイムキーパーの姿。次々とお客さんが話しかけている。チケットにサインを書いてもらったり写真を撮ってもらったりしている光景をぼんやりと眺めながら、こういう心的な距離の近さに靡かない自分を客観視して、随分と大人になってしまったと思った。

夏フェスの余韻を味わえて嬉しかった

開演数分前。お客さんの対応を終えたタイムキーパーのひできさんがスタッフに客入りの状況を聞いていた。そして「満席立見!」と嬉しそうに小走りで駆けて行き、私を追い抜いていった。とても高揚感があり、どこか刹那的な瞬間。劇場の魅力が凝縮されているようで、今でもときどきふと思い出す。

「conchichi」はラジオで存在を知ってからずっと配信で見ていた公演。初めて生で見られて非常に感慨深かった。この日は前日からの体調不良で浜田さんが休演。チケットを取ったときはそんなこと全く想定していなかったけれどこれもまたひとつの思い出。

浜田さんは不在でもオープニングからイジられまくっていた。出てくるなり谷口さんが浜田さんの宣材写真を遺影のように抱えていた。踏み絵のノリになるものの「お世話になっている先輩だから」と踏めないショータイムさん。宣材でボケるタイムキーパー。一連を見て「こんな扱いしたらあかんやろ!」とくしゃくしゃに丸めて放り投げる永見さん。相方だから一番ぞんざいにできる特権を見た。

話は最近浜田さんが購入した大きなノートパソコンの話題に。「浜田さんはデカいパソコンに食べられた」「作業用のパソコンって言うけど作業は全部永見さんがしてる」「ネタを書いてて知恵熱で休んでいる」「とんでもないリズムネタを作ってくるかも」「トリプルファイナリストになったらもう浜田にネタ書かせる」等々とにかくイジられ放題。永見さんは「色々な人に撮影されてイジられた翌日に休んだのでショックだったのでは」とも言っていて、浜田さんを慮りつつプライドの高さみたいなものにも理解を示している相方らしいコメントだなと思ったりした。なおこの件に関しては、後日「ネタを書いてて知恵熱で休んでいる」がほぼ正解だったことが分かったのがまた味わい深い。

ネタ。永見さんが出てきたとき、暗転中にiPadの画面で顔が照らされていてマッドサイエンティスト感が凄かった。代表作の「世界で1人は言っているかもしれない一言」集と、以前に「マキガミ」でも披露されていた語感のネタだった。永見さんのピンネタをこの目で見られたのはむしろ貴重だったと思う。

コーナーは今年の夏フェスの興奮を想起させる「豚フェス」。豚とピン芸人のミックスギャグ、豚をモチーフにした10秒ネタなど終始楽しかった。

端の方の席でした

翌日はワチャラチャ忍忍の公開収録。始まる前にNGKのタリーズでのんびりコーヒーを飲んでいたら、竹内さんとショータイムさんが来店された。目の前でドリンクを待ちながら談笑しているお2人を見て「収録楽しみにしています、応援してます」と心の中で思った。これから見に行く方々が普通に現れるといういかにも大阪らしい光景。

この日から浜田さん復帰。念願の忍者の皆さんが見られて本当に良かった。いつも番組で見ている光景が目の前で繰り広げられていて感慨深いものがあった。何度か配信で見かけていたので把握していた「どろん」を一緒にやってみたりもした。楽しい。

嬉しかったのは17時の回の団子屋。なんとカベポスター2人のトークとなった。生で好きな人たちのトークは最高すぎる、しかも浜田さんが病み上がりなので人前で2人で話すのは久しぶりという状況。

冒頭、相方にお茶を差し出して背中をさする永見さん。そんな気遣いのボケに「病気ちゃうねん、治った!治ったから来た!」と強がり、「横なるか?」と言われても「いらん!」と突っぱねていた浜田さん。しかしスイートポテトを食べながら「点滴よりもおいしい」と言ってみたり、ぽろっと「まだ少しね…」「胃が元に戻ってない」と言ってみたり。本当に浜田さんだなと思った。心配させまいと気丈に振る舞うけど実は本調子ではないことをぽろぽろと溢す人間味がいかにも。

永見さんはそんな浜田さんに「気ぃ遣うわ」と言いつつ、スイートポテトは調理実習で初めて食べたのでそのイメージであるという話をしていた。永見さんはこんな風に小中学生の時のことをよく覚えているイメージがある。随所で語られるエピソード記憶の切り取られ方も独特で、世界を独自の感性で深く丁寧に見て何か思考していたのではないかと推測できるところが面白い。

収録はお子様、くのいち、世界の遊び、ヘンダーソンと4ブロック見た。特にヘンダーソンを掘り下げる回がとにかく面白かった。放送が楽しみ。

1公演目。漫才劇場での写真撮影が初めてすぎてホワイトバランスの調整に失敗し色調がエモい。
浜田さんの顔は企画でメイクされている。
2公演目。自分のカメラで好きな忍者の写真を撮ることができてうれしかった。

あの頃と出演者こそ変わったけれど、変わらずに面白い楽しいを提供してくれている場所にまた来られて良かった。ワチャラチャ忍忍は最初で最後の観覧かもしれない。良い思い出になった。

この日、ワチャラチャ忍忍の公開収録の前に弁天町へ行った。ラジオでお馴染みの大阪ベイタワー「アトリウム」を散策。主に浜田さんからよく聞いている場所。というかラジオ大阪のあるところ。めちゃくちゃ芝生だった。整備された天井の高い芝生。確かにこんもりとした山もあって、子どもたちが登ったり下りたりしていた。本当に寝ている人もいた(3人も見かけた)。これが浜田さん用語でいう「寝リウマー」かと思い、点と点が繋がるような感覚になった。

この日はそこそこ天気が良く暑かったけれど、アトリウムに吹く風は少し涼しかった。目の前のパン屋さんでパンを買って、のんびりとアトリウムで食べて、ラジオ大阪の放送を聞いていた。ゴエさんの番組だった。初心者リウマーの過ごし方としては及第点ではないかと思う。

奥のこんもりとした山にもたれかかってみたりもした

後日、ラジオにアトリウムに初めて行ったことを報告するメールを送った。紹介していただいた上に、浜田さんが「おお!ついに?!」とおっしゃってくださっていた。意外なリアクション。もしかしてメールを送り続けているうちにラジオネームや東京に住んでいることがうっすら認識されているのかもしれない。自意識過剰かもしれないけれど、どきどきした。そっと応援していることが伝わればいいだけだから軽率にどきどきしてしまう。どきどき。

夏は終わりそうで終わらない。

8月末。仕事で水族館に行った。別にこれといって専門家でもなんでもないのに様々な水族館に足を運ぶ仕事が定期的にある。今回は海の近くにある水族館。クラゲがたくさんいた。幻想的な演出をぼんやりと眺めながら、クラゲ自身はきっと自らの神秘性には無自覚なのだろうと思った。途端にほわほわと動く様子が滑稽に思えた。ふいに「先生、あのクラゲ光ってますよ」と声を掛けられた。指差す先には微かな光の筋があった。小さな命の存在を誇示しているかのような点滅。一生懸命に生きているのかもしれない。

「先生、海が見たいです」

帰り際、海へ向かった。「この夏はじめての海なんです」夢中になって遠くの海岸線に向かってシャッターを切り、裸足になって波と追いかけっこする。そんな様子を遠巻きに眺めながら「エモい」ってこういうときのための言葉なのかもしれないと思った。そこにあったのは間違いなく誰かの青春。

もう間もなく暗くなるであろう曇り空と夜の気配。立ち並ぶ海の家。犬を連れて歩いているおじさん。サーフィンをしている人たち。あの日、波打ち際の段差に座って眺めた光景はなんとなく非日常で、なんとなく忘れられない。

海のない県で生まれ育ったから海はいつまでも非日常

「先生、海が見たいです」

この先の人生、また同じ言葉を聞く日はくるのだろうか。

そんな夏の残り香。

3921文字。

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