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『物質文明・経済・資本主義 15-18世紀 日常性の構造2』(フェルナン・ブローデル) ‐鍵となる問題−三大技術革新

フランスの歴史学者、ブローデルの「日常性の構造」を読んでいくオンライン読書会の第14回目。今回は第6章「技術革命と技術の遅れ」の「三大技術革新」を読む。

【概要】
技術面の土台は動きが鈍かった中、技術革新が緩慢に進んだ。15-18世紀の三大技術革新と言えるのが「大砲・印刷・外洋航海」だった。世界の不均衡を生じせしめたのは外洋航海だった。技術革新は特定集団や国・文明にのみ影響を与えたわけではない。影響を与えなかった場合は、技術革新を必要としていなかったからだろう。

■大砲
中国では9世紀に火薬、11世紀には火器も作られ、大砲は1356年が最初とされる。ヨーロッパで大砲が出現したのは1314年または1319年ごろとされる。15世紀初頭には両者の大砲は同等か中国の方が優れていたとされるが、15世紀末にはヨーロッパのものがはるかに大きく、優れたものになった。これはヨーロッパで戦争が頻繁に起き、城壁戦が多く発生し、砲兵隊の熟練度と大砲の技術が向上していったからである。
艦船にも大砲が備えられたが15世紀まで武装状況はまちまちだった。16世紀には海賊行為の広がりと共に全ての船舶が大砲を積むようになった。また当初は大型船が優勢だったが、小型砲の改良により貿易の効率も高い小型・中型の船が強くなり、オランダとイギリスが盛運を迎えた。
このように大砲や火器の発展により、資本主義的組織が変貌を遂げ、富める国のみが武器を所有し、運用することができるようになっていった。製造にも購入にも、そして運用する人や馬の維持にも金が膨大に必要だったからである。
強力な武器である大砲や火縄銃は技術を持つ砲手が雇い主を求めて移動し、世界中に広がった。ヨーロッパは極東やアメリカで特権的地位に就いた。しかしこれによって重要文化集団内での境界移動はあったものの、集団相互の境界がなくなるとまではいかなかった。

■印刷
紙は中国で発明され、イスラム経由で西方へ伝播した。12世紀にスペインで初の製紙用水車が回りだし、14世紀にイタリアで製紙産業が根付いた。大量の真水が必要なので上流で中心地も近い場所で根付いた。ボロ布や亜麻・麻が羊毛にとって代わっていたので材料も豊富にあった。紙は羊皮紙より弱く美しくもなかったが値段が安く、しなやかで印刷に向いていた。大学で読者の数が増えていたので、写本だけで追いつかなくなっていた状況から15世紀中葉に活字印刷が生まれた。
中国では9世紀、日本でも11世紀に木版印刷があったが版木を作るのに手間がかかっていたものが15世紀中頃に中国からヨーロッパに伝わり、砲手と同様、印刷職人が雇い主を求めて旅して周り各地に広がった。16世紀に金属鋳造の活字となって勢いが付き、モスクワ大公国まで含めて人口1億に対し2億冊の本が刊行された。技術は18世紀まであまり変化がなかった。
書物は贅沢品だが資材・労賃・紙代・資金回収の手間から金貸しに縛られたため、金貸しが配給網の支配者となった。ちなみに近代数学の本の出版が遅かったため、進展が緩慢だった。

■外洋航海
外洋の征服が西ヨーロッパの数世紀に渡る支配・特権を作り出した。他の地域の海運も行われていた。中国のジャンク船は優越していたが南方はトンキン湾までだった。ダナンからアフリカまでは三角帆が支配した。イスラムはインドから見つけた縦帆を地中海で用い、角帆に取って代わった。北欧では13世紀以前から角帆と頑丈な構造船での海洋進出があった。地中海と北海の2種類が経済的に対決し、混じり合ったことが船の構造の進化だけでなく、海上航路の征服を促進した。
中国でも羅針盤や大型ジャンク船によって鄭和が15世紀にホルムズまで達したが、北方遊牧民の脅威により航海は中止された。
ヨーロッパは物質文明への目覚め・北方と南方の技術融合・羅針盤や海図の利用により、大海原を行くことへの本能的な畏怖を克服したことが大きい。その克服は、大陸の端に閉じ込められていたために世界を必要とし、出ていくことを必要としたからだった。

【わかったこと】
技術革新だけが人間の行動を変えるものではなく、必要さ・必死さ、そうしないとさらなる向上が望めないという飢えが新たな世界への挑戦を促した。これは人間としても保守的になるか新たなことに挑戦していくかの姿勢にも見られる。陸から大きく離れずに安心感のある範囲で動いていくことと、思い切って何も見えない海原に挑戦していくこと。もちろんそれを可能とする道標となる道具は必要であるため、技術革新は大きな必要条件であるが、最後の必要条件は人間の心理の克服というのはいろんなことに通じる。
また、触れられていないが旧来のキリスト教の世界観の中では天動説だったがルネサンスを経て既存の世界観に対する疑念が高まっていったことも、その本能的な畏怖を克服することに寄与したと思う。
100m走が10秒の壁を破れないと言われていたものが、最初にその壁を破る者が出ると、どんどん記録が更新されていったように、道具の進化もあるが心理の進化が人間を大きく変えていくということを感じた。

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