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『地中海世界』(フェルナン・ブローデル編)の感想

ここまで、「文化の読書会」の末席に加えていただき、皆さんとブローデルの「地中海世界」を読んできた。ここでひとまずの感想を。

■自然環境が規定する文化
地中海の自然環境の成り立ち、そしてその与条件下での狩猟採集生活から約9000年前の農耕定住生活への移行によって、地中海世界の文化が規定されていった。そもそもの痩せた土地柄ゆえに穀物等は肥沃な地域(昔はエジプト、今はフランス等)からの輸入に頼らざるを得ず、必然的に異文化間での交易が地中海世界の基盤となっていった。ドラマ『ローマ』にも出てくるが、オクタヴィアヌスがエジプトのアントニウスとクレオパトラを攻める大きな理由の一つが、エジプトからの小麦が止められてイタリア地域の人々が飢えたことだった。それだけ地中海世界は自然環境の影響故に交易によって成り立っていったと言えるだろう。
大航海技術によって地中海世界の自然環境の範囲が変化し、陸型国家の時代に移行した背景もこういうことかもしれない。

■底流の文化の影響
自然環境下で一定程度の時間が経過し、人の思考や行動を規定していく文化として定着し、「底流」となると、容易に変化しえない。表面的には政治や勢力の状況によって変化したとしても。例えばユダヤの選民思想・ディアスポラ傾向などは2000年経っても底流に流れ、イスラエルの成立という形で20世紀になって現れた。
表面上ではなく、こういった底流に流れる文化を理解することが人の思考や行動を理解し、多様な価値観を尊重し合う豊かな社会への一歩になっていくのだろう。

■自然環境→底流文化の理解がカギ?
思えばアダム・スミスは『道徳感情論』の中で、「諸国民間の自由な貿易こそ相互理解を深める手段ともなりうる。物の交換は、人と人との共感を前提にしなければ成り立たないからであり、また物の交換を繰り返すことによって人は取引相手をよりよく理解することができるからである」ということを述べている。しかし、これだけで成り立たないことをこれまでの争いの歴史を知る身としては不十分だと考える。
歴史を読み解き、学びを未来に生かしていくことが歴史を学ぶ意義であると思うが、そのための取っ掛かりは、底流文化の理解ではないかと思っていたが、本書を読んでいくうちに底流文化を形成してきた自然環境を読み解いていくことが大事なのではないかと考えるようになった。
そんな思考の中で、知人で「食とアニミズム」を執筆している玉利さんのFBへの投稿が響きまくった。

今回の「地中海世界」と読書会の諸先輩方との議論は色んなことを深く・広く考える意味を自分に突きつけてくれたということで、とても良かった。たぶん10年後に読むとまた受け止め方なども変わるだろう。良書というのはそうやって傍らにいつまでも置いておきたいメンター的存在を言うのだろう。

歴史を学ぶ上での視点等についての疑問

1.現代において、そもそも歴史を学ぶ意義とはなんだろうか?
過去の人類の所為の集積である歴史を学ぶことは、現代そしてこれからの未来を考えていく上で、大事な視点であると思う。人類は同じようなことを形を変えて繰り返している部分もあり、過ちを繰り返さないようにするためにも、今後を見通していくためにも歴史を学ぶことは大きい。
一方で、現代のように世界中の人々が多種多様にグローバルに交流を進めている時代は初めてであり、そういった中では敢えて過去から未来を考えるというより現在の状況を見つめていく思考をするべきなのか、それとも歴史における様々な事例から現代の状況にも通じる部分や違いを読み解き、そこから思考するべきなのか。歴史から様々な学びを得て生きてきた自分としては、敢えて今、歴史を学ぶ意義はなにかと再考してみたい。

2.歴史を学んでいくにはどういう切り込み方が良いのだろうか?
自然地理、文化人類学、考古学、経済、美術、宗教など様々な分野を統合的に見て考えていくことや、それらの多面的な視点から考えていくことの両方が歴史を考えていく上で大事なのではと思うが、どういった道筋・順序から学んでいくのが歴史を理解して深淵に近づいていくのだろうか?

3.狩猟採集から農耕定住への移行をどのように読み解くか?
地中海世界においても日本でもそうだったが、人類が文明社会に移行していったのは、狩猟採集から農耕定住へ移行したことに始まる。今回読んできた中でも、「底流文化」はそういった農耕定住以降の文明が発展して以降に育まれているように見える。しかし、本当にどうなのだろうか?人類の歴史全体を見ると、文明化する前の時代の方が圧倒的に長い。そう考えると本当に底流にある思考は狩猟採集時代に育まれているのではないだろうか?あるいは文明社会を考える上では、農耕定住以降を読み解くので十分なのだろうか?もちろん文字も無かった時代であるので十分な資料などは無いだろうが、考古学あるいはアニミズム的な宗教を読み解いていくことがそこへのアプローチになるのではないだろうか。

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