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お酒づくりとプラセボ製薬の話(2023年4月第2週)

 毎週土曜、シニアの皆さんを対象にZOOMを通じて、時事ニュースや科学ニュース解説を行っています。そこで扱った話題をダイジェストでご紹介します。
 2023年4月の第2週はお酒づくりと、プラセボ製薬のお話しをしました。(標題写真は石川県白山市の蔵元『菊姫』社屋)


1)発酵のさせ方とお酒の種類

 情緒のない言い方にはなりますが、お酒とは植物由来のデンプンや糖を微生物の作用でアルコールに変えたものです。この作用は発酵と呼ばれ、酒造りはこの発酵をどうコントロールするかで、同じ原料・素材を使っても味わいが大きく変わってきます。

 発酵プロセスによってお酒を分類すると、大きく2つに分けられます。素材に含まれる糖が1回の発酵でアルコールに変わる「単発酵」と、その前段階としてデンプンを糖に変える発酵が加わる「複発酵」の2つです。さらに複発酵では、2回の発酵が別々に(順序だって)起こる「単行複発酵」と、同じ場所で同時に起こる「並行複醗酵」があります。

「単発酵」で代表的なお酒はワインです。1回の発酵でブドウの甘みがアルコールに変わる、ある意味シンプルな作り方です。それだけに素材そのもの、酵母そのもののが勝負です。その年の気候条件によってぶどうの出来が異なれば、ワインの出来が違ってくるのも当然に思えます。ワインの銘柄に地名がつけられることが多いのは、土地土地で微生物の様相が異なっているからかもしれません。

 2種類の発酵を別々に行う「単行複発酵」で代表的なお酒はビールです。デンプンを糖に変えるプロセスと、糖をアルコールに変えるプロセスが、異なるタンクの中で進行します。タンクの中で起こるのはひとつのプロセスのみなので、もちろん簡単ではないでしょうが、比較的コントロールはしやすいでしょう。その分、設備の大型化も可能になってきます。大きなタンクをたくさん使って大量に作り、コマーシャルをたくさん流して大量に消費してもらうというビジネス形態は、ビールというお酒の製造プロセスから考えても納得できるものです。

2)日本酒は「並行複醗酵」

 最後の「並行複醗酵」の代表的なお酒が日本酒です。米麹によりお米のデンプンが糖に変わり、その糖がアルコールに変わる発酵が、同じ場所で同時に進みます。生き物(微生物)相手の一発勝負ですから、同じ素材と水を使い、同じ分量で作っても、仕込みをするごとに味が変わってしまう可能性があります。その難しいプロセスを司る専門職が「杜氏」です。腕のいい杜氏が求められたのは、そもそも日本酒づくりが複雑で難しいものだからでもありました。

 お酒造りにまつわる豆知識を紹介しましたが、予備知識として分子の大きさのイメージを持っておくと、さらにピンとくるかもしれません。

3)デンプンと糖の大きさと唾液のはたらき

 中学校の理科では、デンプンと糖を題材に分子の大きさを理解しようというカリキュラムがあります。実験を通じ「唾液に含まれるアミラーゼという酵素が、デンプンの分子を小さく分割し吸収されやすい糖類に変える。これが消化である」という知識も身につきます。

 せっせと働く微生物のおかげで、植物由来の大きな分子が小さく切りそろえられ、蔵元やワイナリーやビール工場のタンクの中で芳醇なお酒が生まれている……。微生物たちへの共感が生まれるかな。義務教育の場でのお酒の解説も、アリかもしれませんね。


4)実在したプラセボ製薬株式会社


 ウソニュースで知られる「虚構新聞」は、毎年4月1日のエイプリルフールにはウソニュース界におけるウソの記事――実在する事象や人物を扱った記事――を掲載しています。2021年4月1日付の記事に登場したのは、2014年にプラセボ製薬株式会社(本社・滋賀県大津市)を創業した水口直樹さんでした。毎年のことですが、非常に読み応えのある記事です。


 サイトを少し見渡してみると、同社では誰でもアクセス可能なデータもとに作成した動くグラフを「プラセボ・グラピクス」と名付け、Youtubeのチャンネルを作って公開しています。医療関係者の人口推移や薬品の銘柄ごとの消費量などマーケティング活動の一貫として作成した、と紹介されていますが、世界の人口(国別)、死亡原因、結婚・離婚・未婚率などとなると製薬会社(?)の枠を超えた活動にも思えます。どれも非常に見応えがあります。いくつかの子チャンネルがあるうち「登録者数2人」というのがあったので、思わず登録してしまいました。登録者ひとケタのチャンネルに出会ったのは初めてでしたが、もっと知られていいチャンネルだと思います。


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