Science誌「Three-quarters attack rate of SARS-CoV-2 in the Brazilian Amazon during a largely unmitigated epidemic 」の論文の紹介2

 前回の続きになります。
Three-quarters attack rate of SARS-CoV-2 in the Brazilian Amazon during a largely unmitigated epidemic
2021 Jan 15;371(6526):288-292.
https://doi.org/10.1126/science.abe9728
の論文紹介です。この記事はCC BY 4.0のもとに作成しています。Supplementary Materialsのデータからはじめます。

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マナウスとサンパウロの人口構成(A)をみてください。さらにe-statのデータから作成した2019年10月時点の日本の人口構成も紹介します。

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かなり日本が高齢化しているのがわかりますね。ブラジルの2都市ではマナウスの方が若年寄りの人口構成です。Bの図はIFRの推定値です。右と左で推定時期が異なっており左が6月、右が10月でその意図は省略しますが計算式が異なります。中国と比較していますが一般的にいわれるよう高齢者のリスクが高い傾向は同じでIFRもほぼcomparableといえるのではないでしょうか。ただしマナウスでは高齢者は低いです。興味深いですね。中国は別にしてサンパウロとの違いに関してはマナウスの人口構成が若者に偏っているためかもしれません。地域や環境によってIFRが異なることは十分あるでしょう。なお私は計算式(アルゴリズム)まで確認していないので計算式として人口構成で説明できるのかは確かめていません。ただこういった考察をするたびに日本(東南アジアの各国もかもしれませんが)の死者数の少なさはほんと不思議ですね。
 次はFig.2を見てください。

画像3

Aの左がマナウス、右がサンパウロで左の軸が抗体陽性率、右軸が(補正した)日ごとの10万人あたり死者数です(補正の方法は確認してません)。グレーの死者数の推移をみればサンパウロと比べてマナウスの被害の甚大さ(流行の速さ)の違いに驚くと思います。急激に感染が拡大し多くの人が亡くなり低いながらもだらだなと続いています。死者数に関してまとめると、
 10月までのデータで、COVID-19の感染が検査で確認された死者、重症急性呼吸器症候群の診断(検査陽性だけでなくCOVID-19で亡くなったと思われる死者をまとめてのことだと思いますがしっかり読み込んでません)で亡くなった死者の順で
 マナウス 2,642人(1,193/M.pop)、3,789人(1,710/M.pop)
 サンパウロ 12,988(1,070/M.pop)、20,063 (1,652/M.pop)
と書かれています。グレーの図だとわかりにくいですが累積で見れば人口あたりの死者数の同程度です。この解釈は同じ国であれば最終的には同じくらいの被害になるとも一見思えそうですが、サンパウロの抗体陽性率はマナウスより遥かに低いです。また人口構成的にもサンパウロは高齢者(vulnerable)が多いです。私の推測ですけどサンパウロは死者の上積みがまだあると考える方が自然でしょう。参考までに日本の数値を書いておきます。厚労省公表の2/5分までのデータでは
 日本 6,133人(49/M.pop)
になります。論文では欧米の国と比較しています。OurWorldinData調べの10/1までのデータとして
イギリス 620/M.pop
フランス 490/M.pop
アメリカ 625/M.pop
となります。欧米と比べてもブラジルの被害の大きさがよくわかると思います。
 次は左軸、抗体陽性率です。この論文ですとこちらがメインの話ですね。この曲線は赤丸をつないでいますがseroreversion(抗体の産生がなくなり検査で陽性が陰性になること)を考慮して補正したものです。この補正法の妥当性が判断しかねますがともかく6月下旬の50%近いマナウスの抗体陽性率の推定は信頼できると思います。補正は他に検査の性別の偏りの補正と、陽性/陰性のカットオフがあります。青丸が一番保守的ですけどそれでも50%近くありますね。一方サンパウロは緩めの推定でも25%ほどです。被害はどちらも大きいですけど二都市でだいぶ流行の様子が異なることが見て取れますね。

次回に続く



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