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【錬金術師の鏡台】プロローグ



見上げても果てがないほどに高い本棚には
滑車のついた長いはしごがかかっている。

はしごの根元にうずくまるように本をめくりながら
"かれ"はそこに居た。

『見つけた!!うわっここ寒~~~っっ』
『え!っうわ寒っ!!
こんなところにいたら風邪ひくだろ!』
「………………」
『無ー視ーすーんーなー!!
ずっとこもりっきりは良くないんだぞ』

シロノワ、

とようやく名前を呼ばれて、かれは顔を上げる。

心配げに覗き込む、狐たちの瞳に
ゆったりと微笑んだ。

「ふふ、ごめんね。つい夢中になっちゃったみたいだ。
  プラ、いま何時かな」
『夜中の2時半だぜ、シロノワ』
『いきなりいなくなるから探してたんですよ!』
『早く暖炉でゆっくりしたいとこだったのに』
「おや、月虹の仕組みの観測は終わったのかい」
『とっくに!』
『11時を待たずに月虹は消えましたよ、シロノワ』

口々に喋る狐をあやしながら、
錬金術師は立ち上がった。
しゃらり、とローブの袖に飾られた宝石が揺れる。
間から差し伸ばされた手が、狐の毛並みに隠れた歯車のギミックを撫でて調子を確かめる感触に、狐たちは気持ちよさそうに目を細めている。
「随分動き回らせてしまったね……、
暖炉の前で少し休憩しよう」
錬金術師は懐から大きめの鍵を取り出し、宙へ垂らした。
鍵を中心にテレポートの魔法陣が敷き上がり、ザザッ……というノイズが混ざったかと思った瞬間、
広いリビングに暖炉が燃えている部屋へと景色が移る。
『あっ、魔女様からパウンドケーキが届いていましたよ!』
『俺は紅茶を用意してくる』
「わあ、助かるなあ、二人ともありがとう~」
狐の大きい方が『お前も働け!』と一声鳴いた。
『プラ、これは僕らの役目でしょう』
困り顔で口を挟んだのは小さくてギミックが新しい狐。
「まあまあピック。そしたら僕はクッションを整えておくよ」
『助かります、よろしくお願いします~』
『ピック、マスターの尻たたきもリンクスリンクとしての仕事なんだからな』
『ええっ?!』
『その分じゃ、一人前にはまだまだ遠いなぁ』
『う、ううっ……プラさんに言われると心が重くなります…』
「まあまあ、ゆっくりやろうよ」
『シロノワがゆっくり構えすぎなんだよ!』
「月虹の様子の話でしょう?
ケーキを食べながら聞くよ。場合によっては魔女に知らせないといけないしね」


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