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【今週のマンガ】本当の気持は、抑えなきゃいけない時もある『ロッタレイン』

『ロッタレイン』という漫画がある。現在講談社のヒバナで連載している、松本剛先生の作品だ。

会社の上司に恋人を寝取られ、唯一の身寄りだった母親が亡くなり、自暴自棄になり業務中に交通事故を起こした一。冒頭の10ページ足らずで主人公は絶望の淵に立たされてしまった。

そこに現れたのが、母親との離婚から距離を起き続けた父親と、その再婚相手との間にできた13歳の娘・初穂。仕事を辞め、生きる活力を失った一だったが、幼さと色気が同居する義妹の不思議な魅力に惹かれ、気が付けば目で彼女を追いかけていたーー。

この作品の登場人物たちは、みな傷を負い、負い目を感じながら生きている。それは、日常においては誰にも触れられない傷だ。しかし、互いに傷を持つ者同士は不思議と惹かれ合う。何かを失った人間は、奪われた人間に敵対心を持ち、傷つけたりもする。しかし、その関係性は依存度が高く、傷つけ合っていたはずの行為はやがて傷を舐め合う行為へと変わり、憎しみがいつしか愛情に変わっていくのかもしれない。

一と初穂も、まさにそんな関係だ。13歳で、義理とは言え妹。過ち(と言ってよいかは分からないが)を犯すなんてもってのほかと思いたいが、一は衝動的に惚れていく。全てを失い見知らぬ土地で生きる一にとって、数少ない知り合い。純粋な可愛さを持ち、女の子から女性へと心も身体も成長を遂げる彼女に抱く性的な感情を抑えられなくなる気持ちは分からなくもない。

そして、最初は警戒心を説くことのなかった初穂も、様々な事件を通して一と心を通わせ始める……。

本当の気持は、抑えなきゃいけない時もあるんじゃないですか。家族を壊してまで気持ちを優先させるのは、ダメなんじゃないかって。ーーそもそも、その気持が、おかしいんです。

この、静かに燃え上がる感情は、決して言葉にはできない。「自分はどうしたいのか」を最優先に考えて行動してきた人間たちによって「社会」から爪弾きにされた一にとって、初穂に抱く感情を爆発させることは、自分を爪弾きにしてきた人間たちと同じ行為をすることと同義になってしまうから。

それは、名残惜しくも終わりは必ずやってくる夏の終わりの奇跡のような時間。誰にも共有できないし、したくない感情と苦悩。言葉にすれば消えて無くなりそうな儚い関係を、心の奥底に抱える人は少なくないのではないだろうか。そんな人たちにとって、『ロッタレイン』は生涯消えることのない宝物のような漫画なんだと思う。

この作品で初穂の艶めかしさはすべて唇で描写されているのを見て、自分が唇好きであることを改めて気づかせてくれた松本先生に感謝したいし、完結巻である3巻が早く読みたくて仕方がない。

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