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鏡の前でこれやってる人は気をつけてね。

これは友達のあまめちゃんから聞いた話。


 好景気に沸いている時期に、超売り手市場でも面接に次々と落ちる同じ大学の友人がいた。何というか“負のオーラ”みたいなものをまとっていて、第一印象がとにかくよくない。話をすればいいやつだなってわかるけど、とても陰気な感じ。

 周りの友人たちはほとんど内定が決まるなか、いまだ内定の決まらない彼は、さすがに焦りだしたらしく俺にアドバイスを求めてきた。あんまりオブラートに包んでもしょうがないし、思ったままのことを伝えた。それを聞いてますます落ち込む彼。とりあえず対処法として「鏡の前で笑顔の練習をすればいいって聞いたぞ。」と、伝えた。

 数日後、彼は相変わらず暗い顔だった。しかし、鏡の前で笑顔の練習はしているらしく、少し自信も出てきているようだ。
 彼は、「鏡の前でずっと笑顔の練習をしていると、自分の顔がゲシュタルト崩壊を起こしたかのような違和感を覚える時がある。練習の成果なんだろうけど、自分が全くの別人みたいに映る。鏡の中の自分は信じられないくらい楽しそうに笑ってる。」と、言っていた。

 それからしばらく、卒論の準備やバイトなどで忙しく彼とは会えなかったが、街を歩いているときに偶然出くわした。そこには別人のようになった友人がいた。あまりの雰囲気の変わりように最初、彼だと気が付かなかったくらいだ。
 「君のおかげでかわれたよ!大手の内定も決まったし、彼女もできたし、人生ってこんなにも楽しいもんなんだね!ありがとう!」まぶしい笑顔の彼。

 そんなに良い効果があるのなら俺もやってみようかなと思ったけど、その考えはすぐ引っ込んだ。
 なぜなら話しているとき、横のビルの窓ガラスに立ち話をする俺ら二人が映ってたんだけど、そこに映った彼はちょっと前の暗く落ち込んだ顔のままだったんだ。まあガラスの反射だし歪んで見えただけだろうと思ったその直後、ちびるくらいの恐怖に襲われる。
 彼の横に映る俺が、狂気すら感じる満面の笑みで俺のことをじっと見ていたのだ。


おはなしはこれでおしまい。
鏡にまつわる話って色々あるよね。
また、教えてあげるからききにおいで。
それじゃ、またね。

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