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リモート環境下でのデザインワークショップ実施のコツ:『レフトページ』の重要性

リモート環境下での創発行為をどのように行うべきか?

新型コロナウィルスの感染拡大を抑制するため4月16日に発令された緊急事態宣言が、多くの都道府県で今日解除されました。
そのことについては色々と思うことがありますがひとまずそれはまたの機会にして、約1ヶ月続いた緊急事態宣言の下で企業活動とみならず日々の生活活動にもわたって、それ以前と比べて大きな変化が起きています。
そのひとつが、様々な活動のオンライン化(リモート環境下での実施)です。

会議や事務作業などの従来オフィスで行っていた業務、取材、そして飲み会などはもとより、果てはヘアカットまで、物理環境下での近い距離でのひととの接触を回避するため至るところでオンライン化がなされています。
ぼくたちのような企業のデザイン支援を正業にしているプロフェッショナルにとっては、いわゆる「(デザイン)ワークショップ」と呼ばれるような参加者間での対話や共創作業による創発的なアイデア開発のための活動すらも、参加者全員が離れた場所(自宅など)から、Web会議システムを使ってオンラインで参加することで実施するといった機会が求められ、工夫をしながらなんとか実施する事が増えています。

空気を読もうにも読む「空気」がないんだょ。。。

Web会議システムを使うことでお互いの顔を見て、話すことはできますし、オンラインホワイトボードツールなどを併用すると、従来は付箋を壁に貼り付けながら行っていたようなアイデアワークもできるのですが、やはり物理的に同じ空間、身体性のあるインタラクション(同じテーブルを囲む、リアルに目を合わせる、など)がない中での創発的な営みは、やはりどこかもどかしい感覚を拭いきれないこともあり、なかなか簡単ではありません。
ただ、参加者同志お互いが醸し出す空気感、表情や阿吽の呼吸などを察し合いながらリアルで顔合わせて行う営みがもつ素晴らしさは当然完全にはオンラインで代替はできないものの、以前リモート会議をうまく行うコツについて書いたように、ワークショップのような創発活動においても、

・議論の整理
・論点の明確化
・思考と対話を可視化することによるアウトプットの明確化

などを、暗黙知に頼らず(そもそも頼れない)、面倒だけどひとつひとつ形に残していくことができる、というメリットもあると感じています。

片方で、上記のようなオンラインのメリットをしっかりと活かそうと思うと、これまで意図して行っていたことを、意図的に行う必要がある、ということとも言えます。
そして、それは参加者以上に、ファシリテーターなどの運営チームにとって重要度が高いのです。
具体的な例を挙げると、従来型ワークショップ(同じ場所にみんながあつまって行うスタイル)の場合には、熟練したファシリテーターはその場その場の”空気”を読みながら、参加者(チーム)のサポートをテーブルを巡回して行ったり、多くの参加者にとって重要と思えるようなアドバイスを誰かに行う際には全参加者の注目を集めてショートレクチャを即興で行う、など、ワークショップがよい方向に進んでいくように、参加者の学びや最終的なアウトプットがより良いものになるように、現場で即興的に機転を効かせて運営を行っているはずです。
オンラインのワークショップ、かつ、一部もしくは大半のプロセスをWeb会議システムの小部屋機能(ZOOMだとブレイクアウトルーム機能)を活用しながらのグループワーキングで構成するような場合は特に、ファシリテーターが本来読むべきその場の”空気”がないのです。
そのような制約環境下でも、少しでも”空気”を読み、参加者をエンカレッジしながらワークショップを進めていくためには、事前にいくつものパターンをシミュレーションしたうえで設計されたシナリオが必要になります。

ファシリテーターにとってのガイド「レフトページ」とは?

この運営シナリオのことを、ぼくは「レフトページ(Left Page)」と呼んでいます。
なぜ、「レフトページ(左側のページ)」と呼ぶか?という理由はなにか?
まずはワークショップの手順やワーク内容の説明が書かれたようなワークブックがある、とイメージしてみてください。
そのワークブックを開いた右側のページ(ライトページ)には、ワークの手順・指示などが記載されています。
このライトページは参加者が見るページです。
参加者に配布されるワークブックは、見開きの右側、つまり「ライトページ」にしか説明書きなどが記載されていません。
しかし、ファシリテーターなど運営者は見開きの左側つまり「レフトページ」が存在する運営者用のワークブックを持っているのです。
この「レフトページ」には、ライトページに連動する形で細かくワーキングの時間配分や参考に例示する資料、ヒントを与える必要がある際にファシリテーターが話すべきケーススタディや”例え話”のようなエピソード、そして場合によっては参加者のワークの進み具合がなかなか芳しくない場合に手を差し伸べるという”気の利いた方法”、はたまた「このステップは臨機応変に進めないといけないから運営チームは常にバックグラウンドでSlackをやりとりしながら柔軟に対応する!」のようなインナーコミュニケーションの注意点も明記されたりします。
(実際にはそのようなワークブックを物理的につくることが必須という意味ではなく、運営者みんなが頭の中に思い描いておく、という方法もあるでしょう。)

レフトページの活用がファシリテーターの裾野を拡げる

このような「レフトページ」の事前準備と活用によって、熟練した経験をもつ百戦錬磨のファシリテーターではなくても、制約のある環境でのワークショップ運営がスムーズに、効果的にできるのではないでしょうか。
そして、レフトページを活用しながら熟練した経験を積んだデザイナー、ファシリテーターはレフトページに書かれていることから離れ、自分自身の”型”をつくり、柔軟かつ自由にセッションの場で振る舞えるようになるのでしょう。(left from the Left Page.)
創発的なワークショップなどのデザインアクティビティ自体をどのようにデザインするか?デザインという行為への様々な立場やレベルのひとたちの参画機会が広がり、明快な答えがないお題に取り組む大変難しいことを、さらに制約のある環境で行う必要性が高まる昨今、その制約を逆手にとって意図的にクリエイティブな営みを創り出し活性化するための方法をどんどん模索していきたいと思います。


※「Left Page(レフトページ)」という考え方は、以前コーチングを学んでいた際に師事していたコーチングの師から教えてもらった概念です。ぼくのオリジナルではありません。

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