見出し画像

『 いつか逢うなら、今がいい 』

中野警察署の前を通った。
建て替え前の古い社屋はもうない。
でもあの古びた建物が今でも忘れられない。

前を通るたび、胃の真ん中がキュッとなる。

安置所。薄暗いその部屋に
横たわっていたのは親友だ。
ドラマみたいに
顔には白い布がかけられていた。
ドッキリみたいで少し笑っちゃうくらいだった。

馬鹿話して、花札やって
タバコ吸って、酒飲んで
その背中を送り出してからたった1時間。


幾度となく一緒に聴いた
『粉雪』はしばらく聴けなかった。
今も不意に流れると涙が滲む。
もう長い月日が経つのに後悔が押し寄せる。

それでもそのたび
弱気になってはいけないと
大きな体でゲラゲラ笑う顔を思い出す。

「 悠、大丈夫 」と
幾度となく背中を押してくれた声を反芻する。


逢いたい人にすぐ、逢いに行く理由は
成功のためでも、仕事のためでもない。

明日が来るかどうかわからない、
心の底からそう思うから。

ちゃんと生きるって約束した
あの日から19年。

君に逢う「 今 」はまだ来ない。
でもきっと、それでいい。

#エッセイ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?