小ぶりの水槽に三分の一ほど土が盛られていて、その中にカブトムシの幼虫が一匹いるというのである。四半世紀前の6月、掃除道具を探しに行った近所のホームセンターで目に飛び込んできた。オスかメスかはわからないという。私は子供の頃から大の昆虫好き。息子の情操教育のためと称して、ワンコインで買い求めた。結局、息子が興味を示すことはなかった。 今か今かと私だけがワクワクしていた7月終わりのある朝、とうとう成虫が姿を現した。オスだった。すばらしく立派なツノである。さっそくキュウリ
1967年制作の「卒業」。言わずと知れた、アメリカンニューシネマ代表作の一つ。サイモン&ガーファンクルの名曲もあまりにも有名ですね。 ラストで、ベンジャミン(ダスティン・ホフマン)が結婚式中のエレイン(キャサリン・ロス)を教会から連れ去るとき 閂代わりに十字架を扉に差し込んで追っ手を阻みましたね。あれ、凄いシーンだとつくづく思います。他ならぬ十字架を「道具」として、しかも乱暴かつ「インモラル」な行為の道具として、ちょうどいい物があったとばかり使う。「ピューリタンが造っ
浅田美代子が詐欺犯役で主演。 1970年代ドラマ「時間ですよ」で共演して以来 家族同然に親しくしている浅田美代子に代表作を作ってあげようと樹木希林が企画したと、希林の最期までの日々に密着したNHKドキュメンタリー番組で紹介されていた作品である。 希林の思いに応えるような、凄演だった。 彼女と同年代の私には、「時間ですよ」でデビューした可愛いこちゃんイメージ。今世紀に入ってからはバラエティ番組でおちゃらけてもいたが、2015年に上映された「あん」ではいい人や優し
昭和元年に広島市で生まれ 昭和19年に呉市に嫁いだ主人公の昭和21年までの不器用ながらひたむきな日々。 まさに「この世界の片隅」のディテールが、丁寧に描き込まれていた(昭和20年8月15日午後に呉の町なかで一枚の太極旗(現 韓国旗)がはためくさまを含めて)。だからこそ静かな反戦映画の佳作たり得てもいると思う。
☆寅さんシリーズ1969年~95年公開☆ 「男はつらいよ」シリーズを全48作なんども見ているが、わが息子が社会人になってから「分かった」ことがある。 寅さん。「高嶺の花」に次々と惚れまくるわ、正業にはつかないわ、たまに実家の団子屋の店番をしても注文の電話を叩き切ってしまうわ。 と並べると家族にとってただの厄介者でしかないが、実は「かけがえのない」存在。 テキヤ仕込みの座談が愉快で夕餉が楽しくなる(たいてい最後は喧嘩になるが)といったことももちろんあるがそれ以上に、
☆原作は直木賞☆2014年1月公開作 タキの甥の息子。戦前は暗黒時代だったとの「知識」をタテに「おばあちゃん、嘘書いちゃダメだよ」と再三言う(当時の会社員中流家庭における「女中」も彼には理解の外)。 「小さいおうち」の「女中」だったタキが自叙伝に綴っていたのは「本当」のことである。市井の人々の暮らしには戦前にだって喜び楽しみがあったと。 だが最後に「嘘」を書く。正治の方から「おうち」に会いに来てほしい旨、手紙を書くよう「おくさま」に進言。その手紙を彼に届けなかっ