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月1回ロマンスカーに乗って集金に行くことで成り立つビジネスモデルの問題点:みずほ銀行に勤めている◯年前の私へ(西新宿支店編2)

「大丈夫!そのうち、移動時間なしでも売上が上がる時代がやってくる」

リモートワークが進んで良かったことの一つに、移動時間が減ったことがあります。

夜7時までオンラインで打ち合わせして、1時間ほど食事と休憩。8時からまた2時間打ち合わせをして、10時になったら風呂に入って寝る。

これらは自宅でリモートワークすれば可能ですが、実際に外で人と会う、お客様の所へ訪問するとなれば、実現不可能なことです。

さて、二ヵ店目である西新宿支店に転勤して、驚いたことの一つに移動距離がかなり増えたことがあります。

大手町支店の時には、担当先が支店の近辺に集中していたため、徒歩、もしくは自転車で移動できる範囲でした。しかしながら、前任者からの引き継ぎ挨拶に回ったお取引先の中には、クルマで片道1時間以上かかる会社もあったのです。

各支店では概ね担当の地域が決まっています。けれども、厳密にここまでがA支店で、ここから先はB支店のエリアと定まっていた訳ではありません。このため、何らかの経緯で少し遠方の会社との取引が始まった場合、神奈川県にあっても、西新宿支店で担当するということがありました。

また、以前は支店の近くに会社があって取引が始まり、その後、会社が移転した後も、支店の移管手続きは行わずに、引き続き当初の支店が担当するケースも少なくありませんでした。

私は融資課に配属になったのですが、同じ課の先輩のお取引先はかなり広範囲にまたがっており、時々「今からロマンスカーに乗って行ってきます!」ということもありました。

支店からすれば、半期毎の目標を達成するためには、たとえ遠方にあっても、優良なお取引先は手放したくないという考えがあります。

一方で、お取引先の方も、

・歴代の支店長にも前からお世話になっている
・融資条件等が大きく変わるのは避けたい
・支店にも格があるので、たとえ近所でも格下のお店では嫌だ

といった意向があると、「たとえ物理的に遠くても、取引店を変えたくない」とおっしゃるところもあります。

このため、場所は離れて、移動距離は長いけれど、引き続き今の支店での取引を続けているというケースが少なからずあったのです。

当時は今と違ってリモートワークはなく、電話で話をする以外は、遠方であっても直接訪問して打合せするのが一般的。このため、移動距離の長いお取引先に行く際には、「この日はC社デーだ」と割り切る必要がありました。

その際、商談に行くならまだ良いのですが、過去の取引経緯から、「月に2回は集金に行って、手形や振込用紙等を預かってくること」が暗黙のルールになっている先もあり、「特にこれといって用事はないんだよなぁ」と思いつつ、軽自動車のハンドルを握っていたこともあります。

取引採算を考えた時に、売上からもたらされる利益に加えて、取引関係維持のために必要な人件費や事務経費等を勘案して、「こことの取引は本当に儲かっているのか?」を検証することがあります。

しかしながら、移動時間を別の用途に使ったら「いくらぐらい儲かっているか」という逸失利益まで勘案するのはまれです。

私自身は、起業してからは、あまり遠方との会社とのお取引はなく、東京都や神奈川県におられるクライアントさんとのお取引が中心でした。

けれども、新型コロナの影響で一気にリモートワークが進んだお蔭で、クライアントさんの地域も北は北海道から南は鹿児島まで一気に広がりました。これは移動時間がなくなったことで、物理的な距離の長さがお互いに気にならなくなったからです。

一方で、転勤した後の地域の広がりは、必ず移動時間を伴うもの。当時は総合的な取引採算など、一担当者としてあまり気にしていませんでしたが、銀行全体を見ても、「逸失利益を含めて、抜本的に取引先を見直そう」と考えていた人は少なかったように感じます。

長く事業を続けていくには、当方にとっても、先方にとっても、何らかの犠牲の上に成り立つビジネスモデルはいつか破綻します

そして、たとえその課題に気づいていても、見て見ぬふりをする風土が定着していると、やがて、優秀な社員や金銭感覚の鋭いお取引先ほど、会社に三行半を下す恐れがあるので、注意しましょう。

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