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「100日後に死ぬワニ」からマーケティング関係者が学べきこと

この件について、あれこれと考えていたのですが、いろいろなことは省いて結論から書こうと思います。

結論から言えば、この件からマーケティング関係者が学ばなければならないことは、

熱量のコントロール

の1点に集約されるかと。

今回の炎上を指揮にすると以下になるかと思います。

A.関係者の熱量 × B.読者の熱量 × C.外的要因(電通&コロナ)

そして、関係者(=制作サイド)がコントロールできたのは、Aのみです。Cのコロナに関しては多少考慮できたかもしれませんが、やはりAのコントロールを誤ったということだと思います。

順に考察してみます。

C.外部要因①電通

まずCの外的要因について。1つ目の外的要因、電通について。まず、現在は電通は叩いていい対象に認定されています。従業員に関する問題や現在オリンピックに関することをはじめ、ベースとして昔から根強い電通陰謀論があり、電通に関することは無条件に批判していいという風潮になっています。

そんな背景の中、誰かがこれを「電通案件だ!」と叫んだのでした。でも、ちゃんと見ると、その根拠は薄いというか、まっかく関係なくね?というものでした。

根拠の1つがYoutubeに記載されたスタッフの欄です。全体の企画ではなく、movie staffのPR担当が電通の子会社である電通PR。まあ、関係が全くないとは言えなくはない、movie staffのPRが全体に関わっているわけもなく、電通PRは電通ではありません。また、他のスタッフを見ると博報堂の関係者もいるみたいで、それでいうなら博報堂案件とも言えるわけです。しかし、博報堂は叩いていい認定は受けていないためスルーされます。(もう一人電通本体らしき人も名前があるのですが、何故電通PRが取り上げられたのかは謎です)

そしてもう1つの根拠が「株式会社ベイシカ」の主要取引先に電通が書かれているということでした。株式会社ベイシカの代表取締役の中尾 恭太さんが、「100wani Project」の統括をされています。ご存じの方も多い方も多いと思いますが、主要取引先は主要な取引先であって、そこと資本関係があるとか、蜜月であるとかそういうことが書いてあるところではありません。今回の件では、主要取引先に書いてあったのは「電通東日本」です。地域電通の1つで、電通北海道や電通西日本、電通九州、電通沖縄などと同様に電通本体が受けない地域に根差した小規模のクライアントを担当する会社です。ローカルの広告代理店です。電通東日本も電通ではありません。

もし主要取引先に電通がある会社が電通案件として言われるのであれば、ほぼすべて企業が電通案件になってしまいます。各テレビ局、雑誌社、テレビCMを打つような企業、はたまたオリンピックの公式スポンサーになるグローバル企業、もちろん広告の取り扱いでは、Facebook社もGoogleもTwitter社も広告が主な収入源なので、電通は主要取引先です。なので、”主要取引先ルール”を適用するならばすべてのTwitterに関する案件は電通案件になります。

つまり、本来であれば無理筋な話の展開なのですが、電通は無批判に叩いていいという暗黙の了解があるので、誰も確かめもせずにRTをすることになりました。

C.外部要因②コロナ

コロナがなんで関係するのか?と思う人もいるかもしれませんが、今回の炎上にコロナ要因は外せません。日本はまだ欧米のように外出禁止まではでていませんが、不要不急の外出は控えなければという環境なので、飲み会や外出は少なくなっていますし、様々なイベントが中止になっています。つまり、みんな暇なのです。暇であれば何をするか?聞くまでもなくTwitterです。Twitter民が何をするかといえば、もちろんTwitterなのです。そんな状況での100日目なので、否応がなく待ちわびる人が多かったはずです。しかも、最終回の投稿は少し遅れたのでしたよね?さらに、待ち遠し気もちが高まったはずです。

つまり、期待値がものすごい高い状態にあったと言えます。

仕事をする上で、期待値コントロールはものすごく重要です。相手に期待値をどのくらいで持ってもらって話をするか?はある程度コントロールができます。今回この部分はテーマではないので割愛しますが、コロナ影響で待っている人の期待値がものすごく高い状態にあったのは、関係者もある程度わかっていたはずです。

B.読者の熱量

昨年の12月にはじまった「100日後に死ぬワニ」というマンガはスタート時から話題になっていました。私は前述のとおり見ては見てはいませんでしたが、私のタイムラインでも高頻度で流れてきており、みんな関心が高いのだなぁと思っていました。

日にちを重ねるほどに、病気の兆候も(戦争など)外部環境の悪化も描かれず、淡々と日常を重ねているのを見ているうちに読者のこの先はどうなるのだろうか?いや、ここまま死なずに終わってほしいという気持ちというか、期待というか、ヤキモキした感情はどんどん高まっていったのだと思います。そして、前述のコロナ影響もあり、他の楽しみが少なくなっていく中でのワニに対するボルテージは上がっていったのだと思います。

A.関係者の熱量

以下の動画でいきものがかりの水野さんが語っていますが、今回のプロジェクトは関係者の熱量がものすごく高かったのだということがわかります。

作者のきくちさんにも強い想いがあり、1人でマンガをスタートさせ、その途中でいろいろなメンバーが100日に終わりを迎えるという制約の中、既存のルール、常識、契約関係をすべて関係者の熱い想いで乗り越えて形にしてきたのだと思います。

いきものがかりも4月に独立という節目にあり、通常であれば2月半ばから1か月で曲をリリースするなんてこれまで経験もなく、所属事務所、音楽レーベルなどの関係で不可能だったことが、自分たちの力で可能にできていく奇跡を実感していたことだと思います。

それは、それ以外の関係者、グッズ制作会社とか、そのグッズを販売する会社(祭事の企画は年間計画が立てられていて、そこに新規をねじ込むことはかなり難しい)、書籍、映画など、それぞれの関係者がものすごい熱量で仕事を進めたのだと思います。(言い方は悪いですが、高校の文化祭でものすごい出し物を短期間で作り上げる高校生のような)

逆に電通がいたらここまで炎上しなかったかも

ここまで4つの要因を個別に書いてきましたが、

A.関係者の熱量 × B.読者の熱量 × C.外的要因(電通&コロナ)

この4つが掛け合わさった時に、炎上が起こってしまったのだと思います。最終話はものすごい数のRT、ファボがなされ、投稿1時間で1億impを超えたのだとか。

燃え上がる炎が強ければ強いほど、それに対する反動も大きかったのだと思います。冒頭にも書きましたが、これは関係者の高かったため、いろいろなことを急ぎ過ぎたのだと思います。

自分たちが一生懸命、これまで無理だ、不可能だ、常識外れだと言われことたちを短時間でまとめあげ、形にできたことの気持ちが前面に出過ぎて、読者を置き去りにして発表を急いでしまった。関係者にとっては急いでいた気持ちはなかったのかもしれません。むしろ、もっと早く伝えたかったもしれません。気持ちは文化祭の高校生だから!俺たちすごいことしたよ!って。

もしこれが、AとBだけあってCがなかったら成立したかもしれませんが、やはりビジネスにとって外部環境に対して敏感にならなけばなりません。リーチする人の数が増えれば、当然自分たちを嫌い!っていう人も増えてきます。明らかに今回の電通の件は完全にもらい事故で関係者に非はまったくありません。もちろん、電通にも非はありません。今回の件はまったく関係ないのだから。

では、今後ここから学ぶべきことは何かというと冷静さでしょうか。今更、「冷静と情熱のあいだ」なんて言ってもピンと来る人も少なくなったかもしれませんが、関係者の中にもっと冷静に客観的にこの事態を俯瞰して見えている人がいれば違ったような気がします。

それこそ、本当に電通のプランナーがかかわっていたら、違う感じで最終話以降の情報発信ができたのでは?と思います。水野さんときくちさんの動画を見ていて思ったのは、二人にやって後悔はないという気持ちはその通りでしょうが、やはり最後にくさされて、消費されて終わるのはやはりもったいなということです。この件があってもなくても、この作品から「死」というテーマを考えるきっかけになっている人はいて、それはそれできくちさんの想いが伝わったということになると思います。でも、そこに関係する会社があるのであれば、もう少し色々できたのではないかと思ってしまいます。


「100日後に死ぬワニ」からマーケティング関係者が学べきこと

やはり、熱量のコントロールです。この件がそうだという気はありませんが、自分たちの想いだけでは世の中は動きません。自分たちが想いが強ければ強いほど、それを冷静に、客観的に見れる眼が必要です。

文化祭であれば、

そんな冷めた奴はアンチと同じだからハブって自分たちだけでやろうぜ!

で済んでしまいますが、やはり、それをビジネスにした場合はそれだけではダメです。事業会社であれば事業の継続性にも影響するし、マーケティングサポートの会社であれば、その後の受注に影響します。

現在、Twitter界隈では、ノリと勢いと古いものの否定だけでビジネスを語っている人が多く見受けられます。小規模の仕事であれば、それでも成立しますが、ビジネスが大きくなればなるほど、それだけでは済まなくなります。

また、今回の件を他人事だとか、タイミングの問題だとか、電通案件だからだとして片づけてはいけません。関係者には悪いですが、ものすごいケーススタディとして学ぶべきところがあります。これ以上細かい話は、長くなったので止めますが、機会があればまとめてみたいと思います。

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