見出し画像

レビューと先入観の罠にはまる時もある

愚痴をこぼすちゃうんだけど、聞いてほしい。
夜、1ヶ月前に予約していたイタリア料理のコースを食べに行った。

そのお店は自身のYouTubeのチャンネルを持っている。
料理を作るところを見るのが好きな私はシェフの話を聞きながら、それを眺めるのが好きだった。
働いている店員さんも熱意のある方たちが多く、皆でお店を作り上げている感じにとても好感を持っていた。
同じ「食」に携わる者として、勉強になることが多くあった。

チャンネルの登録者数も多い、飲食店のレビューサイトを見れば、星4以上の評価をとっている。私も料理を作る風景を見ているので、食べてないにしろある一定の期待を抱いていた。


そしてついに、食べに行く日。
パスタやピザの1品ものを頼めるランチもあるが、奮発をして夜のコースを予約した。
今まで見てきたシェフのこだわりの料理を堪能したかったからだ。

その日はお昼も控えめにして夜に備えた。
お腹がぐるぐると鳴る空腹の時間が嬉しいと思ったのは久しぶり。
空腹と期待感をお腹に抱えながら車を走らせた。

予約の15分前に到着。
お店の前に数組のお客さんが時計を見ながらソワソワしていた。



「コース料理の予約した人たちかな。同じ志を持った友よ。」

初対面なのに親近感を感じていた。
同じ場所で食べる人には謎の親近感を抱いてしまう。


席に案内されてソワソワと店内を観察。
ダークウッドの壁と床、テーブルには私が持っているものと同じオイルランプの大きいサイズが置かれていた。


インテリア一つ一つに心が躍る。
小さな画面で見ていた光景が、フィルターを通すことなく目に飛び込んでくる。


若いお兄さんがお水を持ってきてくれる。
飲食店のお水は料理の前に、どうしても意識してしまう点である。
水道水か、ミネラルウォーターか、ハーブやレモンなどを入れているか、氷は美味しいか。お水1つとっても、そのお店の意識が感じられる。
と言っても、それほどお水に詳しいわけではないので、「ミネラルウォーターーだ!」と思っていたら水道水だったことだってよくある。

丸みがあって、最後に雑味が残らない。
ミネラルウォーターかな?
ちびちびと口に含んでいく。


最初にやってきたのは「チーズの盛り合わせ」
料理と料理の待ち時間に食べてお待ちくださいとのこと。
6種類のチーズが黒いお皿の上で、暗い空に月明かりが反射した雲のように散りばめられていた。1つずつチミッと噛み、口の中に転がしていく。

後半に乳の濃厚さを纏うもの。
スモーク臭と共に軽い酸味を伴うもの。
白ワインに似た酸味を持つもの。

それぞれに個性があって、1つ1つが違う音楽を奏でる。
バラバラだけどまとまりがあって、口の中が楽しい。


チーズで期待値を高めて、お兄さんが持ってきてくれた前菜。
「カブを丁寧に焼き蒸したポタージュ」
本当はもっと説明があったんだけど、後半の衝撃で全てが飛んでしまった。メモしとけばよかった…

蜂蜜入りのどら焼きの皮のような照りのある茶色いお皿。
その中心に、白くとろみのあるスープが満たされている。
ついにシェフの料理との対面。昂っている。
この状態でちゃんと味わえるのだろうか。
ええぃ!そんなこと考えていたらスープが冷めちゃう。
いこう!

スプーンでひとすくい。口に運んでいく。


カブどこいったん????


心の中の第一声だった。
丁寧に焼き蒸されたカブの風味が旅立っていて、スープの中にはお留守だった。置き手紙のような「っあーーー……根菜?」という、微かな居たであろう雰囲気を感じ取れた。

なら誰が残っていたのかと言われたら、塩味が奪われた香味野菜の旨味とサラリとした乳感。どこか肝心な部分がなくなってしまっていた。
もう一度言いたい、カブどこ行ったん??
この後の料理で帰ってくる?

スープで疑問を抱いたが、それだけでは私の期待感は枯れない。
最初の第一印象で決めつけてはいけない。
だんだん魅力は出てくるものさ。


2品目は「タイのカルパッチョ 〜ケッカーソース添え〜」
ケッカーソースはイタリア発祥の万能ソースで「冷たいトマトソース」という意味。夏の「冷製〜」系料理には欠かせないソース。
イタリアの家庭では冷蔵庫に常備されているものらしい。
日本で言うめんつゆかな?

ドライトマト、オリーブオイル、ケーパー、イタリアンパセリで作られているそう。
エメラルドグリーンの水面のようなお皿の中心に淡い桃色の鯛が花開く。
それを囲うようにハーブが散りばめられ、アクセントにバルサミコ酢の茶色が彗星のように真っ直ぐ鯛の花を通過する。

ハーブとバルサミコ酢と合わせることで味の変化が感じられるのだろうか。未知の味わいに心が揺れる。どんな味わいが口の中に広がるのだろう。

パクリ。

ん、んんーーーそっか。

何とも言えない。ケーパーが前面に来てからの上に消えていくオリーブオイル。想像していた「わっ!?」がない、いや私が期待しすぎていたの…か?

鯛の臭みは綺麗に消えていて身もふっくら、下処理の丁寧さが感じられる。それに合わせるソース!!!もう少し塩味とイタリアンパセリ増やしてもよかったのでは?

ハーブと一緒に食べると完全にハーブになってしまう。バルサミコ酢と食べると赤ワインのような風味と甘酸っぱさが立ってしまって、鯛と繊細なソースとの調和が難しい。それぞれの割合を考えて食べれば絶妙なのかもしれないが、その前にお皿から鯛がなくなってしまった。


もしかしたら、塩味を控えめにしていたのかもしれない。
私の舌が濃い味にやられていたのかもしれない。反省反省。

お水でリセットして、心を落ち着かせて3品目。
「ブロッコリーベースの冷製ソースとエビチーズソースのかかったオムレツ」
オムレツと冷製ソースの温度差をお楽しみくださいとのこと。

まーーるく大きい円のお皿の中心にちょこんとした窪みに眩しい白みがかったオムレツ。上から白いソース。周りは新緑のように鮮やかな緑のソースが包囲している。

温度差を楽しんでとのことだったので、半々で行ってみましょう…


ぬるいっ!え、ぬるい…え!?


出されたてを食べたので時間が経ったわけではない。

ははーーん。2種のソースを一緒に食べてしまったからだな。
1つ1つ食べてみ…

ぬるいーーーー泣

冷製ソースだけでも十分常温だった。エビのソースも温かくない。
このお皿は温度が奪われてしまったのか。いやそれだけではない。

塩味迷子。
この子もかーーー。もう少し、あと2つまみ。ください、塩を。

全体的にまとまっている、とは言えるのだが、何も主張がないとも言える。ブロッコリーのソースはしいて言えば、最後に青っぽいえぐみが出ている気がする。だけど、オムレツと食べることで甘さがカバーしてくれるのでそこまで気には留めない。


むむむ。と悩みながら、次の品が運ばれてくる。
ここからは少し省略を入れます。

焼きたてのパン2種:小麦の香り、奥からくる控えめな甘さが美味しい!オリーブオイルもフレッシュで香りがあって、辛さはなく小麦を引き立てる。

ジェノベーゼパスタ:イタリアでは「ジェノベーゼ→香味野菜とお肉を茶色くなるまで炒めたもの」らしい。素朴な味だが、ボロネーゼ一歩手前の味で何か足りない気がした。奥に広がっていく深み(フォンドボーのようなもの)が欲しい。

長野県産和牛のイチボ:かかっているグレイビーソース?のバターが少し酸化している気がした。お肉自体は弾力と柔らかさがあって食感がとても楽しい。火入加減が絶妙。でも、すぐに噛みきれないため、口の中に長期滞在する。その間に下味の塩が消え、ソースの味もなくなってしまう、後半はお肉とのマンツーマンになってしまう。


唯一、口に入れた瞬間衝撃が走ったのは「真鯛のアクアパッツァ」
真鯛のふっくらとした火入加減。単体ではしょっぱいが、淡白な真鯛と合わせた瞬間、一体となるスープ。噛むごとに旨味と甘みが爆発してスープにコクを出してくれるドライトマト。全てが調和している。
すごい。インパクトがありながら、最後は繊細な旨味で締まる。飲み込んだ後も口の中に旨味と幸せが残っている。スープにご飯入れてリゾットにして食べたい。何なら水筒に入れて会社に持っていきたい。

何を入れているんだろう、何がこの旨味を出しているんだろう。自分が再現するなら何を入れるか。
食べた瞬間に色んな思考が頭の中を走る。
お皿の中の作品から目が離せない。
食べ進めるたびになくなっていくのが寂しくなるけど、口の中には幸せが溢れていく感覚。白い紙の上に筆を走らせたくなる。


ラストのドルチェは「ピスタチオとイチゴのタルト」
イチゴの酸味とピスタチオのねっとりとした味わい、の中にどこからともなくやってくるパンチの効いた塩味。

今ままでの料理で迷子だった塩がここに集結してたん?

最後の最後に塩がアピールしていた。君の持ち場は他にもあるよ。


ぐるぐる考えながら帰り道を走る。
想像の味ではなかったけど、「ここが美味しい。何が足りない。塩味の重要さ。料理の中心となる食材の立たせ方」と色々考える時間をもらった。


映像で見ていても、レビューが高くても、体感しないとわからない。
先入観は時にハードルを上げてしまう。いい時もあるし、悪い時もある。
レビューが高いからと言ってそれが正解とは限らない。
人それぞれ正解は違うのだ。


まとまらないな〜と思いながら、心の中を出せてスッキリ。
ハーゲンダッツのバニラを食べながら、「今度はお昼にパスタを確認しにいってみよう」と計画している。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?