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An obsession of artificial flowers

  

その頃 世界はカタルシスを求めていた。


年若い晩年
僕は自心を犯してしまった。

詩と云う不道徳
そしてまた純潔と云う瀆神。

僕は犯してしまったのだ
自らの血と心を。

大いなるこの達成が
遡航する未来へとトランスする秘密の通過儀礼(イニシエーション)。



*****

その頃 私は天才を装っていた。


人々の目に見えるものごとは、「選別」と「再配置」であることを見抜いていた私は、
たとえば何かしら瘴気が悪さして、ゴホゴホと咳き込んだ風で、
夕べからまた熱が出てきていたのだが、
宿題があった。

『ポイ捨て禁止のポスター』
朝未き、内なるダイモーンの命ずるまま一気に仕上げた。
それを迎えに来た近所の友に託し、私はまた仮寝の床に就いたのだが、
私は勘違いしていたのだった。
提出はその翌日なのであった。

 さて、秘匿の一日の後、学校に出た私は、
前日の朝作品を託した友が提出したものを見て、
愕然とした。

恐怖がムクムクと頭をもたげ、
たちまち積乱雲のような冷たい暗黒が眼前に隆起して、
その中では戦慄が、
古代オリエント風の戦車で旋回天駆しながらも、
槍を振り回してはグァラグァラと稲妻を発していた。

私のものとそれは瓜二つで、違いといったら、たばことその先から立ち上る紫煙を模した渦巻きの向きぐらいのもので、まるで鏡像のように再配置されているのだが、不思議と違う絵に見えるのだった。
それは、けっして重なり合うことのない鏡像、
つまり、”キラル” なのだった。

individualが発する産声のようなエネルギー感に欠くとはいえ、見本を前に何度か書き直したのであろう、その一晩の習熟した技術によって、imitationは、原画よりは余程キレイである。
ルネッサンスの巨匠が描いたパトロンの肖像画のように。

震える私の視界の端で、今朝は迎えに来なかった友が、クスッと嗤ったように見えた。

その口元から僅かに覗いた、
片方の犬歯。
私はそれを雪花石膏(アラバスター)のようだと思った。

白状しよう。
剽窃者の口元に飾られた無垢なる乳白色の、
何という”純真”。
私はそれを愛したいとさえ思った。 
 
それは、

確かに”美し”かったのだ。

 


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