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あなたが知らない「パワーコード」の世界

「パワーコード」とは?

そもそも「パワーコード」とは何?って話なんですが、要はルートと5度だけを鳴らすというやつです。
ドミソの三和音に代表されるように、多くのコード(和音)は3つ以上の構成音から成り立っている場合が多いわけですが、このパワー・コードはルートと5度(またはそのオクターブ下=ルートの4度下)のみで構成されているものをいいます。つまり、メジャー/マイナーを左右する3度の音すら省いてしまっており、調性感の乏しい和音ともいえます。
ところがこの5度(もしくは4度)というインターバルはどういうわけかギターにおけるディストーション・サウンド(ギターに限らず、例えばハモンド・オルガンも歪ませてロング・トーンを弾いたりするので同様ですが)と相性が良く、深く歪ませても音が濁ったりうねったりすることがなく、分厚くかつストレートな響きが得られるため多用されています。

TOTOの「Hydra」は本当はどうやって弾いている?

基本的な説明はここまでにして、今回取り上げるのは1979年にリリースされたTOTOのセカンド・アルバム「Hydra」のタイトル曲です。

この曲、高校生の時にコピーしたんですが、メイン・リフの響きがどうも同じにならないなー、と思っていたんですよね。

当時、自分が弾いていたのはこんな感じ(下記TAB譜)。

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ご覧の通りこのリフは2小節がワンセットになっているのですが、2小節目後半のところがパワーコードで演奏されています。当時はギター演奏歴も浅かったため、5弦がルート、4弦がその5度上、そして3弦でルートのオクターブ上、という典型的なフォームを平行移動させるような形で弾いていましたが、最後のEのところはギタリストなら耳馴染みのある1&2弦開放のオープンな響きが特徴的だったため、勢いよく1&2弦の開放までまとめて一気に弾き下ろすような感じでプレイしていました。

でも、やっぱりなんか違うんですよね・・・響きもさることながら、前後のつながりなどを運指面から考えてもしっくりこない。
その後、近年になりYouTubeでさまざまな人によるHydraのギター・カバー動画を観る機会があり、これが正解か!と思ったものもあったのですが、やはり決め手に欠けるような気もしたり、ずっとモヤモヤしていたわけです。

これが正解?「Hydra」にみる3つのフォーム

で、改めて本家、つまりTOTOのスティーヴ・ルカサーがどうやって弾いているかを確認することにしました。上に貼ってある公式のPVでは今ひとつよく分からないので、興味がある方はYouTubeなどでライヴ・ヴァージョンを探ってみていただきたいのですが、ルカサー本人はこの部分、ほとんど同じポジションで弾いていて、間違っても同じフォームの平行移動なんかでは弾いていないということがわかります。

このことを手がかりにあれこれ試行錯誤して、ようやく自分なりに正解に近づいたのでは?と思っているのがこの弾き方です。と、いうわけで頑張って動画に撮ってみました。

本家の音源に合わせて弾いてしまうと違いが分からなくなるので、ネットで見つけたフリーのMIDIファイルをLogic Pro Xで読み込んで調整したものをバックに弾いてみました。ですのでギター・パートは自分で弾いたもののみしか聞こえていません。

タイム感が悪くてかっちり弾けていないのは申し訳ありませんが、そこのところは目をつぶっていただくとして、いかがでしょうか。結構本家に近い感じになっている、と自分では思うのですが。

タブ譜だけを抜き出してみるとこんな感じ。

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押弦しているのは2〜5フレットの間のみ。これなら同じポジションで弾けます。ステージ上でアクションを決めながら、手元を見なくても弾けることも大事ですが、何よりポジションを移動する際のスクラッチ・ノイズの心配がありません。

ミュートがしやすく、ノイズも少ない省エネ奏法?

その昔、Charがルカサーを始めとする西海岸のスタジオ・ミュージシャンたちと「USJ」をレコーディングした際、「何でそんなノイズの出やすいコードの押さえ方をするんだ?」みたいなことを言われたという話があります(たぶん「ヤング・ギター」誌に掲載されたCharのインタビュー記事)。ルカサーは売れっ子セッション・マンとして経験を積む中で、限られた時間内にOKテイクを録るため、うまくミュートしてノイズを出さないようコードの押さえ方も工夫していたのかもしれません。

そういった意味では、最初の4連の下降フレーズの4番目のA音は5弦開放ではなくて、6弦5フレットを小指で押弦するのもアリですね。ブレイクでビシッと音を切るのに押弦した指を浮かせるだけで良いので、コントロールがしやすいかもしれません。

ちなみにルカサー本人もこの部分はタイム的にシビアだと思ったのか、リリース翌年(1980)の日本武道館ライブなどを聴くと、休符の部分全部に空ピックを入れて弾いています。その弾き方を考慮するならば、やはり右手のパーム・ミュートよりも押弦した左手の指を浮かせる形で空ピックを織り混ぜるほうが理にかなっているような気もします。
公式音源としてはリリースされておらず、ブートレグ(海賊版)およびTV放映時の転載動画などになるため、リンクは割愛します。興味のある方は探してみてください。

というわけで、パワーコードの鳴らし方も実に奥が深いなあ、と改めて思い知らされました。同音異弦が可能な弦楽器ならではの表現、といったところでしょうか。それではまた次回!ネタがあったらお会いしましょう。

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