元居酒屋店主が教える「人に愛される聞く技術」

聞く技術に関していいますとただどんどん質問していけばいいというわけではありません。それはお互いの心理的距離が関係するからです。

なんかのデータにあったのですが、エジプト人の初対面の人に対する心理的距離は私たち日本人の距離感より圧倒的に近いようです。私は今メジャーを出して図ってみましたが初対面の人と話す場合には距離は60センチ程度開けていないと心理的ストレスを感じそうです。しかしその距離はエジプト人の場合にはもっと近いようなのです。

仮に誰か初対面の人が私と話をする場合に40センチくらい近づいてしまうとかなりうっとおしく感じるかもしれません。異性なら別ですけれど。

そういう面で初期の段階では心理的距離を理解してあまり個人情報を聞かないようにするのが一つ目の技術です。だから相手の名前とか年とか会社を聞かずにはなしをしていく必要があります。


話の取っ掛かりということでどういうことを話すかということですが、私の店は居酒屋なんで大体定番が決まっています。皆さんは何と話しかければいいと思いますか?

1 このお店は初めてですか?
2 ビールがすきなんですか?私もビールが好きでとくにベルギービールなんかがすきで、最近はまっているんですよ。

ちなみにだめな2例を挙げました。1番に関してはちょっとぶしつけな質問ですね。誰かの紹介とかでくる場合もありますけれど、それじゃない場合、「一見さんお断り」みたいな感じですね。そういったことを聞く店主は結構いますね。

2については相手に質問をして、同意をしていて、なおかつそこから話を広げているような感じでよさそうですが、これこそがダメなトークの典型です。何がダメかといえば、まったく聞けていないのです。ビールが好きですか?なんてただの会話であって、掘り下げた質問でもありませんし、また相手の話を聞くよりもすぐに自分のことを語っています。
自分のことを話すためのネタ振りとして質問するなんてまさに愚の骨頂です。

正しい答えは
今日は暑かったですね。
今日はお仕事のお帰りですか?

このような第一声が基本です。まずは当たり障りのないことのキャッチボールからはじめるのが望ましいです。そこから次に進めるのです。


さて今日の聞く技術のポイントは「ネガティブワード」です。相手に気持ちよく話をしてもらおうとするあまりに、ひたすら相手を持ち上げて、気持ちよくさせて話をさせるというテクニックがあります。
それとは異なりこの「聞く技術」で推奨するのはネガティブな言葉、否定的な言葉をあえて入れるということです。それをやることでより相手の深いところの情報が出てくるのです。

たとえば「お仕事は何系ですか?」と聞いたときに
「IT系です」という返答があったとします。まあ一般的な情報では時代の先端をいっているので華やかなイメージとか知的なイメージがあると思います。そういうときに

「格好いい職業ですね」なんていってしまうとそこからの会話は非常に浅いものになっていきます。
そのため正しい答えとしては
「結構長時間労働なんじゃないですか?」です。さまざまな業界に対する浅い知識でもあればIT業界は結構長時間拘束されるということがわかると思います。そういう情報を踏まえその業態のネガティブなキーワード、「長時間労働」という言葉を入れることにより、相手としては「よく業界のことをご存知ですね。ちなみにうちの会社では最近9時前に帰ることなんてほとんどないんですよ」みたいに、ネガティブなキーワードに「共感」して話を聞いていくことができます。

このネガティブワードは結構重要なポイントで、今後も触れていくと思います。

人の話を聞くときの距離感にも関係するのですがどこに目線を合わせるかというのも結構関係してきます。

正しいやり方は「基本的には目を合わせない」です。相手の話を真剣に聞くときには目線を合わせるのは重要ですが、はじめてあったり、序盤の段階では変なプレッシャーを与えないということで目線を合わせないほうが望ましいです。ただし耳だけは傾けていることも重要です。

この目線を合わせない距離感について最近あった具体例をお知らせします。

その方は新規に当店に来たんですが話し方にも若干の特徴もあり、またその方自身も心に問題を抱えていて、人と接することが苦手だとおっしゃっていました。それであまり刺激しないようにと目線を合わせず、テーブルなんかを吹きながら「暑いですね」とか「今日は人があまり歩いていないですね」なんて当たり障りのないことを聞いていたりしてたんですけれど、そのうちにその方が「問わず語りモード」になり、自分の半生を話し始めました。

そのときの私は「へえー」とか「そうなんですね」くらいの適当な相槌でした。しかしその方が5分ほどひとしきり話し終えると「マスターがとてもいい人なのでこの店が気に入った」とおっしゃいました。

私自身は何もやった記憶はありません。しかし彼にとっては自分の半生を受け止めてもらい、理解してくれたと思ったのだと思います。これがもし私がしっかりと視線を合わせたり、あるいはあえて私のことばかりを話していたら、「この店が気に入った」とは言ってもらえなかったと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?