エースリングを探して

今更カミングアウトするが、私はアセクシャルである。性的関心が他人に向かないということだ。ついでにアロマンティックでもあるらしい。とにかく色恋沙汰には興味がないのだ。だれとだれがつき合った、別れたという話を聞いても、ふーんとしか思わない。一応結婚や出産の報告を受けた場合は、おめでとうぐらいは言うのだが。

偏見かもしれないが、多くの女子は小学校低学年、早ければ幼稚園ぐらいで恋の話をするようになる。少なくとも私の周りはそうだった。「誰が好きなの?」これほど私を困らせる質問はなかった。しょうがないので小2の私は、隣の席のT君と適当に答えておいた。これが間違いの始まりで、教師まで巻き込んでクラス中が私とT君をはやし立てた。T君、ごめんなさい。

小中高は恋愛どころではなかったが、大学生になると物好きな男が私に告白してくるようになった。つき合えば恋がわかるかもしれないと思ってつき合うが、そのたびにキスをせがまれたり上から目線の望まないアドバイスをされたりして、私は傷つくばかりだった。社会人になって体目当ての男とつき合ってしまったこともあるが、やっぱり私は傷つくだけだった。

いわゆる結婚適齢期に、元夫に告白されてつき合い、同棲を経て結婚した。だがやっぱり私には、恋愛も性愛もわからなかった。元夫は夫婦生活をしきりに求めてそのたびに私は応じてはいたが、ただただ苦痛な時間が流れるだけだった。もっとも離婚の理由はそこではなくて、いわゆるコロナ離婚だったのだが。

前置きが長くなったが、私は離婚を経てやっぱり自分はアセクシャルなのだと自覚した。そうこう考えていた時に、エースリングの存在を知った。エースリングとは、アセクシャルの印として右手中指に着ける黒い指輪のことである。ちなみにアロマンティックであることを表すには、左手中指に白い指輪をつけるらしい。

それから私は、中指にはめる黒い指輪を探しまわった。だがメンズサイズの黒い指輪はあっても、レディースサイズの黒い指輪はなかなかない。ときには黒いメンズのリングと白いレディースのリングがペアで売られているのを見て、女は黒い指輪なんかつけるなっていうのかガルルルと思ったこともあった。

だが、ついに私は黒い指輪を見つけた。同じ悩みを持つ人のために、店名を公開しておく。別に案件ではない。
ストーンマーケット
オンラインショップには黒いリングはないようだが、実店舗には様々なサイズの黒い指輪が売られていた。ただ結局、私の右中指のサイズは15号で、メンズの小さい商品でよかったじゃないかというオチがついたのだが。

数千円の安物だが、右手中指の黒い指輪は私の誇りの証である。

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