ノンノMOREブックスを知っていますか
奥付には、昭和57年10月1日とあります。
ノンノ・モア・BOOKS の第1号。トップ画像の下段左、赤い表紙が印象的なnon-noクッキング・ブック。
少し前のCOOKBOOK LAB.のSNSで『non-noケーキ・ブック』を上げたら、とりわけFacebookでは驚くほどたくさんの「いいね」をもらいまして。
それがきっかけで、ノンノ・モアBOOKSの料理テーマ号ばかりを買い集めてしまいました。
シリーズタイトルに「ノンノ・モアBOOKS」とついていることからわかる通り、1971年(昭和46年)に創刊され毎月5日と20日に発売されていたノンノと、1977年(昭和52年)に創刊され、ノンノより少し大人の20代女性に向けて毎月28日に発売されていたモアの2誌で掲載された料理や暮らしの記事を再編集したものなんです。
私が『non-noケーキブック』を買った当時は、単にケーキの本が欲しくて手にしたんですよ。再編集がどうのなんて意識もしていなかったですし、まあそんな編集の都合なんてことはまったく考えていませんでした。
だからね、あらためてこのシリーズを眺めて見るとですね、当時の編集姿勢に学ぶことが多くて思わず読みふけってしまうんです。
「料理を広がりのある豊かな生活空間の中でとらえてみた」
第1号の扉を開くと、まず「はじめに」が現れます。
あ、この場所は、雑誌で言うところの「表2対向」と呼ばれるページで、表2(表紙裏)と見開きになるので、広告スペースとしてはめっちゃ高い価格で売れるページです。
ファッション誌だったらハイブランドの広告が入るところ。
そこにはこんな文言が綴られています。
ノンノは、創刊以来すでに11年余りの年月を重ね、今なお新たな年輪を〜(中略)、新しい世代のライフスタイルを創り出してきました。
5000枚余りの写真とともに贈り続けてきた料理のページも、その例外ではありません。単なる料理写真にとどまらず生活の周辺、時のカルチャーをも映し込んで情報量豊かな映像たち。
(中略)
単に作ることのみを目的にした実用本位の料理書を超えて、料理を広がりのある豊かな生活空間の中でとらえてみました。見て楽しく、作って失敗のないこの一冊を大いに活用し、ホビー感覚で料理を楽しんでいただきたいと思います。
ほ、ほ、ホビー感覚……。
「単に作ることのみを目的にした実用本位の料理書を超えて」というところにもやられます。
翻って現在、売れてる本はすべからく超実用書です。
実用的でないと売れない、手っとり早く作れて、とりあえずおいしければいい、という価値観に支配されているかのように、10分で無理なく作れて、少ない材料で、失敗なし! とうたわれ、それでいて太らないとか、ほったらかしとか、フライパンとか電子レンジとか……料理のことよりも効能や効果がこれでもか! と詰め込まれています。
対して、ノンノ・クッキング・ブックでは、第1章は「デイリーに、ヘルシーにバランスよく食べる」というテーマのもと、ヘルシーに、さわやかに、野菜をおいしくたっぷり食べるためのドレッシングやサラダのバリエーションが取り上げられ、その写真ひとつひとつに、「いつかこんな暮らしをしてみたい」と夢想させる暮らしの風景が切り取られています。
それでいて野菜の紹介ページには、ちゃんと栄養素の説明が。
美しくキリトリ処理された写真は、当時の製版担当者の技術力に驚きます(画像のキリトリ作業、ここでうまく説明するのは無理だけど、とにかく面倒なのよ!)。
何よりも、この当時の雑誌のクオリティときたら…。
雑誌なのにカバーがついてる、第1章から第5章まで、本文ページは158ページもあるのに980円(ため息)。
「はじめに」にあるように、ノンノに掲載した記事の再利用だったとしても、いやいやいや…撮り下ろしたでしょう? という写真もある。
「シンプルだから料理が生きる白い食器」というページでは、洋皿がずらり。
第4章の「花嫁修業クッキング 料理の基礎テクニック集」すらも微笑ましい。「結婚したらそのときからあなたがシェフ」だなんて今、つぶやいたら即炎上だけれども、当時の女性はこういう記事で料理を学んだのね、と。
料理を創造的で楽しいもの・生活をより豊かにするもの
そして続く2号は、『MORE COOKING BOOK』として、もっと大人な雰囲気で編集されています。
さっそく「はじめに」を読んでみましょう。
77年5月の創刊以来、〜(中略) 料理を創造的で楽しいもの・生活をより豊かにするものという姿勢で〜(中略)密度の高いクォリティを持っています。
モアが、一冊一冊積み重ねてきたその確かな蓄積をフルに活用し、料理書のニューウエーブを、と企画編集したのが、この本です。先に発刊した「ノンノ・クッキングブック」を基礎編とするなら、いわば応用編にあたるこの1冊を大いに活用し、料理をすることの楽しさを十二分に味わっていただきたいと思います。
ええと…密度の高いクォリティ…。
でも、「料理をすることの楽しさ」。そう、楽しさです。
このページの白木で作られたキッチンが素敵、と見たらば、なんと。ていうか絶対にそうだと思うんだけど、きっとのこのキッチン、この撮影のためにわざわざ作られたセットだわ。きっとこんなおしゃれなキッチンセットは、作らなきゃなかったはず、だから…。
と思っていたら、実は、すごい出会いが。
ノンノ、モアの料理写真を撮っていたという奥谷仁さんからお話しを伺うことができました。
当時、集英社にはノンノとモアの専用スタジオがあり、スペイン風の窓枠やなんだかんだと分けのわからない大道具小道具が沢山ありました。
すごい。
撮影のために、いちいちセットを組んでいたとは。
ほとんどが再使用でしたが、かなり新規にも撮影した記憶があります。当時は予算も時間もありゆったりとやってましたね。それに比べて昨今の撮影はほとんどがお皿アップの写真ばかりで料理スタジオを借りてくれるわけでもなくデジタルのおかげですぐ入稿、いいものができるはずがありません。
う、耳が痛い。
この当時の写真は料理写真でありながら暮らしを映していたのでしょう。
レシピを読んでみても、今と変わる部分はありません。むしろあの当時、ディルのようなハーブやスペアリブを用意したり、白ワインをたっぷり使うなんていうことは、一般家庭で取り入れられていたとは思えません。
けれども、こういうものなんだ、と憧れ、勉強し、作ってみて我が家の味にして…とやっていたであろう当時の女性たちの努力に頭が下がります。
ノンノでは白い食器を紹介していたのに対し、モアでは赤絵の器や小皿・豆皿・手塩皿など普段遣いの和食器を丁寧に解説しています。この2冊を持っていれば、だいたいの毎日の献立はカバーできたでしょう。
クリエイティブな喜びに応えてくれるこの一冊
続く3号は、ふたたびノンノに戻って、今度はケーキブック。
こちらも実は、ケーキ・ブックというには難しい、家庭では容易に作れそうにないお菓子たちがてんこ盛りです。
全158ページの中に、スポンジケーキからパイ、クッキー、シュー、フルーツケーキにバレンタインケーキと、それはそれは楽しいラインナップ。
この本でも「はじめに」には、こうあります。
お菓子作りを通して、クリエイティブな喜びに応えてくれるこの一冊をあなたの身近な趣味の書としてぜひ、ご活用ください。
クリエティブな喜びが趣味なんかい、と思わずツッコミを入れてしまい、自分の卑しさに気づいて恥じ入る。
現代人は忙しいです。
昭和の時代は遠く遠くなり、平成どころか令和です。21世紀に入ったのだってもう20年も前。
大人はみんな働いています。
お菓子どころか、料理だってできることなら最小限の手間で乗り切りたい。
仕方がないですよね。
でも、と思ったんです。
少しだけ立ち止まって、「料理を趣味に」「クリエイティブな喜びに」「料理を創造的で楽しいもの・生活をより豊かにするものという姿勢で」向き合う時間を持ってもいいのではないか、と。
料理が好きな人はもっともっと楽しんで。
料理が嫌い、料理が苦痛だ、という人はどうか少しだけ38年前の言葉に耳を傾けていただけたら。
その後、ノンノ・モアBOOKSは結局15号まで続いたのでしょうか。
昭和61年発行の「ノンノクッキングブック PART4 和食入門」までしか確認できませんでした。
もちろん私の手元にはありません。
恐らく『クッキング基本大百科』にまとめられてしまったんじゃなかろうかと思われますが、当時の事情をご存知の方がいらしたらぜひ教えてください。
あらためてこれらを読み直しながら、自分の編集姿勢を振り返ってみようと思います。
ありがとうございます。新しい本の購入に使わせていただきます。夢の本屋さんに向けてGO! GO!