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アンチテーゼ? ベテラン料理家の「手ぬき」本

コロナ自粛が始まった昨年から、料理はますます人気コンテンツになりました。
YouTuberが次々と本を出してヒットも続きました。
いずれも、テレワークや在宅を意識した「ラク」「手ぬき」「ズボラ」「2品献立」などのキーワード頻出本です。
聞くところによると、市場の販売データでも「手ぬき」だらけだったそうです。

毎日のことだから、できるだけラクしたい、手ぬきしたい、ズボラでも許して、2品作るから!
そんな料理を作る人の悲鳴が聞こえてきます。
手ぬき本のニーズが高まるのも当然かと思います。

そんなデータを反映してか、ベテラン料理家や、中堅どころの安定の料理家さんたちもこぞって、同じテーマで参戦しています。
書店で確実に売れるにはこれしかないのかと思うほどです。

例えば…

奥薗壽子さん『ちょっと作ってみたくなる 大人のかしこい手抜きごはん』(2020年9月刊)。

奥薗さんが「手ぬきごはん」ですか、とびっくりして手に取りました。
さらに2020年は若手がこぞって出していた一汁一菜ならぬ「2品献立」本が続きます。

あれこれ作らない、2品あれば十分!

市瀬悦子さんは『2品献立、はじめました。』(2020年10月刊)。

帯にある「忙しくてもちゃんと食べたい!」に共感する人が多かったはず。

この本の前に出た市瀬さんの『あるものだけで作れる平日ごはん』(2020年6月刊)は、恐らくコロナ自粛前に立てられた企画だったのではないかと思いますが、発売が6月と、コロナ自粛ですっかり疲れてしまっていた時期でしたから、とてもタイムリーでした。

大ベテランの大庭英子さんは『料理家歴40年プロが考えた 究極のはしょり飯』(2021年2月刊)。

はしょり飯と言っちゃうのかと驚いたんですが、「これでいいのよー!」という大庭さんの元気な声が聞こえてきそう。

石原洋子さんも『石原洋子の2品献立』をつい先日出版(2021年4月刊)。

ここまで来ると、おなかいっぱいな気分になります。

「さしすせそ」調味料が基本

しかし、です。
これら大ベテランの本をよく読むと、いわゆる「手ぬき」本とは一線を画すもの。

使われているのは「さしすせそ」の基本調味料だけ。
マヨネーズ、ケチャップ、ソース、オイスターソースは時々。
今どきレシピに頻出のめんつゆ、洋風スープの素(コンソメ)は不使用。
鶏がらスープの素はちらほら。決して何にでも入れるなんていうベタなことはしない。味の補強という程度の使い方。

それ以外は、にんにくやしょうが、ねぎといった香味野菜、赤とうがらしでピリ辛、ハーブや海藻、乾物といった味の出る食材や香りの油を組み合わせて、多彩な味を作り出しているのです。
加工食品にありがちな砂糖や動物性脂質、グルタミン酸ナトリウムといった脳内快楽物質を無理やり分泌させるレシピではありません。

ものすごくシンプルです。
もちろん食材も少ない。
だから茶色い画像が続きますので、めちゃめちゃ地味です。
たまーにトマトや赤パプリカの色が映えるぐらい。

繰り返し作るから早い、ラク

でも、家庭料理ってそういうものですよね。
わざわざ「ラク」とか「手ぬき」と言わずとも毎日作るものだもの、少ない調味料で旬の食材で安価に、は基本です。

調理方法だって、フライパンだけ、鍋だけは当たり前。でも、ベテランはふたを上手に使います。かたい野菜やサッと下茹するならレンジの力を迷わず借りて。ポリ袋で下ごしらえも当たり前です。
「手間を省く」ための探求、そしてブラッシュアップに余念がありません。

その上で石原洋子さんは「2週間の献立」を提案していますが、「これだけあれば十分」と言い切ります。
(夫であるホテルオークラ元料理長の根岸規雄さんの本でもそうおっしゃいます)

繰り返しでいい。
マンネリでいい。
我が家の定番があればいい。
できるだけシンプルな調理法で。
味のバランスを大切に。
地味だけど滋味のある食卓を。
結果、簡単でラク早になるのだから。

そんなメッセージがベテラン料理家の本からぐいぐい伝わってきます。
世界一でもなんでもない家庭料理の本、おすすめです。

ありがとうございます。新しい本の購入に使わせていただきます。夢の本屋さんに向けてGO! GO!