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人生音痴 不良小学生編

〜ボクはこうして成功した。までいけるのか〜

“198X年という名の世紀末”

時は198X年…

なぜこんな書き方をするのかというと、ボクの育った町は世紀末のような環境だったからだ。

ボクが最初に手にした肩書きは“不良

なぜこんな肩書きになったのか?
それはおかんが言った
あんた男の子なんやから、やられたらやり返し!
の一言だった。
未だに「あんなこと言わんかったらよかったなぁ」と後悔していると語る。

当時、礼儀やマナーにだけはうるさかった母親の教育で、ボクは廊下に並ぶ時や体育館に座る時は、ピシッと背筋を伸ばして正座をしていた。

こう説明するとめちゃくちゃ教育ママ的なイメージになると思うがそんなことは一切ない。

「犬が欲しい」とねだると
「あんた、オモチャとちゃうねんからあかん!どうせお母さんが散歩せなあかんようになんねん!」
と一括され、ゲームをしていると
「目、悪なる!ファミコンするんやったら、1日1時間だけにし」。みたいな。
“昭和のどこにでもいるおかん”という肩書を持ったおかんだった。
勉強しなさいって台詞は一度も言わなかった。
その代わり、約束と時間は守りなさい。嘘はつきなさんな。とかは耳にタコができるほど聞かされた。

 話を戻すが、入学当初は何かと校内の案内や説明とかで、よく廊下に並んで待たされることが多かった。
そんな時、幼稚園出身のボクに対して保育所出身の悪ガキがバカにしてくる。

おい!こいつ正座しとんぞ〜
と言ってみんなの笑いを誘う。

保育所出身の悪ガキ2人組チーチチョンだ。
初日から保育所でも有名だった悪ガキ2人に目をつけられたのだ。

 学校の勉強が始まってからも、隙を見てはちょっかいをかけられた。
 算数の時間「おい!こいつのタイル、“ゆう”って書いてあんぞ」とボクのタイルを取り上げるのだ。
ボクには3つ上のおねぇちゃんがいて、タイルはおさがりの物だった。

「うぇ〜い、うぇ〜い」

と小学校の時にしか使わない擬音を発しながらパスしてまわす。
ボクは必死に「ちょっとやめてーや、もうかえして」と取り返そうとする。


バンッッッッッッ!!!

黒板を強く叩いた音が教室中に響く。

騒がしかった空気は一瞬にして凍りつく。

コラッ!さっきからごちゃごちゃうっさい!
男言葉で声を荒げる女の担任。

授業中やぞ!廊下に立っとけ、小西!

『いや…ボクじゃないです!!』
そう返す勇気も出ずに黙って立ち上がり廊下に出た。

ボクは言葉にならない怒りを噛み締めていた。
こんなの理不尽だ。
教室の窓の隙間から笑い声が聴こえてくる。
「ケラケラ」「ケタケタ」と笑う何人かの声が旋律を奏でる。不協和音に戦慄が走る。
教室に戻ったら、またからかわれるんじゃないか。

キーンコーンカーンコーン

そんなことを考えているとチャイムが鳴った。

ガラララガラ

「こら、みんなに迷惑でしょ!次から静かにしぃや」

真っ先に教室から出てきた担任が捨て台詞だけを吐いて職員室へと向かう。

『何があったんや?て、聞いてもくれへんのや』

そんな不満がボクの中に募る。

チーチとチョンは一瞬ボクの方を見てヘラヘラすると特に構わずに廊下に出て行った。
その間にボクは散らばったタイルを拾い集め、そのままゴミ箱に捨てた。

 色白でビートルズヘアの弱そうなボク。
生まれつき色素が薄いせいか髪の毛も目の色も茶色い。
よく大人の女の人がボクを見て「うわぁ綺麗な肌やな、白いなぁ代わってほしい」なんて言ってきたもんだ。
そんなボクはターゲットとして、うってつけだったのだろう。他となんとなく、どことなく違う。
それだけで、そんなことでいじめに繋がっていくのだ。

 その日、家に帰ったボクはおかんに、これからはおねぇちゃんのおさがりとかはやめてほしいと話した。
するとおかんは「なんかあったんか?」といつもと違う様子のボクに言った。
ボクは算数の時間に起こったことを説明した。

するとおかんはボクに

あんた男の子なんやから、やられたらやり返し!

と意外な言葉を言った。
慰めて欲しかったのか、もしくは可哀想に。と同情して欲しかったのか、自分がどんな反応を求めていたのかはわからない。が、その言葉は意外に、しかもすんなりと自分の中に染み渡っていった。

確かにあんな担任には期待もできない。
大人には頼れない自分でなんとかするしかないのだ。

 次の日も休み時間になるとチーチとチョンは案の定ちょっかいを出してくる。
「ちょっとついて来いよ」
「うん、何?」と嫌なこととわかっていたが、断る理由もなく仕方なく2人について行く。

運動場まで出た所で2人は立ち止まって
「おい、キョンシー
キョンシーというのは色白のボクを表現するのに、当時これ以上ないあだ名だ。
「お前、あっこから飛べ!」
と指を差す。
そこには教壇が置いてあった。
どうやら、そこからフェンスに飛び移れというのだ。

「いやや」

ボクは言い返した。
この一言をいうのにも相当の勇気が必要だった。

「はぁ、俺らがやれっていうたらやれよ」
もちろん2人はそんなことで引くはずもない。

「なんでそんなことしなあかんねん!」
ボクはさっきよりも、もう少し勇気を振り絞る。

でも、2人の肩書は“ガキ大将”そんな事を言われてもひるむはずがない。
「最後やぞ、飛べって言うたら飛べ!」

「嫌やっていうてるやろ!」

「キョンシーが!調子に乗んなよ」

「飛びたかったら、お前らが飛べば…」
ボクの言葉を最後まで聞かず、チーチがいきなり殴りかかってきた。
顔面を殴られたボクは思わずよろける。
チョンはボクの後ろに回り羽交い締めにしてきた。
2対1だ。
でも、ボクの心は折れなかった。
ここで闘わないと一生こいつらの奴隷だ。
羽交い締めにしてきたチョンに体重を預け、体を宙に浮かして向ってくるチーチに蹴りを入れる。
チーチが吹っ飛んでる隙に今度はチョンにおもっきり後ろ向きの頭突きを喰らわせる。
あ''ぁ~
鈍い音と同時にチョンは悲鳴を上げ鼻血を出しながら倒れ込む。
うわぁーーー
凄い勢いでチーチが突進してくる。

ドンッッッ

その勢いに吹っ飛ばされてボクは倒れ込み、マウントを取られてしまう。
「コラッ、オラッ」
とボクの顔面にパンチを打ってくる。
幸い、ボクは押さえ込まれる時に両手を解放していたためパンチを両手で防ぐことができた。
が、そう長くはもたない。
ボクは両足をチーチに巻き付け、振り子の勢いを利用して身を翻してマウントを奪った。
そしてチーチの顔面にラッシュを入れた。
「ご、ごめん、ギブ…」
涙目でチーチはボクにそう言った。
最初の1発でチョンは既に戦意を喪失していた。

ボクは初めての喧嘩に勝利したのだ。

どうやら、ボクには喧嘩の才能があったみたいだ。

思い当たる節がある。

はじめの一歩(ボクシング漫画)が
家の手伝いで釣り屋さんをしていて、普段から重い荷物を持って船で働いていたのでバランス感もパワーもあるのと同じように

頭文字Dの藤原拓海(走り屋漫画)が家の手伝いで豆腐の配達をしていたから、どんなにスピードを出しても豆腐すら崩さない繊細なレーシングテクニックがあるのと同じように

小さい頃から実家の畳屋を手伝っていたから、重い畳を運んだり、畳を持って素早く動いたりしていたから鍛えられていたのだろう。
うん、きっとそうだ。家の手伝いをしてるやつは強くなるパターンに当てはまったのだ。

いったいどれくらいの時間を闘っていたのだろうか、気がつけば野次馬に囲まれていて、すぐに先生もやってきた。
「あんたら、何があったん?とりあえず保健室に移動するわよ」。と連れられた。

事の詳細を説明すると、泣いているチーチ、鼻血を出しているチョンが被害者となった。
2人が「遊んでたら喧嘩になって、小西君に殴られました」と説明したのだ。
「小西、殴ったらあかんやろ!」
「先に手を出してきたのはこいつらや」というボクの主張はただの言い訳として受け流された。
でも、ボクは続けた
「2人がいつも嫌なことをしてくんねん!」
「違う!僕らは一緒に遊ぼうと思って誘っただけやし」
「うそつくな!お前らが…」
「もうやめなさい!」担任が割って入る。
「2人は怪我してるのよ!嘘つくわけないでしょ!あなたこそ、嘘つくのやめなさい」

『え?なんで?』
ボクは嘘なんてついていない。
本当のことを言ってるのはボクやのに。
全く理解ができなかった。
怪我するということはそんなに偉いのか、泣いていたら被害者なのか、ボクだって擦り傷くらいある。
心も体も痛い思いをしている。

「さっ、お互い謝って終わりにしなさい」
担任はボクたちに仲直りを促した。

「ごめん」
2人はすぐに謝ってきた。
ほら、2人はちゃんと謝ってるで、あんたも謝り」
担任は2人の頭を撫でながら言った。
この「ほら」に無性に腹が立った。
あたかも「私のいう通りでしょ」といわんばかりの言い方に。

それから少し間をおいて
「ボクもごめん…」
担任のいう通りだ。

ボクは嘘をついた。

それからしばらくして担任が代わることとなった。
退職。したのだ。
理由は保護者の間ですぐに噂として回っていた。
どうやら不倫をしていたらしい。
不倫が原因で退職。
彼女の肩書は教師ではなく“不倫女”。
こんな女にボクは…オレは道徳を習っていたのか。

嘘はつくな、と。

よく、自分の中で何かがガシャンと音を立てながら崩れた。なんていうけれど、そんな前触れもなく、ただただ無音で無機質に、この時に“不良”になったんだ。

ここから喧嘩三昧の生活が始まることとなった。



【あとがき的なこと】
いじめっ子の2人はもちろん仮名でして
今回はアップインスモークという映画のキャラクター
(カルト映画/ミュージカル・コメディ)
チーチ&チョンから拝借させて頂いております。
ラリってる2人、ぶっ飛んでる2人のコメディです。
Tシャツなんかのデザインにもなっててファッショナブルで可愛い2人組みなんです。
保育所の悪ガキ2人も小1でこんな悪いヤツおんねや。みたいな2人だったので、ぶっ飛んでる繋がりで
チーチ&チョンと名付けさせてもらいました。
では。またねぃ。

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