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『エルピス』終わりましたね ”狂わずにいるためには、狂わないといけない”

【9話】
ラスト、村井の乱暴狼藉が最高。希望そのものだったな。この作品のタイトルは『エルピス ~ 希望、あるいは災い』。つまり、災いは希望にもなりうるんだよね。

あの大暴れは浅川の嘔吐や岸本の家出とかと同じ意味合いなんだけど、年月の分だけ鬱屈が大きいのか、バブル世代の馬力なのか、むざむざと大門女婿を死なせた己への不甲斐なさなのか、たぶん全部なんだろう。

彼もまた懲戒免職となり書類送検くらいされるのかと思うと暗澹とするが、シーンとしてのカタルシスがすごくて浅川と同じくらい泣きたかった。

【最終回】
麻生太郎にも似た(というか明白にそれをモデルにした)巨大権力の闇のパワーを向こうに回しながら、どうやってドラマの風呂敷をたたんでいくかというときに、「希望とは、誰かを信じられること」「目の前の人を信じられる喜び」「逆に、信じられないことの苦しみ」という半径5mスケールの気づきをターニングポイントにもってくるの、めちゃくちゃわかる!!!と思った。

結局、身近な人間同士、信じあえるよう相互努力しないと、大義なんて達成できない。個の尊厳が土台。

反対に、斎藤は浅川を説得するために、「大きな話」を語り続ける。
有力者が失脚することで政界に走る激震、国際的信用の失墜、株価の暴落‥‥それらが人々に及ぼす影響を「はかりしれない」という。

確かに、正義感をもって必死に語ってる。斎藤にとっては切迫した危機感なのだ。でも、その話から想起されるのは顔のない大衆だけだ。

「君も俺も、この国という体の中の、小さな細胞の一つなんだ」と言う。

なんて象徴的なの。母体(全体)が死んだら、個々の細胞は生き延びられないってわけよね。だから、母体のために尽くすべきだと。
これぞ全体主義!

私たちは国という体の小さな細胞のひとつじゃないよ。ひとりひとりが、自分という名の王国をもっていて、その主なんだよ。誰にも侵されてはいけないの。
それが、歴史の星霜で多くの犠牲を払いながら獲得してきた、人類の知恵なんだよ。「人権」っていいます。
Love Yourself、Speak Yourself ね。(BTS脳)

同期の滝川が言う「浅川は頭がおかしくなった」は、2話の浅川のセリフ(モノローグだったかな?)
「何もかも捨ててから自分がどれだけ狂っていたか気づいた」の反転だね。狂った世界では、正気の人間がまるで狂っているように見える。

斎藤だけが浅川の正気を見抜いたうえで、浅川を見て「ゾッとした」と言う。ということは、斎藤は正気なんだ。でも、すごい怖い顔だった。君の顔のほうがゾッとするわ!(鈴木亮平すげー!!!)

つまり‥‥正気なつもりでも、いつのまにか狂ってしまうんだと思う。斎藤はもう狂いかけてる。

国家という母体のために、個人をちっぽけな細胞とみなして切り捨ててしまう‥‥そんな仕事に手を染めていると、たとえどんな志高い大義を掲げていても、狂ってしまうんだと思う。斎藤は斎藤の大義で闘ってるんだけど、その大義を語る言葉の空虚さよ‥‥。

浅川が斎藤の闘い方にNOと言えて良かった。
斎藤から差し出した握手で終わるのもよかった。バックハグでも、頭ぽんぽんでもなく、互いに苦みを飲み込んだ握手。

ただ、依然として国家権力(大門≒斎藤)のほうがずっと強いし、なんなら、取引することで、浅川も権力に迎合した部分もある。。。

ラスト、大門どころか斎藤すら全然温存されてるのに、全開の笑顔で牛丼大盛り食べてていいの?
‥‥って ちょっと思いかけたけど、浅川たちも生身の人間で、数人で世界を変えることはできないし、これからも心身元気でないといけないからな‥‥闘いは続くから‥‥

水すら飲みこめず吐いてた浅川が笑顔で牛丼をばくばく食えるようになったのは、巨悪を根こそぎやっつけたからではなく、目の前の人を信じ、目の前の人に信じてもらえる行いをできたからなんだね。

斎藤という「強くて魅力的な悪」に抱かれるのではなく、ポンコツおぼっちゃんの岸本たちと信じあって進む道を選べたから。

浅川「(オンエアまでに)連絡しといて」
岸本「誰に?」
浅川「みんなに!」
その「みんな」は、斎藤がいう顔のない群衆ではなく、それぞれに生活と人生がある「個」で、泣けた。

とにかく、浅川が「記号としての女」じゃなくてちゃんと人間で、脚本演出、そして長澤まさみありがとうよ‥‥

斎藤との対峙、そのあと岸本制作のVTRをとりに来るとこ、放送終了後の狼狽っぷりとか、ほんとよかった。ビンタも!
定食屋でうとうとして、牛丼の一口めちゃくちゃ大きくて。

今、日本のドラマでいちばん評価が高いくらいの「鎌倉殿」ですら、お話自体がどんなにおもしろくても女たちが記号っぽいことにモヤモヤしてたから、浅川や岸本の人間らしさにほんと救われた。村井もね。

実在の事件や、未成年の保護、デリヘルなどの扱いについては、いろいろ危ういものも感じたが、とにかく、こんなドラマが作られて、6年の格闘の末、最後まで放送できてよかった。見られてよかった。

つか、眞栄田郷敦ほんとにすごかった。最終回も、長澤まさみの硬いとこ補ってるくらいすごかった。(岸本んちで、浅川が泣いて叫ぶのを絶句して聴いてるくだり。受けの芝居がすごい!)

「努力っぽいことして正義っぽい気分になりたいだけですよね」ってセリフもすごかったな~。

Twitterのほうでもいろいろ感想つぶやいてたら、あるツイートが突出してプチバズってるんだけど、確かに、バズったツイートも私の本心なんだけどさ、なんかちょっと「努力っぽいことして正義っぽい気分になりたいだけですよね」って気分にもなる。ドラマやSNSで怒ってガス抜きするだけじゃ、現実変わらないからね。。。

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