『달려라 방탄 Run BTS 』走れ、という美学
踊らないどころか本人たちの顔すら出ないのに、リリース2か月で4,200万viewを超えているBTSの「달려라 방탄」(英訳は「Run BTS」)。
デビュー10年目を迎える彼らがどんなグループなのか、3分半で端的にわかる佳曲!
「タリョラ=Run=走れ」というのはBTSのコンセプトのひとつだ。
思うに、この曲における「Run」のメタファーには2つの意味がある。
ひとつは、スターダムに乗る前からの「とにかく走り続ける」というハードワークと前進の意思。
もうひとつは、2017~8年以降、K-POPの頂点に立ち世界でも頭角を現したことのメタファー「飛翔=Fly」の対比としての「地べたを走る」ということ。
今をさかのぼること10年あまり、彼らがデビューする前からこの曲の物語は始まる。
ソウル、ノンヒョン洞。
学校が終わると入る事務所からの電話。
「今すぐ行きます」と返事をし、「どうか追い出さないでください」と心の中で祈る。
練習生の中からデビューメンバーに選ばれるかどうかは、事務所の胸三寸。
今でも夢に見てはぞっとするくらい、緊張と不安の中で過ごした10代の日々‥‥。
初期は練習室も宿舎も小さなものだった。
「雨漏りする作業室で 薄い焼酎を飲みながら身の上話なんかして」
「成功したら全員ぶっ殺すぞ、と誓った」
国連やホワイトハウスでスマートな姿を見せ、今や「優等生」のイメージすらある彼らだが、10年前は、何も持たず何者でもなく、ただ血の気の多い少年たちだったのだと想像するとぐっとくる。
ちなみに、この「ぶっ殺すぞ」的な言葉遣いが審査にひっかかり、韓国のテレビではこのままの歌詞では歌えないらしいが、そんなことは承知でこの言葉を選んだのだろうと思うと痛快。
「10年待って、どん底から這い上がってきたんだ」
「言いたいことがあるなら言えよ」
「生き急げというなら 早く死なせてくれ」
青春を夢と仕事に捧げてきたという自負をもつ彼らは、
世間の揶揄やdisなど歯牙にもかけない。
「バンタン(=BTS)の成功の理由? んなもん知るかよ」
「夢中で走ってきたんだ、なんと言われようと」
「答えはそれだけだろwww」
そして、自分たちの軌跡をこう描写する。
「ちょっと俊足の7人のmate(仲間)」
「二本の素足が俺たちのガソリン」
頼りになるのは仲間と脚だった、と。
その「愚直さ」は、クラシカルなコード進行を使ったビートにもあらわれている。
EDMなどトレンドを貪欲に取り入れてきた彼らが、古いロックのような シンプルなビートで歌うのは新鮮だ。
この曲のボーカルのディレクションがどんなにエモいか、
ファンだけで味わうのはもったいないので、以下かんたんにシェア!
そもそもBTSの構成は、ボーカル4人、ラッパー3人。
もともと、過激な社会批判も辞さない鋭い観察眼と表現力、アイドル離れしたラップと楽曲制作の実力で、デビュー当初から音楽面をリードしてきたのはラッパー陣だった。
しかも、ラッパー3人は「ヒョン(兄)ライン」でもある。
(韓国は今なお年齢による序列を重んじる文化をもつ)
しかし、ボーカルの4人はラッパーにおんぶに抱っこでやってきたわけではなく、デビュー後も努力を続け、それぞれの音楽観を確立しつつ今なお進化中。
この曲でも、それぞれのアグレッシブなテクニックを堪能できる。
ラップラインのほうはといえば、
先述の「ぶっ殺すぞ」を含め、SUGAは相変わらずラッパーらしい悪態をつき、
j-hopeはメンバーひとりずつの名を呼んで「おつかれ」と歳月の苦労をねぎらう。
曲のコーラス部分を担うのはラップラインで、
低くシンプルなベースラインに合わせて繰り返される
「Run bulletproof, run, yeah you gotta run」
のフレーズは、実直でどこかユーモラス。
(※bulletproof は「防弾」の意。BTS=防弾少年団 ね)
特に、このコーラスを2番目に担当するSUGAに注目してほしい。
古い車がエンジンを吹かしながら走っていくような、
ふてぶてしくも安定感ある渋い節回しで出色。
やはり、BTSの音楽を下支えしているのはラップラインなのだと感じる。
ノンヒョン洞の練習室と宿舎からスタートした彼らは、
ファンに与えられた翼で時代の風に乗り、はばたきながらも、
気づけば予想だにしない高度を飛翔している自分たちに
「あとは墜落するしかないのでは‥‥」と怯えていた。
「たとえ数が少なくなっても、そばにいてくれるファンと共に【着陸】しよう。【墜落】ではなく」
と話し合ったそうで、
今般、ソロ活動に力を入れると決断したのも、それぞれに実力を伸ばしてチームに還元しその寿命を延ばしていこうというすこぶる前向きな意思だろうが、この曲『Run BTS』は、彼らのもうひとつの答えなんじゃないかと思える。
つまり、自分たちはいつだって地べたを走ってきたのであって
墜落して息絶えることなんかないのだと。
飛ぶより時間がかかっても、
汗をかき、血豆ができて、痛みに涙があふれても
(彼らには「血、汗、涙」というヒット曲がある)
一歩ずつ走るのが自分たちのやり方なのだと。
最後のサビを担当するリーダーRMは、
「Run bulletproof」 と繰り返されてきた歌詞を
「Run beautiful 」とアレンジして締める。
突如現れた【 beautiful 】という単語の鮮やかさにハッとさせられる。
走れバンタン、走れ 美しく。
その「美しさ」とはきっと、
数々の記録を打ち立てることでも
華やかなライトが当たる位置の中心を占めることでもない。
ただただ 前を向いて、止まることなく懸命に地を走り続ける。
それが、これからも変わらない自分たちの美学なのだと示している。
あみにさん、いつもすてきな日本語字幕動画をありがとうございます。
【追記】
2022年10月15日の公演@釜山で、ダンス付きのパフォーマンスが披露されました! ウリバンタンはやっぱり最高でした。
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