短編小説『石落としと消失』(織田作之助青春賞3次選考落選作)
巨大な石垣に惹かれた先で目にしたものは、青空の下で悠然と佇む金沢城だった。美しい城に、あの日の僕はただただ圧倒されていた。あの日以来、城は僕の瞼の裏に焼き付いている。戻ることもできなければ、多くの人々がそうするように、器用に先へと進むこともできない息苦しいこの日々を乗り越えたいつかの日に、僕はあの城とあの旅が僕に与えたものの大きさを懐かしむことだろう。
お気に入りの絵本を半分も読み聞かせないうちに、幼い娘は眠ってしまった。自分ではなく妻に似たことに心底感謝した二重の瞼は