全体説明

電話があった。
「お客さん、『本当に作れるのか』と言ってるんだけど、作れますよね?」
さすがに、我慢しきれなくて、吐き出したくなった。

お客さんと会った最初の頃に、説明を聞いた。
「こういうことをやりたい。」という説明があった。
例えて言えば、象の鼻の部分だとする。「細くて長いものを作って欲しい。」こちらは、そう理解した。
あぁ、それだけなら簡単だなと考えた。

次にプロトでその部分を見せる。そこで、先方がイライラしながら言ってきた。おそらくは今度は、冒頭の例えで言えば、象の足の部分をイメージしている。
「これは、太くて短くないと使えないだろう。なんでこんな作りなんだ!?細くて長いじゃないか!?」と。
こちらとしては、先方のイメージの中に、象の鼻と足があって、それぞれ別の説明をしている、ということをまだ理解していない。
「細くて長くて、太くて短いもの?どうやって作る?」

イライラしている先方の説明から、この場合はこうで、こういう場合はこちらの処理、というように、条件を切り分けて、それなりに理解した範囲で対応する。
この辺で、こちらからも「口頭ではなく、文書で仕様を出してもらえるとありがたいんですが。」とは伝えた。ただ、断片的な説明の返事しか返ってきていない。
できれば、業務フロウというか、処理の流れの全体説明を求めるべき、だったかも知れない。

そうこうして、そこまで仕上げたら、今度はおそらく、耳とか、牙をイメージしているのか、
「幅広くて平べったくないじゃないか。それに、尖っている部分がない。」
それぞれが別の処理だと、そろそろ理解してきた。流れ的には、こちらも、冒頭の例で言えば、鼻があって、足があって、耳があって、牙があるんだろうと、そこまでは理解して、それなりに作ってみる。

「なんで、耳の真ん中が鼻になってる?それに、牙が足から生えているのは、おかしい。お前何考えてるんだ!?」
そんなこと言われたって、「全体構造」の説明を一度もしてもらってない。文章で欲しいと言っても、断片的な説明しかない。

この辺から、先方が切れてきた。
「だから、最初から、細くて長くて太くて短くて平べったくて尖っているものを作れ、って、何度も言ってるじゃないか!?なぜ理解できない?馬鹿か。」(「馬鹿か」とは言われてませんが、そんなニュアンス。)

そろそろ、半分くらいはこちらにも伝わっている。
内心、「細くて長いパーツがあり、太くて短いパーツがあり、平べったいパーツがあり、尖っているパーツがあると、そこまではわかったけど、最初からそれぞれが別の処理だと説明して欲しかった。」と思う。

ただ、それぞれの位置関係の正確な説明は、まだない。こちらでの理解でそれぞれのパーツの流れの連携を試作して、また次に叩かれに行く、感じなんだろうなぁ、と思う。この仕事をして長い。かなり打たれ強くなっているつもりはあるけれども、どこまでメンタル的に持ち堪えるか、、、。

「細くて長くて太くて短くて平べったくて尖っているものだ」と聞いて、それで象の絵を描けるシステムエンジニアは、おそらく一人もいないんじゃないかと、私は思う。

文部科学省が、プログラミング教育だと称して、アルゴリズムを理解させようと試みているみたいだけれど、一番欠けているのは全体説明の能力じゃないかという気がする。システムエンジニアを教育するよりも、お客さんを教育して欲しい。

Aさんを教育するのに、例えばAさんに「絵」を見せて、AさんにはそれをBさんに言葉だけで伝えさせて、Bさんが果たしてその言葉だけで「絵」を再現できるのか、Aさんの伝達能力を鍛える。それをやって欲しいなぁ。
「細くて長くて太くて短くて平べったくて尖っているものだ」という説明だけで象の絵を描ける人は、まずいないと思う。象を飲み込んだ蛇、なんて、あれはお話の世界でしょ?

せめて、「前の方に細くて長い鼻があり、下の方に太くて短い足があり、」それだけだって、多少は役にたつ。ただ、その程度では象の絵は描けないと思う。聞き出すしかないんだけれども、あんまり根掘り葉掘り聞くと、「そんなこともわからないのか」って、逆ギレされちゃう感じで、聞き出すのも一苦労。

別に、教育してくれなくてもいい。システムエンジニアが「きちんとしたモノ」を作るためには、正確なシステムについての描写や説明が絶対に不可欠だ、ということだけは、世間一般の方々にも理解してもらいたいと思う。

昔の私だったら、「本当に作れるのか」の一言に、瞬間湯沸かし器が発動していた気がするけれども、さすがに慣れては来ている。ある意味、馬鹿にされるだけの人生ですからね。ただ、伝える側が「きちんと伝えていない」ことをほとんど理解してくれていないことには、毎度のことながら、なんとかならないかと思えてならない。

以上、愚痴、終わり。

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