見出し画像

想像するってことは、心を、想いを、寄せることだと思う。

2021/6/8 読書記録no.39「i」西加奈子

ずっと前に、友人が読んでいたのを思い出して、
書店で見つけたので、購入して、読んで見ました。

私はよく、「ジャケ買い」をするのですが、
この本の表紙は何を表しているのか全く分からなくて、
その答えが、本の中に隠されているのかと思うと、
読む前から、心がワクワクしました。

今日は、こちらの作品についてまとめていきます。


作品について。

シリアで生まれた少女は、アメリカでダニエルと綾子夫婦の養子となり、
アイと名づけられる。両親の深い愛に包まれながらも、
その環境をただ恵まれたものとして受け入れることができず、
アイは孤立感を深めていく。
その後、日本へ移住したアイは、高校の入学式の翌日、
数学教師の「この世界にアイは存在しません。」という言葉に、
強い衝撃を受ける--。


インタビュー記事。

インタビューの記事を読んで、
私が心に残った箇所を抜粋しています。
もっと読みたい方は、添付している記事をご覧ください。

「ミナちゃんは最初、違う名前でした。
でも途中でこれは”みんな”を表す存在だなと気づき、この名前にしました。ユウ君はもちろん、Youの意味ですね。この二人はすごく優しいでしょう。それは世界がそうあってほしいし、
誰か個人に対して自分たちが〝世界〟だとしたら、
自分も優しくありたい
からです」
「アイが自由やアイデンティティを獲得していくのを、
ミナが見守ってくれている。そしてアイも、ミナを温めることができる。
そういう場面を書きたかった。
最近では道徳の教科書に”あなたの自由がみんなの迷惑にならないように”
といった記述がありますが、
個人を大切にすると世界を愛せないわけじゃない。個人が世界という海で
自由に泳ぐことを見守ってほしいし見守りたい
んです。
世界と個人はもっとイーブンなんだよってことを、今の日本で言いたい。
特に小さい子たちの中に、”何かのためでないと存在してはいけない”と
思っている子がいるとしたら、
”もっと自由でいいんだよ”って言いたいです」
「人間は曲線でできているのに、人間が作るものは直線が多いですよね。
国境だって、ドーンと直線で引かれていたりするでしょう。
もっと柔らかくありたいなと思う。海って直線のものがないですよね。
母親の胎内も曲線ばかり。そうした柔らかな場所からもう一回生まれたい。この小説を書くことでそれを追体験したかった」
「私もシリア人でないしシリア人の友達もいないし、養子の友達もいない。それなのに書いていいのか迷いはすごくありました。
でも、やっぱり、愛があるかどうかが大事だという結論に至りました。
作家としての名声を得たいとかそんなことじゃなくて、
とにかく愛について叫びたい
ティム・オブライエンがベトナム戦争から生きのびて帰ってきたことを
書き、アレクサンダル・ヘモンがサラエヴォが戦火に遭っている時に
アメリカで生きていることを書くのは、
”生きている人しか書けない”からだと思うんです。
うしろめたさがあっても、愛にもとづいての行為であるなら、
表現者は絶対にやるべき
だと思う。誰かを決定的に傷つけることもあるし、許されないこともあると思う。でも私は書きたいんです。
この小説で、その決意表明をしたつもりです」

西加奈子さんの想いが、痛いくらいに刺さりました。
自由を求めるからこそ、孤独を感じながらも、
「アイ」は存在するということを、叫びに近い言葉で語っています。

この本は、すごい。



印象的な言葉。

P106 自分の意思を持つこと、自分の個性を持つこと、
強制されているように感じ、それに怯え、
社会から隠れるようにしていたあの時の自分を、
アイは今、思いっきり抱きしめてやりたいような気持ちになった。
P110 思いは胸の奥にはっきりとあり、
確実にアイを蝕んでいるはずなのに、「大人」になった自分は、
それをなかったことにでき、
同時になかったことにできる自分に、恥じているのだ。
P165 誰かのことを思って、苦しのなら、
どれだけ自分が非力でも苦しむべき
だと私は思う。
その苦しみを大切にするべきだって。
P284 渦中の人しか苦しみを語ってはいけないなんてことはないと思う。もちろん、興味本位や冷やかしで彼らの気持ちを踏みにじるべきではない。絶対に。でも、渦中にいなくても、その人たちのことを思って、
苦しんでいいと思う。その苦しみが広がって、
知らなかった誰かが想像する余地になるんだと思う。渦中の苦しみを。
それがどういうことなのか。想像でしかないけど、
それは実際の力はないかもしれないけど、
想像するってことは、心を、想いを、寄せることだと思う
P285 その経験をしていない人たちにだって、
私の苦しみを想像することはできる。自分に起こったことではなくても、
それを想って、一緒に苦しんでくれることはできる
。想像するという、
その力だけでその時は戻ってこないけど、でも私の心は取り戻せる
P297 私たちには分からないけど、分からないからこそ、
悲劇に想いを馳せて、考える時間が深くなる気がするよ。
その時間をきちんと過ごして、向かい合ったからこそ、
できることがある
と思う。それが、どういう行動に繋がっていくのかは、
分からないけど。どっちにしろ、それは生きてる人間にしかできない
P300 自分の想像力には限界がある。それは確かだ。
でも、だからと言ってその努力を放棄するのは間違っている


読み終わって。

正直、読み始めた時は、黒いというか、グレーのような、
どんよりした空気が漂っている入口だったので、
読み進めるスピードは、いつもに比べると遅い方だったと思います。

でも、その暗闇の中に光が段々見えるような気がして、
読むことに夢中になりました。


ワイルド曽田アイ。この女の子が、物語の主人公です。
アメリカ人の父と日本人の母を持つ、シリア人の養子です。
名前をつけるときに、
父のダニエルは、アイという言葉が
日本語の「愛」に相当することを気に入りました。
そして、母の綾子も、アイが英語で「I」、
自身のことを指すことを気に入りました。

自分をしっかり持った愛のある子に育ってほしい
という想いを込めて、アイは「アイ」になりました。
何て素敵な意味、って、心からのため息が出ましたね。


人種、性別、出身地、肌の色、居住地、
家庭環境、学力、性格、体型、見た目、髪の色、目の色、
数えればいくらでも出てくる「人」との違い。

それが自分にとって、どんな意味を持つのか、
どんなアイデンティティなのか、
日本人として生まれた私は、どう生きるのか。

世界中で繰り返されるテロや、災害、戦争など、
今もなお残酷な現実が溢れている、私たちが生きている世界。
でも、日本にいたらそのことを考える時間って少ないです。
でも、間違いなく同じ地球上で起こっている事実で。

その世界の中で、その同じ地球の中で、
私たちは一体、どう生きていればいいのか、
捉え方は人それぞれだと思いますが、
その答えを、この物語が教えてくれているような、
言葉では言い尽くせないくらい、
世界の残酷さや不条理を、色んなものを教えられた気がしました。

私は当事者じゃないけど、
その方々の気持ちを想像して、寄り添うことはできる。
苦しくなったけど、
でも、心の奥底から熱がジワジワと上がってくるような、
不思議で、素敵な本でした。


おりょう☺︎

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?