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Nemetschek徹底解説 - 売上700億円!ドイツの巨大建設テック企業にせまる -

今回は海外の建設テック企業解説の第2弾ということで、ドイツの巨大建設テック企業であるNemetschek (ネメチェク)に着目してみました。

あまり名前を聞いたことない企業かもしれませんが、建設業の人であれば「ArchiCAD」「Vectore Works」と聞けばピンと来る方が多いのではないでしょうか。

実はNemetschekはこれらサービスを提供する会社の親会社であり、複数の建設テック企業のホールディングス会社となっています。サービス自体の知名度は高いものの、企業としては日本でも殆ど知られてないNemetschekですが、調べてみると歴史や戦略など非常に面白い内容だったので、ぜひ最後まで読んでみてください。

① 数字で見るNemetschek グループ

売上高:596万ユーロ(前年度比 +20.7%)
従業員数:3,000人
顧客数:60万人
グループ会社:15社

Nemetschekの最大の特徴は、15社の建設テック企業が集合したホールディングスとなっているところです。そのためNemetschek自体は事業を持ってなく、決算などもグループ全体のものとなっています。

2020年12月の最新決算によると、売上はグループ全体で700億円を超えており、前回ご紹介したPROCOREの400億も十分すごいですが、Nemetschekの規模がいかに大きいかもわかるでしょう。 

グローバル展開もかなり進んでいるようで、全界で60万人を超える顧客基盤を持っています。米国はもちろんのこと冒頭にも書きましたが「ArchiCAD」や「Vector Works」など日本でも既にデファクトスタンダードになっているようなサービスも存在しています。

事業の特徴としては、複数の独立したグループ会社がそれぞれのサービスを展開していることに加え、M&Aを積極的に行いセグメントを広げていくことを繰り返しており、設計から施工さらには設計前のコンサルから、施工後の維持管理までテクノロジーで幅広く建設業を支えるサービスを有しています。

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売上の比率はサブスクリプションが6割、ソフトウェアのライセンスが3割となっています。NemetschekのソフトウェアはCADなど高い単価で売れるものが多く、アップデートなどで定期的に購買するモデルなため、長い目で見ればサブスクリプションに近いものとなります。この安定した事業ポートフォリオにより、ここ3年間は20%を超えた成長率を実現しています。

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Nemetschekの歴史は古く、1963年にとある研究者によって設立されていますが、今ではグループ全体で3,000人を超える従業員規模となっており、世界中の建設テック企業の中でも間違いなく最大規模と言えるでしょう。

② 建設テックのコングロマリット

Nemetschekの最大の特徴はなんと言っても、異なるセグメントを対象とした15のグループ会社からなる建設テックのコングロマリットを形成しているといった点でしょう。

それぞれが独自のサービスを展開していますが、どのような企業があるのか一挙に紹介していきたいと思います。

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・Graphisoft
Nemetschek Groupの中でも抜群の知名度を誇るのは、ArchiCADを展開するGrapisoftではないでしょうか。日本でもBIMソリューションにおいてAutodeskのRevitと双極をなすサービスであり、ゼネコンを中心に使っている会社も数多くあります。むしろGraphisoftがNemetschek Groupの1社と言うことに驚いた方もいるのではないかと思います。「Empowering Teams to Create Great Architecture」を掲げており、ArchiCADの他にBIM CloudやBIMxなど多くのBIM関連ソフトウェアを展開しています。Nemetschek Groupの中でも代表的な中核企業です。

・Vectorworks
こちらも日本でもお馴染みのVectorworks。1985年に誕生してからAutoCADと共に
汎用CADとして多くの設計者に活用されています。Vectorworksは設計するものに応じて特化型のCADも出しており、Vectorworks Spotlightはエンターテイメント用のステージなどの設計に特化しているなど、幅広い構造物を支えるソリューションとなっております。こちらもNemetschek Groupの中核企業の1社と言えるでしょう。

・Solibri
日本でもBIM元年と呼ばれる2009年ごろからモデルチェッカーの代名詞として有名となったSolibri(当時はSolibri Model Checker)を展開。3次元モデルにおいて、部材同士が干渉していないかだったり、ルールに基づいて設計されているかなど、さまざまなチェックを自動化します。BIMを持つEMETSCHEKとしても非常にシナジーの高いソリューションかと思われます。

・Bluebeam
超高機能の図面ヴューワー Revu を提供。日本でも代理店を通じて数年前から展開をしていて、私も触ったことありますがとにかく高機能。図面を高速で閲覧するような技術はもちろん、図面を中心にどのようにプロジェクトを効率よくマネジメントするかといった視点でCAD並に機能がついています。こちらもBIMやCADを展開するNemetschekとしてもシナジーの高いソリューションです。

・Allplan
BIMの拡張ツールを提供。施工フェーズでBIMモデルを扱う場合、ハンドリングが非常に大変だったりしますが、Allplanではそれらを統合モデルとして扱うための機能を有しています。

・Crem Solutions
不動産管理をデジタル化するiX-Hausと言うソフトウェアを提供。日本で言うとプロパティデータバンクが当たるかと思いますが、こちらも数十年にわたり展開していて老舗企業となっています。

・DDS
電気工事用のCADであるDDS-CADを提供。リリースはなんと1984年と言うことで、長年特化型CADとして使われてきているようです。

・dRofus
主にBIMを活用したプランニングツールを提供。特に公共施設のプランニングに長けていて、複数ファイルを統合し管理できるようなコラボレーション機能が中心のようです。

・FRILO
主に構造設計社用に100を超えるソフトウェアを提供している企業です。数多く分析や解析が必要となる構造設計者に対して、ワンプロダクトではなく複数のソフトを組み合わせて課題解決を行う受託とサービサーのハイブリットの事業を展開しています。

・Maxon
提供しているCINEMA 4Dは日本でも使われており、ポリゴンやNURBSを用いたモデリング、レイアウト、キャラクタアニメーション、物理シミュレーションなどを備えています。主に3D / 4Dソフトウェアを得意とするNemetschek Groupの中でも建設テック色は薄めな企業です。

・NEVARIS
工事現場における施工管理アプリ「NEVARIS Build」を提供しています。Nemetschekの中で唯一フィールドワークを対象としたものであり、モバイルアプリがメイン事業となっています。

・RISA
構造設計エンジニアが設計業務で活用するRISA-3Dを提供しています。米国の設計事務所トップ25社のうち24社が活用しているようで、多くの建物がこのソフトウェアで設計されています。

・SCIA
建物の解析用ソフトウェアを提供しています。温度や気流などの環境から、構造的な部分まで幅広く解析可能な機能を有しているようです。

・SDS2
鋼材を活用した設計に特化したソリューションを提供しています。一部AIを活用しているようで、おそらくですがファブリケーターが活用するソフトウェアだと予想できます。

・Spacewell
名前の通り空間をより良くするためのソフトウェアを提供しています。BIMやCADなどを取り込み、その空間がどのぐらい住みごごちが良いのかであったり、IoTも通じてリアルタイムの管理などを可能としているようです。

以上、多種多様ではあるものの、BIMやCADソリューションを中心に据えて、その周辺領域に広げていく成長戦略を取っていることがうかがえます。

③ 成長の秘訣はMittelstandという思想

Nemetschekの最大の特徴は繰り返しになりますが、複数の建設テック企業が独立した状態で様々なサービスを提供していると言う点です。建設業向けということで、かぶる点も多々ありそうなものの、なぜこのような形をとっているのでしょうか。

一般的にドイツ語圏(および英国)で成功を収め、経済の不況にも耐えうるユニークな製品を持つ中小企業群のをMittelstand(ミッテルスタンド)と呼んでいます。

実はNemetschekもこのMittelstandの精神を掲げ、建設テックの集合体としてありつつ、起業家精神を損なうことなくそれぞれが独立して、一つの目標に向かって成長させていくと言う戦略をとっています。

また、長大かつ広大な建設バリューチェーンを見ると、それぞれが深い課題がある一方で、全てをカバーし切るにはワンプロダクトでは難しいと言う現状があります。Nemetschekグループも一社単位で見ると、被っている部分があるように見えるものの、実際はバリューチェーンの中で適切なポートフォリオ管理をしつつ、それぞれは小回りの効く経営体制にすることで、より1つ1つの深い課題解決ができるという構造になっています。

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これがNemetschekにおける最大の強みとなっており、高い成長率と新しいイノベーションを実現している源泉なのではないでしょうか。ある意味で建設産業の特徴を捉えた理にかなった戦略とも言えるでしょう。また、企業買収で伸ばしやすい構造であり、今後も自社ポートフォリオで足りないところはどんどん資金的なレバレッジをかけて投資していくと予想されます。

④ 研究者も兼ねたユニークなファウンダー

今では建設テックの中でも最大規模の会社に成長したNemetschekですが、その歴史は古く設立は1963年までさかのぼります。

創業者はゲオルグ・ネメチェク教授という大学の先生であり、1960年代後半には建設業界の技術的変化を予測し、様々な関連ソフトウェアを研究し自ら開発していたということなので驚きです。

設立した当初はエンジニアリング事務所であり、自ら建物のコンサルティングや構造設計などに携わっていたようですが、1977年に構造設計のためのソフトウェアを開発したことをキッカケに、現在の建設テック企業Nemetschekの礎を築いてきました。1999年には株式公開するに至っています。

2007年末には「Nemetschek財団」を設立し、建設産業における技術や研究の支援、教育、革新、学術生活の分野での慈善活動を行なっています。ミュンヘン応用科学大学土木工学部のために「ゲオルグ・ネメチェク教授基金」も設立したり、応用建設情報学研究所を立ち上げたりと、ドイツの建設業界において強い影響力を持っています。

ソフトウェア企業の創業者としては、建設のエンジニアであり研究者の顔も持つという点では非常にユニークなのでないでしょうか。現在も大株主でありNemetschek Group全体に大きな影響を与えているということで、現在のNemetschek Groupのイノベーションを牽引していると言えるでしょう。

日本において会社としてはほぼ無名なNemetschekについて取り上げてみましたが、調べてみるとMittelstandの思想に沿った戦略であったり、ファウンダーが建設技術者かつ研究者であったりと、企業としての沿革も非常に興味深いものがあったかと思います。

海外と日本では異なる点はあるものの、私たちPhotoructionもNemetschekと同じく建設バリューチェーンにおいて、オールインワンのソリューションになるべく開発を進めています。ぜひ興味のある方はお気軽にご連絡ください。


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