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デジタルゼネコンから見る。産業特化テクノロジーの進化。

この度、建設テックに関する本を上梓しました!(いきなり宣伝ですいません)

本書はデジタルゼネコン(Digital General Construction)をキーワードにデジタル化が進んだ結果、建設産業がどのように変化して行くのかを描いています。

建設業の成り立ちから建設テックの現代そして未来に至るまで、これを読めば建設産業のデジタル化の流れが概ねつかめる内容となっています。

特に建設産業に関係のある方に読んで欲しいですが、業界外の方も気軽に読める内容になっているかなと思いますので、ご興味ある方は是非お買い求めください。

今回のブログは本書で出てくるデジタルゼネコンが何であるかを、テクノロジーを提供する事業の目線で説明したいと思います。

建設産業に限らず産業特化型のITサービスがどのように進化していくのかも、あわせて解説していますのでぜひ最後までご覧いただけたら嬉しいです。

産業特化テクノロジーの型(フレームワーク)

私ですが前職は大手ゼネコンで建設現場の施工管理職として少し働いた後に、現場で使うITツールの開発や展開、それに付随するIT戦略の立案などに携わりました。

その後に株式会社フォトラクションを設立。建設業向けにクラウドサービスを提供する事業を始めることとなります。

そのため、短い期間ではあったものの建設業で使うITツールを「使う・買う・作る」といった全ての立場で仕事をしたことのある、非常に珍しい経験をさせて頂いたと思っています。

ユーザー、開発者、サービス提供者(事業者)、それぞれの視点で見ることが出来る中で、産業特化のテクノロジーは目指すべき3つの型があるのではと思いました。

サプライ型

サービス提供者が産業にテクノロジーを提供する。産業で働く人はユーザーとしてテクノロジーを利活用することで、業務の効率化や利益率の向上などのメリットを得る。

サプライ型

トランスフォーム型

産業の主たる企業がテクノロジー武装することで、デジタル時代に沿った事業体に進化し競争優位性を持つ。

トランスフォーム型

インクルード型

産業の主たる企業が実施しているコストがサービス提供者側に移動する。結果的にサービス提供者は、産業にとって必要不可欠な役割として機能する。

インクルード型


テクノロジーを提供する事業者としては、どの型を目指すかによって開発するプロダクトや、企業としてのメッセージ性が大きく変わってくるかなと思います。

サプライ型 - 事業者が産業にテクノロジーを提供 -

建設業であれば、設計で使う汎用的なCADソフトや、工事現場で使う施工管理アプリがこれに当たります。

事業として見ると、より多くの企業に提供したいため、比較的広く使えるような機能を盛り込んだプロダクト(製品)として提供することが殆どです。

開発の過程であればまだしも、特定の一社に深入りすることは基本的にないため、産業から見ると数多あるプロダクトのひとつといった見られ方になります。

これは、場合によってはエクセルなど、産業特化ではないプロダクトが競合になるのに加えて、企業としては新しいものほど ”使わない” といった選択をすることも出来てしまいます。

そのため、サプライ型でテクノロジーを提供する事業者は、産業に特化したニッチな課題を解けるプロダクトにしていく必要があります。

解きやすい課題や誰もが認識しやすい課題だけだと、産業全体のITリテラシーが上がっていく過程で、そのプロダクトではなくても良いということに成りかねるためです。

トランスフォーム型 - 産業の主たる企業がテクノロジー武装 -

DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉の通り、既存産業における企業がデジタル化を進めることによって、異なる事業体に変化することを示します。

コンサルやシステム受託などの企業も、1社に深く入ってDXを目指していくという点だと、トランスフォーム型のテクノロジーを提供する事業として見ることができます。

サプライ型とは異なり1社に深入りするため、産業におけるどの企業でも使えるプロダクトを開発して提供するといったことは基本的に実施しません

そのためサプライ型とは異なり、プロダクトを作って広く提供するといったことは基本的に実施しません。

サプライ型のテクノロジーを活用することでも、企業のデジタル化は進むのですが、良いプロダクト(類似したものも含む)は全員が使うといった形になるため、それだけで競争優位性を築くのは難しいです。

ちなみに、トランスフォーム型は産業の既存プレイヤーが変わるということに加えて、新しくゼロから立ち上げるといったパターンもあります。

建設産業でいくと、結果的にうまくいかなかったもののテクノロジーをフル活用して、建設業を再定義しようとした、米国katerra(カテラ)などがこれにあたります。
※Katerraについては是非、私の著書を読んで頂ければと思います。

また、サプライ型とトランスポート型の具体的な比較として、貿易テックのShippioさんとZenportさんの例をあげることができます。

2社はどちらもフォワーダーと呼ばれる自ら輸送手段を持たず、荷主と運送業者をつなぐ役割を果たす事業者に関するサービスを提供しています。

Shippioさんはデジタルフォワーダーといったフレーズで、自らがデジタルを駆使したニュータイプのフォワーダーということを打ち出しています。実際、サービスサイトを見るとフォワーダーとしてのサービス提供をしています。

一方でZenportさんはデジタルフォワーダーではなく、フォワーダーを支援するSaaSを提供しているというメッセージを出しています。

具体的な部分のキャプチャや引用は、私が想像で書きすぎても良くないため控えますが、両者のサイトを見比べてみると、サプライ型とトランスフォーム型の事業者の違いがよくわかるのではないでしょうか。

インクルード型 - 既存産業の新しいプレイヤー -

テクノロジーに特化した上で、産業にとって必要不可欠な存在になるのがインクルード型です。

私の著書「建設業の”望ましい”未来」で描いたデジタルゼネコンという存在も、このインクルード型のテクノロジーを提供する事業者のことを示しています。

産業にとって必要不可欠というのは、何も特定のソフトウェアが業界スタンダードになるという意味ではありません。

既存産業が価値を世に提供していくにあたって、必ず必要となる要素や機能があり、それが既存産業から溶け出しデジタルを得意としたプレイヤーに置き換わることを示します。

インフラだとAWS(Amazon Web Service)、ECだとShopify、決済で言うとPaypalなど、こういった事業を行う上で必要となるテクノロジーをサービスとして提供する企業がインクルード型としてあげられます。

これらは、既存産業にあった特定コストを吸収し、スケールできる状態にしています。AWSであればソフトウェア開発、Shopifyであれば店舗運営、Paypalであればそのまま決済といった形です。

これを建設産業に当てはめると、建物を建てるための設計や施工、そしてそこで行われる業務プロセスそのものが当てはまります。

例えばCADオペレーターというのは、まさに既存産業の中にもともとあった”作図”といった機能が溶け出した現象であり、デジタル化が進むと今度は自動作図が可能になります。

もちろん、設計者がいなくなるわけではないのですが、高度に進んだ自動作図が可能になれば、それを使わない手はありません。その流れが加速すると”作図”を専門に扱うテクノロジー企業が登場します。

“作図”がなければ当然設計はできず(これも今の生産フローだとですが)建設産業自体が成り立たなくなります。

CADオペレーターのトランスフォーム型と見ることも出来ますが、自動作図と人が実施する”作図”はまたサービスの内容が異なることが予想されるため、気づいたら自動作画を行うテクノロジー企業が建設業の一員となっているといった現象が生まれます。

これがインクルード型であり、デジタルゼネコンはデジタルを得意とした建設会社(正確には建設会社ではないのですが)というポジションを獲得することを出来る可能性があるという視点で見ると、事業者としてはサプライ型にもトランスフォーム型にもない魅力がインクルード型にはあり目指す意義は大きくあると考えています。

事業視点で見る3つの型の特徴

事業者視点で見ると、この3つの型は外から見ると同じ産業DXの企業に見えますが、以下のような絶妙な違いが生まれてくると思っています(意識している意識していないに関わらず)。

3つの型の特徴

念のためですが、この3つの型のどれが良いとか悪いとかという話でもありません。難易度が高いとか低いという話もないですし、儲かるか儲からないかの話でもありません。

単に事業者としてはどういった世界を作って行きたいか、そのために何を作って行きたいのかというような話であり、どの型を目指すとしても既存産業がデジタルの力で盛り上がることに関してはとても良いことだと思います。

また、事業を進めていく中で、途中で目指すべきポイントが変わるということもあるかと思います。

繰り返しの宣伝で恐縮ではありますが、著書「建設業の”望ましい”未来」では、サプライ型からインクルード型まで、建設産業における過去、現在、未来を描きました。

産業DXのひとつの型としてぜひ、他産業の参考にもなるかなと思いますので、ぜひ読んでいただけたら幸いです。

また、当社フォトラクションはサプライ型ではあるものの、中長期的にはインクルード型を目指して事業を進めています。

登る山はまだまだ高くやるべきことも山積ですが、共に働く仲間を積極的に募集しています。

ぜひ建設DXに興味がありましたら、求人へのご応募、面談の問い合わせなどして頂けましたら幸いです。

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