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【往復書簡 エッセイNo.12】一人っ子の「調整役」は続くよ、どこまでも。

うららちゃん、こんにちは!

お母さんの本心をお父さんのいないところでうららちゃんに吐露されるのは、うちも同じ気がします。お母さんが妻としてお父さんを前にして話すことと、娘であり、あるいは心の友であるうららちゃんに話したくなることは、時にまったく違うことがあるのかもしれないですね。

今回は、とあるできごとを巡る「気持ちの収め方」について思い出したお話をお届けします。


一人っ子の「調整役」は続くよ、どこまでも。

母からの着信は、いつだってドキッとする。
「何か起きたんじゃないか?」そう思ってしまうのだ。

最初の声色で、その電話の内容が「さわやかなお願いごと」なのか「ちょっと聞いてほしいお困りごと」なのかがおおよそ分かる。そして、話す時間が短くて済むか、長くなりそうかどうかについても。

ある日の電話は、明らかに長くなりそうな内容だった。
マンションの1階に住む両親は、庭に洗濯や布団を干しに出るが、父が庭に出た時に、3階か4階あたりから、丈の短い物干し竿が落ちてきて、父が激昂したという。

「マンション1階あるある」だが、意図せず洗濯ものやいろいろなものが落ちてくる時があり、暗黙のルールとして、ビニール袋に落下物を入れて、1階の踊り場の柵に「落としもの」と書いた付箋と一緒に結びつけておく。

でもさすがに、物干し竿はすぐに落とし主が取りに来られ、玄関口で謝罪されたそうだが、父の気持ちは収まらず、問い詰めてしまったという。

その落とし主は、お母さんが体調を崩してしまったため、急きょ実家に帰ってこられた娘さんで「洗濯ものを干そうとした瞬間に、手が滑って物干し竿を落としてしまった。本当に申し訳ございませんでした。」とお詫びを伝えられたとのこと。しかも、お詫びの品までいただいてしまったという。

母は困ったように「その娘さんのお母さんのことはもちろん知っていて、心から謝っていらっしゃったので、なんだか申し訳なくて『もう気にしないでくださいね。』って言ったのよ。物干し竿が急に落ちてきてお父さんが怖かったのは分かるけど、わざとじゃないんだから。」と話す。

聞けば、その娘さんは私より10歳ほど若い方で、仕事をしているため週末だけ実家を訪ねては、家事を手伝っているようだった。あれこれと家事をして、気が焦って洗濯を干さなくてはならなかったかもしれない。それで手を滑らせてしまった先がよりによって、あの父。ガミガミと言われて、娘さんは疲労がどっと出てやしないか。落ち込んでしまっていないだろうか。

ああ、こちらの方こそ申し訳ない。
近所の小うるさい爺さんで済むならまだしも、父が怒りのストーカーとかにならないか、急に不安になり、今後のシミュレーションを母と話しながら考えてみる。

母には、その娘さんのお母さんに、お見舞いを兼ねて何か返礼をしつつ、父が言いすぎてしまったかもしれないので、どうか気にしないでくださいと早めに伝えに行った方がいいと提案した。

また電話の後に母にLINEをして、父に私からのメッセージとして読んでもらうように伝えた。
「確かに落下したのは危なかったと思うが、お相手もお母さんの看病をしながらのことだし、故意ではなくご丁寧な謝罪もいただいたので、もう気持ちを収めてほしい。」

父は、母の言うことを納得しないことが多く(特に機嫌を損ねた時ほど)、母からの「お困りごと」電話がかかってくるのだ。

そのたびに、私は3国間協議よろしく、母から言われたという空気を感じさせず、あくまで中立的に、時に父の怒りを鎮め、時に父にもの申す。

若い時は、この一人っ子の宿命のような「調整役」が大嫌いで、私のド直球のことばが父に向かい、父も見事に応戦して、本当に一触即発の父娘だった。母は常に間に挟まれ、やがて調整を諦めたけれど、今思えばご苦労をおかけしましたと反省。

父は私からのLINEを見て、何かを察したのか「今回の一件は理不尽なことではなかったから、もう怒ってはいない。本当に危なかったので怖かったんだ。」と私に伝えるよう、母に話したという。直接言ってくれたらいいのにと思うけど、父も私もそれなりに時間をかけて、腹落ちの仕方を学んできたのかもしれない。お互い、歳を取りましたねぇ。


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