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Peace - In Love (2013)

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8/10
★★★★★★★★☆☆


2009〜2012年、インディロックとは奇抜か実験的か高尚なものでなくてはならないという暗黙の諒解=限界がUSにもUKにも蔓延していた。飽和状態に達していたという肌感覚が残っている。

USはUKよりはまだマシで、Animal Collective, Dirty Projectors, Fleet Foxes, Deerhunter, Vampire Weekend, Beach House, The National, Bon Iver, Wild Nothingといった今でも生き残る実力派がヒット作を出していた。 ※狭量ロックファンからは「小難しく退屈なロックシーンを作った元凶」という的外れな指摘を受け、あろうことかそれが多数説になりつつあるが、因果関係が甘い。論理が飛躍している。せめて「小難しく退屈なロックシーンをひっくり返すようなバンドがその後登場しなかったこと」が問題と言うならまだ分かるけれど。

UKは重症だったように思う。US以上にエキセントリックなバンドが増えていたが、ほとんどが素人のアイデア一発勝負と言えるお粗末な内容のものばかりであった。Everything Everything, Wild Beasts, Bombay Bicycle Clubの作品ですら今聴くと小賢しさが先行してしまうのに、Late Of The Pier, The Mccabees, Egyptian Hiphop, WU LYF, Zulu Winter, Delphicなどでどう満足すれば良いのだろう? カウンターパンチとしてJake BuggThe Strypesが出てきたが、時代錯誤のジジ殺し以上のものでもなかった。

閉じた価値観の中、良い曲を書くことを忘れ卓のツマミをいじくり回し、いかに奇抜な音を作るか?に専念していた時期。いよいよUKロックの終焉を感じていた。

2013年にそれを打ち破ったのが、The 1975Peaceのデビュー作だ。The 1975はニューウェイヴ・シンセポップ・AOR、Peaceはブリットポップ・マッドチェスター・グランジと武器は異なるが、両バンドが生み出したインパクトは全く同じ。それは、「え、インディロックってこんなにポップでいいんだ」「え、恋愛とセックスについて歌ってもいいんだ」というシンプルな驚きだ。凝り固まったインディロックを完璧に解きほぐしたこの2バンドによって、2015年以降のUKロックシーンの盛り上がり(Royal Blood, Wolf Alice, Nothing But Thieves, Slavesなど)が生まれたと思っている。

なんせPeaceの「影響を受けたバンドリスト」にはこうある。The Beatles, Led Zeppelin, Nirvana, MBV…。単純である。だからこそ自己満足バンドに食傷気味になっていた2013年において、これほど突き抜けたインパクトを与えることが出来たのだと思う。

1曲目、"Higher Than The Sun"。MBV風の軋むギターが覆うが、メロディと歌詞は光に満ち溢れている。"tapping your teeth, shivering feet, boulevard got so bright"なんて歌詞、自称アートロックバンドには逆立ちしても書けない。

3曲目、"Lovesick"。なんと言っても"I don't wanna go to school. I just wanna be a fool. I wanna get lovesick with you"、である。音楽学校に通いインディ精神という貞操で自らを律していたバンドは、この曲がヒットしている時、何を思っていただろう。別にどちらが優れているかという話ではないが、時代には流れがある。

5曲目、"Wraith"。マッドチェスターと比べる声が多かったが、ミュートを多用し細かく絡む2本のギターとその音色を聴くに、これはFoalsに影響を受けたのではないか? Foalsの『Antidotes』と『Total Life Forever』はまさに革命と言うべきギターアルバムで、薄くリヴァーヴをかけたフロントPUの丸い音色を細かく精密に組み合わせる奏法は、その後のUKギターサウンドの大前提となったと言っても過言ではない。この曲のイントロもまさにそれ。

"Drain", "Waste Of Paint", "Toxic"なんてアホみたいにシンプルかつ豪快なメロディに笑ってしまうが、その「笑ってしまう」という感覚は実は重要で、「笑えない」硬直したインディロックばかり聴かされた耳にとってどれだけ刺激的で自由だったか。

単なる色物バンドでないと自ら証明したのが、最終曲"California Daze"だ。あまりにリリカルで繊細なリフから始まり、これ以上無いほど王道の美メロとギターソロを聴かせる「名曲」だ。"Were you born to live or born to die ?"というハッとさせる歌詞も入っている。

2nd『Happy People』では更に豪快で骨太でギラギラした方向に向かっていった。男根主義を嫌悪し、ナヨナヨした裸体を自らSNSに挙げ、髪をオレンジ色に染めるなどチャラさにも磨きがかかり、Mumford & Sonsとビーフを繰り広げるなど、名実ともにスターバンドへ上る雰囲気があった。また1stを90年代バンドと比較する声があまりに多かったせいか、"The 90's were cool, I've heard all about. The 80's were better, I've no doubt"と歌ってしまう向こう気の強さも魅力だった。

このバンドが残念だったのは、そこから3rdまで3年以上空いたこと、3rdは野心が消え失せた素朴過ぎるアルバムになっていたこと、ボーカル以外の3人(特にギタリスト)にあまり才能が感じられなかったこと、そして音に対する感性(先進性/向上心)が特に高くなかったこと、と思う。

The 1975と比べるとあまりにも大きく水をあけられてしまったし、ここからPeaceが復活するかというと分からない。それでも、2013年のPeaceの輝きというのは凄いものがあったということだけは間違いない。





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