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deathcrash 『Return』 (2022)

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10/10
★★★★★★★★★★


スロウテンポの上でクリーントーンの2本のリフを絡ませながら静かに始まり、徐々に熱を帯び、曲の後半で盛り上がり、また静かに収まっていく。何のことはない、ただそれだけ。スロウコアとして特に新しいことをやっているわけでもない。たまに轟音になるのが面白いが、全ては順列組合せの世界。

だけど、それがどうしようもなく胸を打つんだから仕方ない。真面目な話、一年ぶりくらいに音楽で感動した。丁寧に祈るように演奏される繊細なクリーントーンのギターが、弱々しく情けないボーカルによって紡がれる言葉の一つ一つが、言葉にならない感情を抱きしめる余白の多いドラムスが、すべて狂おしく胸に迫る。一曲一曲が宝物のように輝いている。こういう音楽を聴いては毎回アホみたいに感動していた大学生の頃を思い出すし、まだ自分にもこういう音楽を聴いて感動できる若い感性が残っていたんだなとも思う。

暗い部屋で俯きながらギターを抱える若者の姿が目に浮かぶ。実際に、理想とのギャップ、成長の痛み、そして身近な死について考えすぎてしまう若者による等身大の混乱と嘆きと叫びが、稚拙と言ってもいいほど率直に歌われている。「Trying not to feel there. If you gave me strength to know that...」「High above the bluest sky, the dark will all be mine...」I really didn't want to die, I really didn't want to die...」私も弱い人間で、普段はそれに蓋をして生きているが、このバンドの歌詞はその弱いところを突いてくる。

こういう音楽だけで私はいい。今年これを超えるアルバムに出会える気がしない。


どの曲も同じくらい良いが、"What To Do"はマジで泣ける。Mark Linkousのインタビューを流しながらのアルペジオとノイズは反則でしょう。シンプルな衝撃を受けた。

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