見出し画像

U2 『Zooropa』(1993)

画像1

9/10
★★★★★★★★★☆


90年代のU2は80年代のとき以上に鋭い批評精神を持っていたと思う。本作は全てが商業主義化するヨーロッパを動物園(見せ物小屋)に見立て、マーケティングとテクノロジーが人間らしさを抑圧する様子を描いている。自分が本当に欲しいものは何なのか、それを自分は本当に欲しているのか、それとも欲しいと思わされているだけなのか。テクノロジーと人間性の共存は可能なのか。その問いは、2022年にこそ説得力を増して響く。

そして、ここでのU2はそのシステムをこれ見よがしに糾弾するわけでもなく、自分もその一部だと自虐的な笑みを浮かべる。方向性の喪失と暗中模索("Zooropa")、感性の麻痺("Numb")、芸術性の減退("Lemon")、コミュニケーションの崩壊("Dirty Day")といったテーマが歌われる。80年代の頃のように焦燥を前面に出すことはせず、不気味な静けさだけが覆う。不可逆的な鈍麻に陥る直前の静かな足掻きのように聴こえる。

そんな中で光るのが"Stay (Far Away, So Close !)"や"The First Time"で、"個"と"個"への回帰を、やはり落ち着いたトーンで歌う。人間臭さに満ちた静かな喜びの歌は、驚くほどシンプルな感動を持って胸に響く。

最終曲"The Wanderer"でU2は不在となる。新聞を買いに行くと言い残し、金で舗装された魂の抜けた街(=Zooropa)を抜け出し、歌をほっぽり出してJohnny Cashに任せ、自らの足で神(=自分が真に欲するもの)を探す旅に出るのだ。この演出とストーリー性には流石に脱帽してしまう。

後から振り返れば、これがU2の最終到達点だったのだと思う。これ以降、ここまでの物語性と説得力を持ったアルバムを彼らは生み出せていない。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?