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The Jesus & Mary Chain - Honey's Dead (1992)

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総評: 4/10

彼らの底がはじめて見えた過渡期のアルバム、私は本作をそう捉えている。

もちろん、彼らは彼らなりに着実に進歩していた。"Teenage Lust"や"Sundown"のギターノイズは85年の彼らならもっと大きな音で鳴らしていただろう。でも92年の彼らには耳栓は必要無い。曲の良さを活かすためのノイズの使い方なら身に付けた。決して怠惰に垂れ流すことはなく、演奏・録音ともにしっかり管理されたスポーティさを以って、カタルシスと鎮静という両極端の狭間を何食わぬ顔で通り抜ける。

ただし注意したいのは、マッドチェスターとシューゲイザーの融合という本作のサウンドは、リリース時点で既にありふれたものとなっていたことだ。1991年には既にMBV, Chapterhouse, Swervedriverらが次々と個性的な傑作をモノにしていたが、本作のノイズやリズムはそれらと比べて新たなアイデアを提示するには至っていない。特にCurveのSteve Montiが9曲で叩いたドラムは、当時のテムズヴァレーリズムをそのままなぞった無表情・無個性なプレイにとどまっている。それらを踏まえると本作の音を高く評価するのは難しいだろう。

彼らのもう一つの魅力——優れたメロディが本作からは聴こえてこないことも、大きなマイナス要素だ。アイデア一発勝負の『Psychocandy』から驚きの豊熟を遂げた『Darklands』や、開き直って"大味の良さ"を存分に見せ付けた『Automatic』に比べると、明らかに曲のキレが無い。確かに、もともとソングライティングのバリエーションが多いタイプではないが、これまでの高揚感ある名曲を撃ち落とし地べたを這いずり回らせたような"Catchfire", "Good For My Soul", "I Can't Get Enough", "Sundown"などで満足することは難しい。

傑作揃いのディスコグラフィにおいて、その類稀なセンスが十分に発揮されなかった唯一の作品と考える。しかし、新たな魅力を放った次作『Stoned And Dethroned』の習作とも言える"Almost Gold"がひっそり収録されていることを見逃してはならない。このバンドは死にそうになると新たな方向性で戻ってくる。何度も何度も。終着点から始まったバンドだからこそ、終わらないし終われない。それこそが彼らの特異な魅力なのかもしれない。



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