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Black Foxxes - Black Foxxes (2020)

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総評: 8/10

イギリス・エクセター出身のロックバンド、Black Foxxesのサードアルバム。

セカンドまでは割と端正で正統派のUKロック/エモバンドだと思っていたが、本作で飛躍的な進化を遂げた。音が重い。一介のエモバンドが異形の進化を遂げ普通とは別ルートでグランジに到達したかのような、驚いてとりあえず一旦停止ボタンを押したくなるような迫力。

USオルタナティヴ由来のノイジーな激情と、UKロック特有の浸り切る耽美なエモーション。ディストーションと、クリーンなアルペジオ。それら2つの見事な融合だ。激ヘヴィな音の塊の中に、スッと現れる静寂。暴風雨が過ぎ去った真夜中の湖面に映る満月のような、あまりにエモーショナルな光景。

一方で、洗練された音像からは音響への強いこだわりも窺える。とりあえずギターで背景を埋めようといった妥協・逃げは一切無い。全ての音に意味があり、効果がある。録音/ミックスも極めて良好、整理された分離の良い音で激情を感じることができる。

歌詞はボーカル、Mark Holleyが抱える長年のメンタルイルネスについて。自分への苛立ち、周りへの苛立ち、苛立っている自分への苛立ち。負のスパイラルに陥り抜け出せなくなる不安と叫び。極めて個人的な内容のため"自分のためだけのレコード"と自嘲気味に語っているが、この嘘偽りの無い独白とも言える歌詞はかえって多くの人の共感を得ると思う。

ライブに特化しないと生き残れないため、脳筋化することを選び、スタジオアルバムでのアーティスティックな進化を捨てるバンドが多い昨今。ここまで高いレベルでエモーションと表現力を両立させた本格派のロックバンドが着実に育っていたというのは本当に喜ばしい。今世の中でチヤホヤされているバンドの大半を蹴散らす力、このバンドさえいれば他に何もいらないと思わせる力がある。相当凄いバンドだと思う。

2曲目、"Badlands"はいきなりのクライマックス。フィードバックノイズの中に強烈なボーカルが埋没していく。とてつもない迫力だ。大音量で聴いて一緒に埋没しよう。

9曲目、"The Diving Bell"も尋常ではない迫力。いかにもUKらしい耽美なメロディアスパート、アコースティックギターとトランペットによるシネマティックなパート、ヘヴィギター泣き荒ぶ激情パートが縦横無尽に入り乱れる。Brand NewやSunny Day Real Estateも成し得なかった"その先"を見せてくれていると言っても過言ではないかもしれない。文句無しのベストトラック。

4, 7といったメランコリックなメロディを軽快なリズムで聴かせる曲も素晴らしい。昔のSilversun Pickupsや、Placeboなんかも思い出させる。

5, 6, 8はメランコリックなアルペジオも交えながら重厚に迫る。暴発しそうでしないスリリングな展開には醒めた知性を感じる。

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