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Hatchie 『Giving The World Away』 (2022)

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7/10
★★★★★★★☆☆☆


Keepsake』(2019)同様、ありそうでないシンセポップが収録されている。80年代ニューウェーブというよりは90年代のマッドチェスターやデジロック的な、絶妙なメインストリームとのズレがあり、それが魅力になっている。

"This Enchanted"が全てを物語る。マッドチェスターのようなディレイをかけたピアノにワウギター。テムズヴァレーのようなリズムパターン。シューゲイザー的ギター/シンセノイズ。他にも、"Twin"はCocteau Twins譲りの虚ろな美しさを、"The Rythmn"ではビッグビートと呼ばれていたグループを彷彿とさせるようなリズムやシンセまで聴かせる。

いずれも、昨今のポップシーンではあまり聴くことができない要素。一歩間違えればダサい音になり得るそれらの要素をしっかり2022年のポップソングとして開花させる時点で、彼女のセンスがよく分かる。

もちろん、それを可能にするのもソングライティング能力の高さ。デビュー作にして"Without A Blush""Stay With Me"という名曲をものにした彼女の才能は同世代ではトップだと感じる。

本作の一番良い曲を10人に聞けば10人ともが"Quicksand"と答えるだろう。Sky Ferreiraへの曲提供やOrivia Rodrigoの制作パートナーとして知られるDan Nigroとの共作ではあるが、この曲のメロディの中毒性、無敵感、別世界感こそ彼女の最大の魅力だ。

シンプルなマイナーコードを巧みに織り込んだ"Twin"のコード進行はJapanese Breakfast顔負けの微妙なニュアンスを醸し、"Lights On"では二段階の強烈なサビが容赦なく襲い掛かる。しっかりラスト曲らしいラスト曲("Till We Run Out Of Air")を狙って書ける器用さも素晴らしい。

歌詞は自分の内面をネガティブな感情も含め正直に吐露したらしいが、目立つ言葉や表現は特に聞こえてこない。

尤も、ありきたりな正論をドヤ顔で振りかざす"疲れる"歌詞が溢れる昨今においては、むしろ曲に集中できて良いかもしれない。星空のような音を邪魔するものは何もない。



ゲスト参加したSwim Deepの新曲。Hatchieが歌い出した途端、切なく甘いポップソングに変わる。90年代UK最高のバンド=James並みの天性の才能を感じる。


本作未収録の2021年10月シングル。Jennifer Paigeの大ヒット曲のカバー。R&B風だがやはり徹底して90年代風なのがこの人らしい。


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