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Julian Casablancas + The Voidz - Tyranny (2014)

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総評 : 10/10


Julian Casablancasが関わったアルバムの中でダントツの最高傑作だと思う
のがコレ。なのだが、どうもこのアルバムはまともに評価されていないような気がする。

弱者から搾取する資本主義への憤り、The Strokesというバンドへの微妙な距離感、業界の人間への不信感、自身の生い立ちへの葛藤、そういったものが積もり積もって大噴火したのが本作。

何しろその爆発のエネルギーが尋常ではない。"Where No Eagles Fly", "Human Sadness", "Dare I Care", "Nintendo Blood"といった曲で見せる迫力は、これまでに私が聴いてきたどのアーティストのアルバムよりも遥かに壮絶なインパクトを残す。ギッタギタな音の上でボロボロになりながら喉が枯れるまで続くJulianのシャウト。狂気すら感じる。難しい言葉で語る必要はない。とにかく壮絶、その一言に尽きる。


話は変わるが、そんな本作が批評面およびセールス面で徹底的に無視されたのを見ると、ロックメディアの存在意義について疑問に思わずにはいられない。Metacriticでは66点。全米39位。こういうアルバムを年間ベストの100位にも入れないくせに「ロックは死んだ」とかよく言えるな。Julianは本作が全く評価されなかったことに衝撃を受け落胆したようですが、心から同情する。

だから、ロックが廃れただの、再び盛り上がっているだの、個人的には全くもってどうでもいい。中身がどんなに退屈でもロックアルバムが全英ベスト10に入っただけで大騒ぎする人がいるが、信じられない。むしろ本作や去年のMystery Jetsのようにチャート成績が全く振るわない名作も一定数出ている。それを聴き逃さずしっかり名作を名作として感じられるような、そんな感性を磨くべきだと思う。チャートのベスト10だけ見ててもロックは絶対分からないと思う。

私は「ロックが死んだ」のではなく、「ロックを受け入れる土壌が死んだ」のだと思っている。つまり作り手の問題ではなく聴き手の問題。ロックの進化を邪魔しているのは、本作のような真にエクスペリメンタルで真に感動的な作品をまともに評価できないメディアとリスナーの感性の死ではないか。Steven Wilsonの新譜(名盤)への反応を見ても本当にそう思う。ああいう本当の意味でプログレッシヴな作品を他でもないプログレファンが否定するだなんて、ギャグだとしてもまったく笑えない…。話が逸れてきた。

「ある音楽をもっともらしく語り評価するのに一番良い方法は、チャート成績とレビューだけ見て音楽そのものを一切聴かないことだ」とある海外のロックバンドが皮肉混じりに嘆いていたが、本作はその言葉が最も当てはまる作品かもしれない。「大して売れてないし大した評価されてないからどうせ大した作品じゃないんだろう」とまともに聴かないうちから思い込んでるリスナーが一定数いるのでは?と思う。ロック好きなら絶対に本作を聴いて、数々のレビューに踊らされず自分自身の耳で良し悪しを判断してほしい。宜しくお願いします。


↓Dare I Careは、Human Sadnessと並んで、Julianが作った全ての曲の中で最高傑作。この壮絶で感動的なメロディ。何物にも代え難い唯一無二の輝き。


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