Alfa Mist - Bring Backs (2021)
総評: 7/10
「ジャズとは排他的でなく包括的な音楽である」というハービーハンコックの名言。2021年にこそふさわしい言葉であることを強く感じさせる見事な独創性と冒険精神が、本作には宿っている。
ギター:Jamie Leeming、ベース:Kaya Thomas-Dyke、ドラム:Jamie Houghton、トランペット:Johnny Woodham。この4人を軸としたバンド編成はデビュー作『Antiphon』から続いている。Alfaとしても、新たな冒険を試すには機が熟したと感じたのだろう。前作『Structuralism』で一旦の完成を見た美しいサウンドを更に超え、辺境を押し広げようとする意志を感じさせる曲が並ぶ。
まず何よりギターが目立つ。Leemingが過去最も弾き倒している。少しコーラスを効かせたメロウなトーン。長尺のソロから細かなオブリガートにムーディーなアルペジオまで、隙のない見事なプレイだ。Alfaの要求するシネマティックかつ陰鬱な音を完璧に表現している。Houghtonも16ビート気味の細かなプレイを見せ、これまでになかった緊迫感と華やかさを加えている。"Teki"や"Run Outs"は、その2人の活躍がよく分かる傑作だ。
他の曲も粒揃いだ。ボサノバの如きアコギの爪弾きとKayaの歌がアンニュイな"People"、ギターノイズやフリューゲルが密かなスリルを生むネオソウル"Mind The Gap"、前作のシティジャズをより肉感的に発展させた"Coasting", "Attune"、メランコリックなラップとアルペジオが雨降るロンドンを思わせる"Organic Rust"など、確かな聴き応えがある。
隅から隅まで構築された完璧な前作に比べると、新たな試みが散りばめられていることにより、ラフで荒い作風になっている印象はある。だがそこにこそAlfa Mistの本気を見る。前作の世界を繰り返すことは容易いだろう。だがそれはしない。未だ見ぬ理想郷へ歩みを緩めることはない。
"Mind The Gap"にボーカルを提供しているLex Amorは、北ロンドンのラッパー。昨年10月にデビュー作『Government Tropicana』をリリースしている。トラップやグライムを基調としたトラックに、浮遊感あるネオソウル気味のサウンドと、ややレイジーなラップを乗せるのがデビュー作の特徴。
"Organic Rust"のドラムはRichard Spaven。Alfa Mistとは44th Moveというユニットを組み、2020年4月にEP『44th Move』をリリースしている。スネアの独特な鋭い音や、硬いのに微妙なズレの心地良いタイム感が印象的。
アルバムリリース日(4/23)に同時公開された、ロンドン・メトロポリススタジオでのフルライブ。アルバム版と若干異なるアレンジが聴いていて楽しい。ドラムはJamie HoughtonではなくJas Kayserという人が叩いている。
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